黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

「コオロギ=中国で避妊薬」説は本当か?

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▲昨日ポストした「コオロギ食」関連の記事に、

中国ではコオロギは「微毒」であり、避妊の薬として扱われてきたという

という一節があった。

実は、コオロギ食が話題になった当初から、この奇説はツイッターで話題になっていたそうだが、私は全然気づかなかった。

私は中国と長いお付き合いで、特に食文化系のことは、人一倍好奇心を持って接してきたのだが、この説は初めて聞くし、全くその理由がよくわからないので、その真偽を確認してみることにしました。

【目次】

出典は「漢方医学大辞典」

「中国でコオロギは避妊薬」説の出典については、ググると多数出てきますが…

元農林水産大臣の山田正彦氏の発言の中に

「私はコオロギについては食べるべきではないと思っています。漢方医学大辞典ではコオロギは微毒であり、とくに妊婦には禁忌だとされていますし、昔からイナゴや蜂の子は食べてもコオロギは食べないですよね。少なくとも私は食べません」

とありまして、この「漢方医学大辞典」が日本での出典のようです。

残念ながら、『漢方医学大辞典』は、私の住む場所の近所の図書館にはないので、記載内容の確認が出来ませんが、ネット上で見られる記載内容に関する情報を総合すると、

  • コオロギは微毒
  • 妊婦には禁忌

という2つが共通しており、とりあえず「妊婦には禁忌」としか書いておらず、「コオロギは避妊薬」説は別のところから来たみたいですね。

中国のネットでコオロギの薬効を調べてみると…

コオロギは中国語で「蟋蟀」と書きます。

中国では昔から「本草学」という医薬に関する学問があり、ありとあらゆる動植物の薬効や毒性が調べられ、『本草綱目』という本にまとめられている。

まず、コオロギの毒性やら避妊に効く?などが本草学的に真実であれば、それは『本草綱目』の中に記述があるはずですが…

▲こちらで見る限り、「微毒」やら「妊婦に禁忌」の記述はありませんでした。

『本草綱目』は明代の1596年に編纂された書物なので、それ以前にコオロギの「微毒」や「妊婦に禁忌」という認識がなく、後世になって追加された「毒性」なのかも知れません。

漢方の薬効がまとめられているウェブサイトで、コオロギを検索してみると…

▲こちらの最初の方に、

蟋蟀具有一定的药用价值,其性温,味辛、咸,具有利尿、破血、利咽的功效,主治水肿、小便不通、尿路结石、肝硬化腹水、咽喉肿痛等症状

蟋蟀には一定の薬用価値が備わり、温の性質を持ち、味は辛味と塩味があり、利尿、出血、喉の痛みに効果があり、主に浮腫、尿路閉塞、尿路結石、肝硬変による腹水などの症状の治療に使用される。

…とあります。微毒とか妊婦にNGとは書いてないどころか、薬効があるものとして認められている。

1つ注目すべきポイントがあって、それは「其性温」(その性質は温である)の箇所。

中国では陰陽の考えに基づいて、全ての食べ物は身体を温める性質と、身体を冷やす性質に分けられる。この考え方を「四気」という。中国ではこの考えに基づき、妊婦は身体を冷やさない方が良いから、身体を冷やす性質の食べ物は避けた方がいい…といわれる。だから、コオロギは漢方的には「冷たい性質」なんだろうな…と思っていたけど、実際は「温」の性質の方だった。

ところが、上掲の記載を読み進めると、下の方にある「使用注意」の項目に、

孕妇禁服。

妊婦の服用を禁ず

とあります。

これらの記載の全てが正しいとして、その上でも「妊婦には禁忌」という見解が出てくるということは、

  • コオロギに毒はないし、
  • 身体を冷やす性質でもないけど、
  • 妊婦の身体にとってよくない「何か」がある

ということになります。

コオロギの「微毒」の正体

じゃあ、「微毒」説はどこから来たのか。

中国のネットで、コオロギの毒性について検索すると、「コオロギに毒はありません」という記事ばかり出てくる。

「コオロギは食べられますか?」という検索をしても、「食べられます」という記事ばかり。

ただ、その内容をよく読んでみると、「微毒」説につながる2つの理由が浮かび上がってきました。

コオロギの種類によってアレルギーの原因になる化学物質を出す説

▲こちらの自動翻訳のスクショを貼り付けると、以下のとおりです。

つまり、たまにこういう種類のコオロギはいるけど、分泌される化学物質は微量だから、大量に接種しない限りは大丈夫、ということ。これだと「微毒」と言えますね。

コオロギの唾液に毒がある説

次に、子供がコオロギに噛まれたけど、毒はありますか?という質問。

こちらで指摘されている「コオロギの唾液に含まれる昆虫の毒」と、先程の「ある種のコオロギが身を守るために分泌する化学物質」が同じか別かは不明ですが、大人が大量にコオロギを食べると微毒でも体調不良を引き起こすのと同じように、身体の小さい子供がコオロギに噛まれる(唾液の毒が皮膚から直接体内に入ってきてしまう)と、量が少なくても体調不良を起こすかも知れない…ということですね。

そして、ここまで調べていると、次の記事を見つけました。

【コオロギの効能と作用および食用方法】妊婦が食べてもいいですか?

▲こちらの記事の中に、

▲という記述がありました。コオロギの毒性に関する中国のネット上の記事のほとんどが、「コオロギに毒はない」としつつも、こちらに「毒性が含まれており」とあるのは、先の2つを念頭に考えると、ある種のコオロギから分泌される化学物質や、コオロギが昆虫を食べることで唾液に含まれてしまう「毒」(正体はわからない)は、明確に「毒」と分類できる類のものではないけど、大人でも大量に食べたり、毒物への耐性の低い子供や胎児は少量でも健康に影響があるからやめておけ…と書いているように思われます。

私の推測ですが、コオロギを大量に食べたり、子供がコオロギ噛まれた場合や、妊婦がコオロギを食べた際の胎内への影響は、本草綱目が書かれた時代の本草学的では想定外で、単に「コオロギに毒はあるのか(結論はない)、どんな薬効があるのか」を記しただけに過ぎず、後世になってから、「微毒」が及ぼす影響が広く考慮されるようになったのでは…と思われます。

そもそも、「コオロギから作った避妊薬」は存在するのか?

ちなみに、「コオロギから作った避妊薬」も探してみましたが、全然検索に引っかかりませんでした。上述の情報を総合して考えても、コオロギの唾液に含まれる他の昆虫の毒が避妊効果を持つなら、そもそもその「コオロギが食べる昆虫」から毒素を抽出した方が手っ取り早く、一部のコオロギが身を守るために分泌する化学物質を大量に集めても、それが全く変質しない状態で「避妊薬」として保存するのは可能なのか…という疑問もあります。「コオロギから作った避妊薬」が見つからない現段階では、漢方医学大辞典に『妊婦には禁忌』と書いてあることから飛躍し、「不妊効果がある」と尾ひれがついて日本で広まったのでは…と想像します。

もし、「コオロギで作った避妊薬」について詳細をご存知の方がいらっしゃいましたら、当方まで情報をお寄せ下さい🙇