▲中国旅行の際、黒一色のレッキング・シューズを「万能靴」として長年愛用していたものの、こちらが生産中止になることで、代替品を確保する必要が出てきました。
ところが、最近は旅先でネクタイを締める必要が少なくない上に、LCCを多用するため靴は一足に絞りたい…というわけで、まずはスーツに合わせやすい革靴で、旅行に適したものを…と考えたのですが、そういえば1足ありました。
▲以前、香港で購入したチャッカブーツ。今回はこちらの靴の話をします。
【目次】
- チャッカブーツを選んだワケ
- 香港で靴を買うメリット
- 英国靴の伝統を受け継ぐ「香港靴」?
- 加水分解でソールが取れた(泣)
- セメンテッド製法の靴をグッドイヤー・ウェルト製法に
- 新品を買った方が安くないの?
- おまけ:旅行中の靴のニオイ対策
- 【追記】香港製靴メーカーMilan&Coの現在
チャッカブーツを選んだワケ
以前、中国でスーツを着てアチコチ移動しなくちゃいけない時に、靴で非常に悩んだのですが、ようするに
- 疲れない
- 歩きやすい
- 頑丈
…という3点に適う靴を探しておりました。
軽い靴なら疲れないだろう…と思ったらこれが間違いでして、中国でアチコチ移動したり、長い旅行をしている時は携行する荷物も多く、そういう時は重めの靴を履いた方が重心が下がるので良いのですね。軍靴や登山靴なんかに軽いのはない。それと同じ理屈です。
歩きやすさ…という点においては、ちゃんとソールが接地面にグリップして、滑らず、足の力がしっかりと地面に伝わる方がエネルギー効率が良くなるはずなので、ソールが滑りにくいものを探しました。プラス、硬い靴よりも柔らかい靴の方が足の動きに合わせて曲がるので、足に優しいだろう…とも考えました。
三番目の「頑丈」というのは先の「歩きやすさ」ともつながるわけですが、いわゆる一般的な「短靴」って、固いではないですか。履き口とカカト部分がカチッと固くて、紐で足の甲あたりを狭めて足に合わせているわけで。
くるぶしまわりに履き口があるチャッカブーツだと足を包み込むようにして、紐で固定するので、全体的に革は柔らかいのですね(物によっては違うものもあるかも知れませんが)。そして柔らかい革だとそもそも型崩れしにくい。何度も乱雑に履き脱ぎしている内に、カカトあたりが崩れてくる靴とかもありますけど、ああいうのは固いからこそ発生する問題だと思うのです。
だから、適度に重くて、足全体を包んで、革自体は柔らかいチャッカブーツがいいんじゃないかと思ったわけです。
それに、元々チャッカブーツは、ポロ競技に使われていたもので、今で言うところのスポーツシューズに相当します、だから動きやすい靴には違いなく、映画で007が履いているところを見ても、これは活動的な紳士の靴じゃないか…と思ったわけです。
▲十数年前に香港で購入したチャッカブーツ。もう10年以上履いていますけど、マメにブラッシングして、せっせと磨いていたのもあり、型は少々崩れたというのか、私の足の形に変形したと思うのですが、革はまだまだ元気です。
▲この靴の購入の決め手になったのは、履き口回りが膨らんで丸くなっているところ。これで履くのも脱ぐのも楽で、歩いている時に足に擦れて痛むこともないのです。
香港で靴を買うメリット
価格は確か、当時1200香港ドルだったかな。今のレートだと16700円ぐらいですね。これを安いと見るか、高いと見るか…ですけど、そもそも日本は皮革製品に対する関税が高くて、革靴だと最高で40%ぐらいの関税がかかっています。プラス消費税も入りますね。関税で日本製の靴が保護されているため、日本で革靴というのは、世界的にみるとかなり割高な価格設定になっています。もしこの香港のチャッカブーツを日本に輸入して販売すれば、単純計算で22380円(関税40%)+輸入業者の利益+消費税8%になります。
▲興味深いことに、ほぼ同様のスペックのチャッカブーツをリーガルで探すと、上記の計算と大体同じ値段になっております(^^)
香港はフリーポートなので、輸入品に関税がかかっていません。だから、香港製の靴も(少数ながら存在する)それらと競合できる価格設定になっています。私が購入したのは香港の地元メーカーのものですけど、なぜ高級輸入品が安く買える香港で、わざわざ香港メーカーの靴を買ったのかと言えば、欧州メーカーよりも、香港メーカーが採用しているラスト(木型)の方が、日本人の足に合うんじゃないか…と思ったからです。この狙いは見事に的中して、この靴は私にとってかけがえのない愛用品となったのでした。
▲チャッカブーツは一般的にラウンド・トゥーですけど、この香港靴はスクウェア・トゥーっぽい感じ。微妙に丸っこく、微妙にスクウェアみたいな。長年履き続けて足の形に崩れたのもあるんですけど、最初からこういう微妙な形の靴でした。たぶんこれって、足に合わせた無理のない形なんだろうな…と思ったのも、この靴を選んだ決め手でした。
▲前から見るとこんな感じです。
英国靴の伝統を受け継ぐ「香港靴」?
