黒色中国BLOG

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【中国製二眼レフカメラ・海鴎4B研究】(1)なぜ今、海鴎4Bなのか

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最近、「海鴎4B」という中国製二眼レフカメラにハマっているのですが、日本でもそれなりに人気のカメラみたい?だけど、あまり情報がない。あっても、細かい情報が散逸していることが多いので、私の方で把握していることを愛好家の皆さんと共有するために、数回に分けてこちらに集積しておこうと思います。

【目次】

(1)海鴎4B…三枚玉の二眼レフカメラ

こちらのカメラは私が上海にいる時に買いました。たぶん40年ぐらい前に製造されたもの。中国国産の二眼レフカメラで、「海鴎4B」といいます。

以前、上海駅の向かいに、カメラ屋がたくさん入っているビルがあって、ヒマがあるとそこへ行って、中古カメラ屋をのぞいていました。

その時に、たまたま気の合った店主がいて、長話している内にススメられたのがコレ。元箱と説明書と立派な革ケースがついて、350元でした。

店主が私を口説き落とした決め手が、「このカメラは三枚玉なんだぜ」というもの。このカメラのレンズは3枚しか入っていません。

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一般的に、それなりのお値段のカメラにはレンズが4枚以上は入っている。実際、高級バージョンの海鴎4Aには4枚玉が採用されている。海鴎4Bはそれより1枚少ないから、「三枚玉」…英語では「トリプレット」と呼ばれるタイプのレンズになります。いわゆる「普及品」。または「廉価版」と呼んでもいいでしょう。

トリプレットのレンズは中央の描写はシャープだけど、周辺が微妙なボケ方をするので、その「クセ」を嫌がる人もいれば、「個性」として好む人もいます。

日本でもトリプレットの二眼レフカメラはかつてありましたけど、海鴎4Bと同様に廉価版のものでした。日本でそれらのカメラが作られていたのはかなり前のことになりますが、中国ではこれを1967年から1988年まで生産され、後継機の海鴎4B-1は、21世紀に入ってからもまだ作っていたとか。

だから、「三枚玉の二眼レフ」または「三枚玉の中版カメラ」で、程度の良く、なるべく新しいものを安く買いたい!という人にとっては(そういう変わった人が世の中に何人いるのか知りませんがw)、海鴎4Bはたぶん唯一の選択肢…になるみたいです。

私自身が、中国へ移住する前、日本での写真道楽で最後に行き着いたのが三枚玉だったので、三枚玉の二眼レフの程度の良い完動品…それがたった350元で手に入るとなると、やはり店主の誘惑を断りきれません。というより、前のめりで欲しくなって、つい買ってしまった…というわけでした。

(2)その他、海鴎4Aとの違い

レンズ以外の違いとして…

  • 海鴎4Aは、レバーでフィルムを巻き上げるタイプ。シャッターチャージもセルフコッキング。
  • 海鴎4Bの巻き上げはノブを回すタイプで裏蓋の赤窓をのぞいて目視でフィルム巻き上げをする必要がありますし、シャッターチャージは別途行う必要があります。

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▲下のレンズの向かって左側に見えるレバーがシャッターチャージ。

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▲フィルムの巻き上げはこのノブを回して行いますが…

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▲後ろの赤窓からフィルムの裏紙の数字をのぞいて、巻き上げを自分で止めてやる必要があります。不便ですよね。ただ、これが「大きなメリット」になっていたりもするのです。このメリットについては後述します。

海鴎4Aは素早く操作出来るため、主に記者や軍などの業務用途で使われ、海鴎4Bは民間用として生産されていたそうです。

私が留学していた頃に、中国のカメラ屋へ行くと、海鴎4Bがたくさん売られていました。中古だと250元ぐらいからあったかな。新品だと800元ぐらいだったと記憶しています。私の友人で新品を買った人もいました。そして、観光地などで中国人が海鴎4Bを使っているのを見かけるのも珍しくなかった。前にどこかで見た資料によれば、海鴎4系列は120万台ほど生産されたので(ABの区別は不明)、今も中国はもちろん全世界にも現存する個体が多いわけです。

(3)海鴎4Bのメリット

というわけで、海鴎4Bは

  • 生産台数が非常に多い…最近まで作っていたので、程度の良いものを見つけやすい。もし壊れても別のものを買えば良い。もしくは部品取り用にジャンクを買ってもいい。生産台数が多いのでジャンクも大量に出回っている。
  • 機構がカンタンなため、壊れる箇所が少ない…少々の不具合なら素人でも治せる?そのための情報や動画もたくさんあります。
  • 新品のレンズやフォーカシングスクリーンもネットで購入可能…素人でも交換はできるみたい。そのための情報もネットにある。新品の4枚玉のテッサーレンズも販売されており交換可能。
  • レンズは三枚玉でコーティングもされている…基本、海鴎4Bのレンズはシングルコーティングですが、後継機4B-1の最終型に採用された「SA-99」というレンズはマルチコーティングらしいです(これはまだ調査中です)
  • 安く購入できる…中版の実用的なカメラとしてはたぶん最も安い部類に入るはず。初期のものなら3000円台ぐらいから。後期のものなら高くて2万円ぐらい。
  • 軽い…ローライフレックス2.8Fなら1220グラムだそうですが、海鴎4B-1なら902グラムです。
  • セミ版も撮影できる…赤窓で目視確認しながら手動でフィルム巻き上げをするため、2種類のフォーマット…6x6と6x4.5(セミ版)が使えます。セミ版が使いたい人にとっては非常に大きいメリットです。そもそも今回私はセミ版が使いたいので、購入以後ずっと防湿庫に入れっぱなしだった海鴎4Bを、10数年ぶりに取り出したのでした。

