突然なのですが、私はこの数日
▲無性にこのお店に行きたくて、でも行けなくて、地団駄を踏んでいるのですが、噂によるとこのお店は既になくなっているので、上海へ渡航出来るようになっても、このお店には行けないのですね。
それで、私はこのお店の麺が食べたいんじゃなくて、
▲このトリカツが食べたいんです。これってメチャクチャ美味しいんです!
でも、コロナで当分上海に行けないので、自分で作ろうと思ったら、表題のウスターソースがない!これがないことには始まらない!というので、ちょっとブログに書き残して置こうと思いました。実は探してみたら、意外な歴史がわかってきたんです。
それにしても、こんなブログ記事誰が読むんだろw
ウスターソースの歴史
上海や香港では、たまにウスターソースを使う料理があって、先程のトリカツは上海の場合。香港だと飲茶の春巻きや肉団子(山竹牛肉球)を食べる時に出てきますね。中国語だと「喼汁(jie1zhi1)と呼びます。独特の味わいで、日本のウスターソースとは味が違います。
▲そもそもウスターソースの歴史を紐解くと、19世紀に英国人がインドのソースの作り方を持ち帰って製造を始めた「リーペリン・ソース」が起源だそうです。そこから世界各地でウスターソースが作られるようになったわけですが…
▲泰康黄牌上海辣醤油
リーペリン・ソースと上海辣醤油は同じもの?
私は、上海でトリカツを食べる時に毎度出てくる泰康黄牌上海辣醤油(以下、上海辣醤油)が欲しくて探してみたのですが、どうも見当たらない。ネットでも中華食材店でも見つからない…orz
そこで、中国の友人に相談してみたら、
「上海辣醤油は戦前の英国李派林だよ」という返事がありました。
「李派林」?
調べてみたら、李派林は「LEA&PERRINS」の音訳らしい。つまり「リーペリン」。
▲リーペリンのウスターソースは、日本でも入手可能なので、上海辣醤油と同じ味だったら、リーペリンを使ってもOKということになります。でもこれって結構割高ですね。
同じ味かどうかは、実際にテイスティングしないとわかりませんが、とりあえず今出来ることとして、歴史的経緯を調べてみることにしました。
▲大まかなところ、ウィキペディアの「ウスターソース」と同じですが、中国と日本に関する部分の表記がちょっと詳しくなってます。
▲これですね。以下、ザックリと要訳すると…
- 在中国において、辣醤油(喼汁)は沿海地区で比較的良く見られる。
- 上海で辣醤油は19世紀末から、20世紀初頭の西洋料理店から広まった。
- 上海の西洋料理の炸猪排(トンカツ)、羅宋湯(ボルシチ)に使われる。現地の料理としては、生煎饅頭(そうそう!)、排骨年糕、干煎帯魚に使われる(確かにそうでした)。
- 1933年に梅林缶詰有限公司が辣醤油の生産を始める
- 1947年に北站東亜食品が生産を開始する。
▲つまり、20世紀初頭までは輸入品だった(たぶんリーペリン)けど、1933年から国産化が始まったわけです。 - 1949年以後、英国産の辣醤油は次第に少なくなった。
▲中華人民共和国成立で英国からの輸入が減少したのでしょう。 - 梅林缶詰有限公司の辣醤油は1960年に泰康食品に移されて「上海辣醤油」に改名される。
▲つまり、いま販売されている泰康黄牌上海辣醤油は、1933年に初めて国産化された梅林の「子孫」となります。 - 上海辣醤油と日本ウスターソースは似ているが、明らかに味は違う(やっぱり!)
- あと、上掲スクショの末尾に、「日本」の項目がありますけど、そこには「日本にもウスターソースがあるけど、材料も作り方も英国のものとは違う」と書かれてます。
つまり、まとめると…
- ウスターソースの起源はリーペリン
- 上海でもリーペリンが当初使われていたが、模倣して作った梅林の製品が出てきて国産化が始まる。
- 国産品が増えたこともあり、新中国成立の影響もあって、英国製は輸入されなくなった。
- 梅林の辣醤油は泰康に移される(この諸事情は不明。梅林は今も缶詰会社として中国にある。社会主義改造の関係で整理され、ウスターソース部門だけ別会社に移したのかも知れない)
- 日本のウスターソースはリーペリンとは全くの別物、つまり上海の辣醤油とも違う。日本のウスターソースは上海の辣醤油の代替品にはならない。
最近は結構レアな食材でも日本で売ってますので、泰康の辣醤油をもう少し探してみようと思います。どうしても見つからなかったら、リーペリンソースで代用して上海のトリカツを作ってみようと思います(^^)
【追記】公開後寄せられた情報について
本記事の公開後に、ツイッターで教えていただいた情報がありますので、こちらに追記しておきます。
「上海辣醤油」は日本でも入手可能
日本でも主に小瓶が売ってますよ。あと戦前のウスターソースの原料は醤油で、リーぺリンは中国から醤油の輸入をしてました。ですから英租界があった上海でウスターソースが普及したのは自然な流れだったと言えます。戦前のウスターソース事情は『お好み焼きの戦前史』に詳しいです。
— ヒロヲカ (@shirlywang) June 20, 2020
▲中国の食文化や服飾、古い上海について詳しいヒロヲカさんからリプライをいただきました。上海辣醤油の小瓶が日本でも売られているとのこと。がんばって探してみようと思います。
▲ヒロヲカさんが仰っていたのはこちらの本。プライムの会員ならタダで読めます。
▲ちなみに、ヒロヲカさんはこちらの著者でもあります。私は昔、上海に住んでいた頃にこれを入手して、隅々繰り返し読んだのでした。古い上海のことを知る上で、唯一無二の貴重な本です。
日本でもリーペリン系の国産ウスターソースはある
日本のウスターソースが気になってみてみましたが、日本の最古のソースは「阪神ソース」なんですね!😃
『神戸には美味しい肉があるのに、どうして日本には美味しいソースがないのでしょう』という言葉から、日本独特のソースは生まれたんですね!https://t.co/g6e8cMxHqn— NEKO😺😷 (@usapepe) June 20, 2020
NEKOさんから教えてもらった阪神ソースのサイトを見ると…
▲創業者の安井敬七郎さんは、明治時代にソースを自作始め、それから英国のリー&ペリン社を訪問して、ソース作りを学んだそうです。つまり阪神ソースは、リーペリン直系の日本国産ウスターソースと言えます。
▲阪神ソースには現在、3種類のウスターソースがありますが、こちらは明治30年当時のレシピを再現したものだそうで、安井敬七郎さんが英国リー&ペリン社を訪問したのが明治25年なので、リーペリン・ソースや、上海辣醤油とも近い味になっているのでは…と考えられます。
しばらく、ウスターソース三昧の日々になりそうです(^_^;)