▲香港メーカーの靴って大丈夫かなぁ…と思いながら買ってみましたが、シンプルながらシッカリして細かいところまで気の利いたいい靴です。地面から水分を吸収せず、路面にしっかりグリップするように後で底にハーフラバーを貼りました。
▲もう摩耗して読みづらいですけど、「MILAN&CO」というメーカー名が見えます。これは香港の地元メーカーでして、昔コーズウェイベイのそごうの地下に靴売り場がありまして、その一角が香港メーカーのコーナーになっていたのです。数年前に行ってみたら、そのコーナーどころか、地下の靴売り場そのものがなくなってしまいました。MILAN&CO社はまだ存在するそうですけど。
香港の革靴メーカーは、英国植民地時代に始まった産業で、英国靴にルーツを持ちながら、華人の足に合わせて作っているんじゃないのかな…と推測しているのですが、詳細は不明です。機会があれば調べてみたいと思っているのですが。
加水分解でソールが取れた(泣)
以来、このチャッカブーツをずっと愛用してきたのですが、これって甲皮に接着剤でソールをくっつけた「セメンテッド製法」と呼ばれるタイプの作りでして、数年前に加水分解でソールがハズレてしまいました(´Д⊂グスン
私の足にピッタリ合う上に、思い出いっぱいの靴なので捨てる気にもなれず、ずっと靴箱に保管していたのですが、前回で述べたように、お気に入りのトレッキング・シューズが生産中止になったのど同時に、スーツ&ネクタイでも合わせられる旅行向きの靴が必要になってきました。
そこで、このチャッカブーツを思い出し、なんとか修理できないか…と考えたわけです。
セメンテッド製法の靴をグッドイヤー・ウェルト製法に
セメンテッド製法の靴は、履き古したら買い換えるしかない…とばかり思っていたのですが、ネットで色々調べていると、そうじゃないのがわかってきました。
▲詳細な方法についてはこちらをご参照下さい。
…というわけで、
▲古い靴底を剥がして、甲皮にウェルトを縫い付けてもらい…
▲ソールを縫い付けてもらいました!
▲ソールにはダイナイトソールを選びました。
ビブラム・ソールもちょっと考えましたけど、スーツに合わせる靴で流石にそれはないか、と。
ダイナイトソールはグリップ力抜群ですけど、見た目にはスッキリしてて、ビブラムソールのように「アウトドア」とか「タクティカル」なイメージはありません。それと、最近の007もダイナイトソールの靴を履いているそうでして、そういうのもワタシ的にはダイナイトソールに心動いた理由の1つでした。
▲ダイナイトソールは12個の円形の突起でしっかりを地面にグリップします。
▲横から見るとこんな感じ。円形は単なるトレッドパターンじゃなくて、立体的に飛び出しているのです。
▲カカトにも3つ。
▲元々は細めの靴紐がついていたのですが、細い靴紐は固結びになると解きにくく、かといって少し手加減して結ぶと解けやすいので、今回の改造前から太い紐に交換しておりました。見た目は野暮ったいけど実用性は高いです。
脱ぎ履きしやすいように、シングル結びにしています。
▲私が愛用しているのはドイツ製ペダックの丸紐。これは丈夫で、しっかり結べてほどけにくいです。
新品を買った方が安くないの?