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▲海鴎4Bの裏蓋を開けて撮影レンズを裏側から覗いたところ。この状態だと6x6の撮影になります。

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▲海鴎4Bにはこういうパーツがついてまして…

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▲これをはめ込むと6x4.5の撮影ができるようになります。

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▲フォーカシングスクリーンにはちゃんと6x4.5用の「線」が引かれています。

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▲フィルム巻き上げの際に裏蓋の赤窓で「12」の方で合わせれば6x6の撮影。「16」の方で合わせれば6x4.5の撮影になります。コストカットのために原始的な機構にしているわけですが、このために海鴎4Bは壊れにくく、小型軽量でもマルチフォーマット対応が実現しているため、今でも実用的で人気のあるカメラになっているみたいです。

(4)意外なことに素晴らしい画質

私が中国に留学していた頃、海鴎の二眼レフを使う友人がいましたけど、出来上がってくる写真を見ると画質がいま一つ…中国のカメラ雑誌でも作例を見たこともあるけど、やっぱりちょっとガッカリ…な画質でした。

当時の私は海鴎の二眼レフの画質が悪くても、中国で大量に出回っていることについて次のように考えていました。

  • 中国は精密機械や光学機器を生産する能力がまだ低いため、二眼レフみたいなものしか作れない。まだ豊かでもなかったので、「高性能・高画質」よりも、「とりあえず使える」ことが重視されている。
  • 中国産フィルムの質が悪いため、35ミリ判では充分な画質が得られない。だからブローニーを使用して、フィルムの大きさで質の低さをカバーしている。

今思い返しても、「当たらずとも遠からず」と思うのですが、いくつかの見落としがありました。

  • フィルムの質以外の問題として、現像もかなりいい加減で雑だった…当時中国でフィルム現像に出すと、ネガにホコリやキズがついていることが少なくありませんでした。そしてカラープリントもかなり色が悪かった。これは現像液なども使いまわしでちゃんと管理されていなかったから…印画紙も品質に問題があったのでは…と推測されます。
  • 印刷技術の低さ…私が当時見た雑誌の作例も、雑誌の印刷技術そのものがまだ低く、カメラやレンズ、フィルムなどの品質以前に、当時の中国では美しい印刷が無理だった。

だから、海鴎4Bについては非常にネガティブな印象しかなく、たまたま長話した中古カメラ屋の店主の口車に乗せらただけで買ってしまった「衝動買いの無駄遣い」だったのでした。

でも、たまたまちょっと気になって、Flickrにアップロードされている海鴎4B(英語名:Seagull 4B)の写真を見てみると…

▲絶句させられてしまいました。「本当にこれがあの海鴎4Bで撮影した写真なのか?」と。

ようするに今までは、昔の中国の質の悪いフィルムに、雑でダメなDPE屋、低質な印刷技術が重なって、海鴎4Bの正当な評価が出来ていなかった。ちゃんとしたフィルムで、ちゃんとしたDPEであれば、海鴎4Bは充分に美しい写真を撮れるカメラだったのです。

(5)いま、海鴎4Bを使う意味

去年の暮れから私はフィルムカメラへ回帰しているわけですが、デジタルカメラの場合、画質を追求してフルサイズだの中版デジタルだのと手を伸ばすと、ご予算は軽く何十万円から百万円以上になってしまう。それでも数年で機能は時代遅れになり、サポートは長くて生産終了から8年で打ち切り。修理も対応してもらえません。

フィルムカメラだと中古で安く機材が手に入るし、修理できるものもまだあるし、ブローニーフィルムを使って撮影する分には、画質も相当良くなる。フィルム代や現像・プリントの費用がかかると言っても、フルサイズや中版デジタルに大金をかけることを考えたら、フィルムカメラの方が初期投資+ランニングコストを含めても安い。大量に撮影するのならデジタルの方が安いのでしょうが、趣味でじっくり時間をかけて撮影し、高画質を追求する…のであればフィルムカメラでも充分かな…と。

そんなことを考えながら、海外や中国のネット情報を漁っていると、どうも私と同じことを考えた西洋人や中国人が結構いるみたいで、海鴎4系列が「静かなブーム」になっているのもわかってきました。

そういう経緯から、趣味の写真撮影における高画質とコスパの両立を検討した結果、ブローニーフィルムでセミ版(6x4.5)の撮影をするのがベストじゃないのかな…と考えました。

セミ版ならブローニーフィルムで16枚撮影できますし、タタミ一畳以上の大きさに引き伸ばしするわけでもないのだから、6x7とか6x9も必要ないだろう…という判断でした。

* * * * *

こうやって紹介すると、良いこと尽くめのように見える海鴎4Bですが(私だけでしょうかw)、いざ「実戦配備」しようとすれば、さすがに40年以上前に作られたカメラですから(基本設計は50年以上前ですし)、何かと手間がかかりました。

そのために、この数週間かなりの労力をかけて調べ物をして、やたらと買い物をしまくったので、この経験をそのまま埋もれさせてしまうのではなく、ネット上にアップしておけば、同じようなことを始めようとする人、既に始めてしまって壁にぶち当たっている人のために役立つのではないか…と思ったのでした。

中国のクラシックカメラ事情 (クラシックカメラ選書)

中国のクラシックカメラ事情 (クラシックカメラ選書)

 

▲中国のクラシックカメラに関する書籍としては唯一無二とも言える孤高の名著。海鴎4系列に関する記述も充実しており、大変勉強になりました。