黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

北京晩報の思い出

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▲今日ははこちらのツイートがよくRTされましたが、元記事は「北京晩報」という北京で発行されている夕刊紙からの翻訳で、この新聞は私が留学していた頃に、愛読していた懐かしい新聞なのでした。

中国の新聞を愛読していた…というと、今の日本だと奇妙な印象になるかも知れませんが、この北京晩報という新聞は、ちょっと違うのです。

上掲のツイートに続けて、その思い出を綴っているのですが、モッタイナイので、こちらに加筆・修正を含めて記録しておきます。

【目次】

中国人全員が人民日報・環球時報を読んでいるわけではない

中国語を学ぶ前…日本から出たことがなかった時、私も中国の新聞といえば「人民日報」の名前しか知りませんでしたが、これは中国共産党の機関紙ですから、一般の人民はほぼ読みません。

中国では各地にタブロイド版の現地紙がありまして、「北京晩報」もその一つ。上海だったら「新民晩報」という夕刊紙が有名。一般の人民はこういうタブロイド紙を読むものです。これらの夕刊紙は、現地の生活に根ざした内容を主に報道するもので、日本の大新聞とはかなり違います。

最近、日本でも有名な「環球時報」は人民日報社の発行するタブロイド紙で、こちらは中国各地で販売されております。こちらは、人民日報社の刊行物ながら、夕刊紙のジャンルに入ってきたもので、他の「ご当地晩報」よりも政治色が強い。愛国心を鼓舞する内容が多いため、「中国の産経新聞」と揶揄されるわけです。

スプライトはなぜ中国語で「雪碧」になったのか

コーラに限らないのですが、コーヒーなんかも色が黒いので、昔の中国人は飲もうとしませんでしたね。コーラよりもスプライト、コーヒーを飲むなら必ずミルクと砂糖を入れる。21世紀になってからでも、スタバに行くと「ブラックは体に悪いからそんなの飲んじゃだめだよ…」と勝手にミルクを入れられたものでした。

ちなみに、コカ・コーラは中国語で「可口可楽」と書き、これは「コカ・コーラ」を音訳して「クーコークールー」と発音するのですが、漢字の意味としては「口に合い、楽しめる」と読めます。でも、「雪碧」(シュエビー)は全然「スプライト」と音が合いません。なぜ「雪碧」になったのかを確認してみると…

▲こちらに説明がありました。

「使人在炎热的夏季里联想到一片纷飞的白雪,一潭清澈的碧水」

つまり、夏の炎天下に降りしきる白雪と、透き通り青々とした澄んだ水を想像させる…ということで、、炭酸の泡を「雪」に、透明の炭酸水を「碧水」に見立てている…なんだか文学的な名前ですねw

なぜ一党独裁の強権国家でニセモノを撲滅できないのか

私が見た記事は確か4種類か6種類ぐらいのニセスプライトの見分け方が紹介されてたかな…学校で売っているのは本物だけど、街中ではニセモノがあるから気をつけよう…みたいな話を聞いたことがあります。

その時、とても疑問だったのは…私が北京に行ったのは、天安門事件の後ですけど、強大な権力を持つ中国共産党が一党独裁で治める中国の首都において、なぜニセモノのスプライトが売られているのか?ということ。気に入らなければ、軍隊を動員し、戦車を使って、武器を持たない学生を殺したりできる中国で、なぜニセモノ業者を取り締まれず、新聞でニセモノの見分け方を掲載して、人民がそれを学んで自分で気をつけなくてはいけないのか…ということですね。

中国人の老師に聞いてみたら、

「そりゃ、ニセモノを作れば儲かるし、カンタンに作れるから、真似する人が多いんだよ。国も取り締まってはいるけれど、次々に新しいニセモノが出てくるからキリがない。買う方で気をつけるのが手っ取り早いんだよ」

…と教えてくれました。

他に記憶している記事として、

露天で営業する自転車修理屋が大繁盛

というのがありました。

道端で壊れた自転車を修理してくれる。大体の修理が1回10元程度。技術と工具があれば店を持たずにすぐ開業できる。よく儲かるし、人民にも便利だ…という記事でした。今考えると、新しいサービスの紹介と起業のアイデアの両方を紹介する内容ですね。

 ▲引用RTで、こんなツイートもいただきました。

私も最初、中国に行くまでは、「紅衛兵」とか「中国共産党」の印象が強くて、中国人はみんな人民日報を読んで、社会主義の難しい話をしてたりするのだろうな…と思ってたのですが、実際行ってみると大体読まれてるのは晩報で、生活に密着した内容ばっかりで、政治的な内容はほぼ見かけなかったのでした。

一人称形式の交通事故記事が持つ「意味」

日本だと交通事故の記事などはそっけないものですが、北京晩報を読むと、一人称の文体で、事故の現場で起きたことをドキュメンタリー風に書く記事があったのですね。

その後、わかったのですが…

▲中国ではこの手の、市民が団結して交通事故の被害者を助ける報道が多いのです。ネットでの動画が普及してから、よく見かけるようになりました。日本でもたまにあるんですけど、中国は特に多いです。

たぶん、事故を事故としてだけ伝えるのではなくて、人民が力を合わせて助け合ったことを印象強く伝えることで、社会の連帯を高めよう…という目的があるのでは、と思います。1つのプロパガンダの手法とも言えますが、こういう記事を読むことで、少しづつ「中国とは何か」という理解を深めたわけです。

日本でも環球時報はよくニュースに出てくる。編集長が有名なタカ派の論客なのもあって、彼が中国人の代表みたいに思う人もいるでしょうが、実際はそんなことありません。

人民のほとんどは、イデオロギーだの安全保障に興味はなく(日本人に比べれば…です。日本の無関心さは異常すぎます)、生活に密着した情報の方を好んで読む。私が中国の友人たちに混じって、彼らの話を聞いていても、大体はそんな話題ばかりです。

* * * * *

普段ずっと中国のニュースを読んで、ツイートしている立場からすると、それを読んで中国に憤慨したり、警戒するリプライがあると、嬉しい反面、「中国はそれだけじゃないんだけどな…」とモニョることが多々あります。

だから、安全保障とも無関係の、面白いニュースもなるべくツイートするようにしているのですが、中国を見下したり、バカにする要素が強かったりして、今回みたいにみんなで楽しめる北京晩報みたいなネタは、ほとんどない。

中国の動向に警戒を緩めてはいけませんが、一方で北京晩報的な中国もあって、本当はそっちの方が人民の日常であり、我々日本人とも大きくかけ離れるものではないことを覚えておいてほしい…と日々、思っているのでした。

▲私が中国語を学び始めた頃によく見た写真集。元々私はこういう角度から中国への関心を持ったのですが、中国について政治や軍事のことばかり読んで、庶民の生活を全く知らないのでは、 現実の中国から乖離した理解しか出来ないと思うのですね。

島尾伸三さんの中国関連の写真集は、好評だったようで、その後も他の出版社から同様の作品がたくさん出ており、私は全部持ってます。中国が何かよくわからなくなった時、私はいつも庶民の視点に立ち返るようにしています(^^)