この再生加工にかかった費用は約17000円程度です。
「新しい靴を買った方が安かったんじゃないの?元が1200香港ドル(約16000円程度)なんでしょ?」
…という意見もあるでしょうが、香港で買ったから安く済んだわけで、これって同等の靴を日本で買ったらもっと高かったんじゃないかな…と思うのです。
そして、香港で買った時はセメンテッド製法の靴ですけど、今回再生させたことで、グッドイヤーウェルト製法の靴に「アップグレード」しています。ちょっとググッていただければわかりますが、グッドイヤーウェルト製法のチャッカブーツって安くありません。
私の場合、かつて苦楽を共にしたこの靴に愛着があるから、値段の問題じゃなかったのですが、そもそもが日本の相場よりも安く買える香港で購入し、10年以上履いた後、17000円でグッドイヤーウェルト製法の靴にアップグレードしたような状態ですから、かなり「お得感」高いです。
それとこれまた不思議なことに
リーガルからダイナイトソールでグッドイヤーウェルト製法のチャッカブーツが出ているんですけど、こちらの定価が32400円になっています。つまり私の香港靴(16000円)+加工賃(17000円)と1000円違いです。靴の価格設定って、素材や製法で国際的な相場があるんじゃないか…と思ったりもします。
おまけ:旅行中の靴のニオイ対策
革靴で旅行に行く時に、ブラシと靴クリームを持参しています。ホテルに戻ってからブラッシングをして、たまにクリームを塗ってやるわけですが、そうやってお手入れをしてキレイにできたとしても、同じ革靴を毎日履き続けると、休ませることができず、汗がこもってニオイやすくなります。
▲そこで、私は香水を靴の中にかけるようにしています。一吹きで充分です。
香水はアルコールが含まれているので、殺菌してニオイを抑制できるのと、「香り」があるので、それでニオイをごまかせます。元々は旅先に携行していた香水に目を留めて、「これでニオイを誤魔化したらいいんじゃないのかな?」と気づいたのが使い始めのキッカケでした。
香水はいままで何種類か試してみたんですけど、カルバン・クラインの香水は柑橘系の爽やかな香りで、革靴に合います。携行しやすい小瓶のタイプもあるので(上掲のものがそれ)、旅行向きというのもあります。今まで何度も旅に持っていきましたが、瓶が割れたことはありません。
このライフハッキングは旅行以外でも使えます。自宅でも靴を磨いたら、中に香水を一振りスプレーするようにしています。靴箱って独特の嫌な臭いがありますけど、香水のお陰で、我が家の靴箱は扉を開けると、爽やかな香りが漂うようになっております(^^)
【追記】香港製靴メーカーMilan&Coの現在
このブログ記事を書いた後で、香港に行く機会がありましたので、Milan&Coの現在について調べてみました。
http://www.milanshoes.hk/address.htm
▲実は公式のウェブサイトがありまして、そこに販売店のリストがありました。
▲緑の看板(Milan 米蘭)が目印の香港製靴メーカーMilan&Coの販売店(ジョーダンの支店)
そこで、ネイザンロードにあるお店とコーズウェイベイのそごう(6F)に入っているお店に行ってみましたら、確かに今も革靴の販売をしているのですが、私が再生させた靴を見せたところ、「このモデルはすでに作っていない」とのこと。「昔は手の込んだ良い靴を作っていたけど、今はそういうのはもう作ってない」とも言ってました。
現在店頭に並んでいるのはどれも簡素なもので、低価格帯。店員さんの話をネットの情報などと合わせてみると下記のようになります。
- 私が購入した10数年前からMilan&Coは大陸で製造を行っていた。
- つまり、香港の製靴会社だけど、10数年前から既に「香港製革靴」のメーカーではない。
- いつ頃から大陸に生産を移したのかは不明。
- それほど売れているような様子も見られない(私の感覚です)
- 現在は輸出で儲けている?
- クラークスのコピーみたいな製品がいくつかある。
- 大陸でも売られている。
- 私が購入したのは「クラシックライン」というもので、以前はトラディショナル・デザインの、本格的な作りの製品があった(今はない)。
- 低価格帯でカジュアルな感じの、悪く言えば安物専門のメーカーになってしまい、以前のような質実剛健な革靴はつくってない。
Milan&Co以外の香港製革靴メーカーもあたってみましたが、見つかるのは廃業したニュースや、大陸製の販売に切り替えた店ばかりで、芳しくない結果となりました。
また香港へ行く機会がありましたら、「幻の香港製革靴」を探してみようと思います。