今年こそは、写真を真面目にやろうと決意し、日々取り組んでいるのだが、早速ぶち当たった問題が雲台である。
去年末からすでに5つの雲台を入手しているのだが、その中で最も軽量コンパクトで使いやすいスリックの自由雲台SBH-100Nは、なぜかフレーミングをしてから締め込むと微妙にズレるのだ。
▲左が前期型の「SBH-100」。右が後期型(現行品)の「SBH-100N」
SBH-100には、前期型と後期型の2種類があり、後期型は末尾に「N」が付く。
同じ三脚に同じカメラを取り付けても、前期型のSBH-100でちゃんとズレずに固定出来るのに、後期型のSBH-100Nだと締め込むと微妙にズレてしまう。先に言っておくと、両方とも中古品を入手した。
▲前期型のSBH-100
SBH-100(N)の精度に関してネット上で調べてみると、安い割に非常に良いとか、ピタッと止まるという好印象の多い中で、ズレるとか個体差があるという説もある。
中古で買ったのがダメなのか。それとも元々アタリハズレがあるものなのか。
▲後期型のSBH-100N
そして普通に考えると、旧型のSBH-100の方が長年使われているはずだし、古いモデルなのだから、パーツが摩耗していたり、機構に問題があるのなら旧型の「Nなし」の方であり、新型の「Nあり」は摩耗も軽度で、機構も改良されているはずである。
そこで今回は、この2つを分解した上で、精度の問題が解決できるのかを検証してみました。
SBH-100Nはよく観察すると、かなり使い込まれていた
▲後期型のSBH-100Nはよく見ると、コルクが薄くなった上に割れていた。
ネット上でSBH-100の情報を調べていると、コルクが割れやすいとか、割れた…というのをよく見かけるけど、私が入手した中古品のSBH-100Nがまさしくそれだったわけだ。
▲そして、雲台の底を見ると周囲の塗装がハゲていた。もう一方の旧型SBH-100の方は、コルクに損傷なく、塗装のハゲもないので、たぶん私が入手した前期型はあまり使われず仕舞い込まれていたもので、後期型の方はかなり使い込んだものなのだろう。その結果、部品が摩耗したのか、調整が狂ってズレが生じるようになったもの…と考えました。
分解はカンタンでした。
▲SBH-100もSBH-100Nも、構造は全く一緒でロックレバーのネジ1本を外すだけで分解できる。
▲ロックレバーを外すと、こういう歯車のついたボルトが出てくる。これを回転させて抜く。
▲バラして全パーツを並べてみた。写真ではわかりにくいが、ボルトにはワッシャーが2枚入ってる。
極めて単純な構造で、ボールヘッドを包む受けのスロットが2つに分割されており、ボルトを締め込むことでスロットの隙間がなくなり、ボールヘッドと密着して動かなくなる。単純な構造ながら、ボールヘッドと受けのスロットの球面部分のすり合わせの精度には驚く。全くグリス切れの状態でも、それなりに動きは滑らかだったのだ。しかもこれって全部鋳物でしょう?地味な技術であるけれど、こういう高精度の製品を大量生産し廉価で販売できるのは、さすが日本の技術と思ってしまう(製造はタイでやってるそうだが)
▲もう1つ注意したいのは、下の三脚に取り付ける台座の部分。ここも、ロックレバーを締め込むことで、隙間がなくなって固定されるようになっている。
▲つまり、パーツの摩耗で精度が甘くなるとしたら、ボールヘッド側のスロット(写真では下)だけでなく、三脚へ固定する台座のスロットも、その可能性を疑う必要がある。そういえば、先程観察した時に、雲台の下側に塗装が剥げた箇所があった。あれは単にどこかに擦れて剥離したのか、もしくは落下させて削れたのか。
ボールヘッドの受け側は、グリスが全く残っておらずサラサラしていた。三脚に取り付ける台座側(写真では上)にはグリスが残っていたけれど、十分とは言えない程度に枯れていた。
▲そこで、まずは5-56で洗浄して(本当はパーツクリーナーの方がよいのだが、いま丁度切らしているのだ)汚れをよく拭き取り、それからグリスを塗りつけることにした。
こういう箇所に使うグリスは固めで揮発しにくい方が良いので、自転車整備用に使っているデュラエースグリスを使ってみた。かなり厚めのベトベトに塗り込んで、隙間がない程度にしてみた。これで締め込んだ時の微妙なズレが生じにくくなるはずである。
コルクの交換
▲薄くなって割れたコルクも交換することにした。もしかしたらここが微妙なズレを生じる原因になっているかも知れないし、コルクは非常に安くカンタンに手に入る。
▲カメラ店で注文すれば、1週間ぐらいで届く。値段は1枚330円(税込み)。
