黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

「ガンダム」の中国語訳が複数乱立している事情と中国での商標登録の件

SPONSORED LINK

▲こちらのツイートで、

中国タイトルは『機動戦士高達NT』

…とありますが、「ガンダム」は中国語で「高達」(ガオダァ)と言います。

でも、戴いたリプライの中で、別の中国語表記もかつてあった…という指摘があり、そういえばそうだったよな…他の表記があったのと、それを見かけなくなったのはなぜだったのか…と気になって調べてみたら、意外なことがわかりました。

【目次】

複数の中国語訳が乱立した理由

▲こちらは百度百科の「ガンダム」の説明。

その中に…

f:id:blackchinainfo:20190604184335p:plain

▲その他の名称として、

GUNDAM/敢达/钢弹/鋼彈/鋼彈勇士

… とありました。その下に…

f:id:blackchinainfo:20190604184637p:plain

▲こういう説明がありまして…書き出してみると…

  • 日本語名:機動戦士ガンダム
  • 英文名:MOBILE SUIT GUNDAM
  • 中文名(大陸):机动战士敢达(ガンダァ)/高达(ガオダァ)
  • 中文名(香港):機動戦士高達(ガオダァ)
  • 中文名(台湾):機動戦士鋼彈(ガンタン)

「机动战士」は「機動戦士」の簡体字表記。「达」は「達」の簡体字表記です。

そして、説明文を訳すると…

バンダイが正式に中国大陸に進出しガンダムを販売する前から、大陸では香港の影響を受けて「高达」(ガオダァ)と訳していた。バンダイが中国大陸に進出した際に、既に「高达」の名称は登録されていたため、「敢达」(ガンダァ)と改名した。

80年代から台湾では「鋼彈勇士」の名称で放送されており、以来ずっと「鋼彈」(ガンタン)と呼ばれている。

つまり話を整理すると…(以下、面倒なので簡体字は使いません)

  • 元々80年代のテレビ放映から台湾でガンダムは「鋼彈勇士」「鋼彈」と呼ばれている。
  • 香港では「高達」と訳されていた。
  • 大陸では香港の影響でバンダイの中国進出の前から「高達」が浸透。
  • バンダイが中国進出した際、既に「高達」の表記は登録されていた(たぶん商標を取られていた)
  • だからバンダイは中国で「敢達」という別の表記で登録した。

じゃあ、今でもバンダイは中国で「敢達」表記を使っているのかというと、どうやらそうじゃないみたいです。

そこで、気になったので、中国における「ガンダム」の商標権がどうなっているのかを調べてみました。

中国で最初に「ガンダム」を商標登録したのは福建の靴会社?

中国の商標に関する情報は、国家知識産権局によって公開されているので、そちらで検索してみました。

上に挙げた全ての表記&「機動戦士」のつくつかないを調べるのは面倒な上に、「高達」というのはガンダムと無関係で結構ある名称なため、「機動戦士」がつく「高達」と「敢達」の2つの組み合わせを調べてみました。

機動戦士高達(机动战士高达)の場合

f:id:blackchinainfo:20190604201422p:plain

▲「机动战士高达」で調べると12件出てきました(クリックで拡大できます)。

最古のものは2006年7月19日のもので、「福建省晋江市时兴鞋服有限公司」という会社が申請したもの。靴や服を作る会社のようです。

f:id:blackchinainfo:20190604201555p:plain

▲こらがその靴会社の申請の中身(クリックで拡大できます)。私はこの手の文書の正確な読み方を知らないのですが(と断っておきます)、「注册(登録)公告日期:2009年8月28日」で、下の商標状態のアイコンがバツで「Cancelled(キャンセル)/Invalidated(無効化)」だから、これって一旦は申請が通って公告もしたけど、後で無効になった…ということではないでしょうか?だからたぶん、中国大陸で「機動戦士高達」の商標を最初にゲットしたのは、福建の靴会社みたいです。

f:id:blackchinainfo:20190604201940p:plain

▲こちらは深センの会社が2014年1月30日に申請していた…という情報(クリックで拡大できます)。一番下のアイコンの横が「申請は撤回された、不受理、または既に失効」とありますから、申請したけどダメだった…って感じですね。

f:id:blackchinainfo:20190604202248p:plain

▲こちらは「株式会社日升」が出した申請(クリックで拡大できます)。「升」とは「昇」の簡体字。つまり「日が昇る」…「株式会社サンライズ」のことです。

こちらは商標が通ってますね。最上段の部分に商標が認められる分野も明記されています。申請したのが2017年1月13日だから結構最近ですね。その下の「初审(審)公告日期」や「注册(登録)公告日期」「专用权期限」(専用権期限)を見ても、これは最近のことみたいです。

機動戦士敢達(机动战士敢达)の場合

f:id:blackchinainfo:20190604202736p:plain

▲「敢達」でヒットする情報は12件(クリックで拡大できます)。全部サンライズが申請したものです。一番下のものを見てみますと…

f:id:blackchinainfo:20190604202945p:plain

▲商標登録審査通ってますね。

* * * * *

高達、敢達の全ての情報に目を通したわけではないので、断言できないのですが、これまでの情報を整理してみると…

  • 香港経由で中国大陸でも広まっていた「機動戦士高達」の表記は2006年7月19日に福建の靴会社が商標をとっていたみたい(「みたい」としておきます)。ただそれは後で無効になった。
  • 冒頭で紹介した百度百科の解説にあったように、バンダイが正式に中国大陸へ進出する前に「高達」の商標は取られていた…それが福建の靴会社だったのか、他の会社かは不明だけど、たぶん福建の会社みたい(センシティブな問題なので断言しませんw)
  • そこで、サンライズは「機動戦士敢達」で2014年に商標申請。2016年から有効に。
  • 2017年にサンライズは「機動戦士高達」で商標を申請。審査の結果認められて、商標の取得に成功。

…ということではないかと思われます。

ちなみに…当方のガンダムネタとしては

▲こんなのもあります。ガンダムSEEDが好きなのがキッカケで中国女子が日本語の勉強を一生懸命がんばって、コンクールで優勝したら、日本に来れたけど、「政治利用」されちゃった…というお話。中国において若者にガンダムがどのように受け入れられているのかが垣間見える内容です。ご興味ある方はこちらもどうぞ(^^)