もしこれをご覧の方が注文するつもりなら、
https://www.kenko-tokina.co.jp/slik/images/4906752206331.pdf
こちらのPDFを御覧いただきたい。印刷してカメラ屋まで持っていくと確実である。
コルクの正式名称は「カメラ台コルク」。部品番号は「P387」である。
▲まずはキレイに清掃してから…
▲取り寄せたコルクを貼り付ける。コルクの裏面はこのように接着できるようになっている。白い保護紙を外せばすぐ貼り付けられる。
▲完成!実にカンタンである。この角度から撮影した写真が最もわかりやすいので、ここに書いておくが、スリックの自由雲台のカメラ台についている左右の突起は、カメラへの取り付け・取り外しの際に指をかけやすくしているのだが、これが非常に便利。素早く・しっかり回せるので、この突起があれば、クイックリリースは必要ないと思うほど。私はクイックリリースをあまり信用しておらず、かさばるし重量を増すものとして嫌っている。プレートをカメラの下につけっぱなしにするのもホールドした際に違和感があるので気に入らない。断然、アンチ・クイックリリース派なのである。
ロックレバー取付時のボルト調整が重要
今回、分解してグリスアップしてから、組み立てる際にわかったのだが、最後にロックレバーを取り付ける際のボルトの調整が重要なのだ。
▲赤色の破線で丸く囲ってみたが、ロックレバーを解除した際、本体側の突起とロックレバー側の「段の角」が合わさることでそれ以上ロックレバーが回転しないようになっている。つまりこれが「オフ」の状態。そこから締め込むことで、2分割された本体の内部で隙間がなくなり、ボールヘッドと台座が固定される。
ロックレバーの取り付けは本体の「突起」とロックレバーの「段の角」を合わせた状態で行うのだが、その際に、ボルト(上の写真では歯車がついているパーツ)をどこまで締め込んでおくかで、締め付け後の「精度」(隙間の余裕)が変わる。
ロックレバー取り付け前にボルトをキツめに調整していると、ロック解除の状態でもボールヘッドが動かないほど「遊び」がなく、台座も動きが悪く、ロックレバーで締め込めないほどに余裕がない状態になってしまう。
逆にロックレバー取り付け前にボルトをゆるゆるに調整していると、ロックレバーで締め込んでも隙間が空きすぎて、ボールヘッドはしっかり固定されず、台座もズレやすくなってしまう。
だから、ロックレバー取り付け前の「ボルトの締め具合」を何度も試して、自分の「ベストポジション」を見つけ出す必要がある。加えて、適切な粘度のグリスを使ってちゃんとグリスアップしておけば、オフの状態では極上の滑らかな動きになり、締め付け・解除の際の動きもスムーズである。
グリスアップ・ボルト調整の結果…
手持ちのSBH-100とSBH100Nの両方で分解、洗浄、グリスアップ、ボルト調整を行ったが、どちらとも新品並の動きが復活した。いや、正確に言うと私はこれらの新品を買ったことがないので、新品の動きがどんなものだったのかは知らないのだがw
問題だったSBH-100Nの締め込み時のズレは全く発生しなくなった。
私が愛用しているマンフロットの小型自由雲台に「#342」というのがあって、これは締め付けにも解除にも力をあまり必要とせずガッチリと固定し、長年使っても全くズレが生じない傑作なのだが、ちゃんとグリスアップ&調整をしたSBH-100(N)は、それに匹敵する。
※グリスについて注記しておくと、デュラエースグリスはあくまでも自転車用で過酷な使用環境にも耐えられる高性能グリスではあるものの、低粘度である。ボールヘッド側につける分にはまだ良いけど、もう少し高粘度の方が良いと思うし、台座側に使うには低粘度すぎる。こういうのは個人の好みもあるとは思うが。少なくとも台座側は、もう少し粘度が高いグリスを探し出してつけてやろうと思っている。
マンフロットの#342は分割式ではなく、そもそもの構造が違う。一般的に、SBH-100(N)で採用されている分割式は精度が出ないとか、固定力が弱いと言われるのだが(※これは軽いカメラを使う分には関係がない)、SBH-100(N)はパーツの精度と耐久性が高い上に構造が単純で、面倒なのはボルト調整だけなので、それさえ面倒がらずにオーバーホールをちゃんと自分で出来るようになれば、これはかなり高コスパの逸品ではなかろうか…と認識を改めた次第である。
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