黒色中国BLOG

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映画『空母いぶき』に込められた真意を解読してみました

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ツイッターをやっていると、やたら見かけるのが『空母いぶき』。

クソ映画の代名詞になっているのですが、たまに好評価のツイートを見ることも…

それで、思い切ってツイートしてみたら、たくさんのリプライが返ってきたのでしたw

皆さんからは「映画を見るのはヤメとけ」と止められたのですが、あそこまでボロクソに貶される映画も珍しいのでw、勇気を出して見てみたところ…リプライを送ってくれた皆さんとはかなり違う印象を持ちましたので、こちらに感想を書いておきます。

【目次】

ツイッターで寄せられた映画『空母いぶき』の感想

犬のアイコンのサイモンさんにそう言われると、非常に説得力がありましたw

この手の指摘は他にも寄せられ、ネット上での評価でも見られるのですが、武器の使われ方とかに色々、オカシイ点があるようですね。私はミリヲタではないので、あまり気にならないのですが。

漫画版(原作)と映画版は全然違う内容なのですね。

私は原作を読んでません。

最初は、原作を読んでから、映画を見るべきかと思っていたのですが、寄せられるリプライを見ていると、原作と映画は完全に別の作品になっているし、評価も全然違う。

そして、私が気になっているのが、「映画版はどういう風にクソ映画なのか」ということなので、とりあえず、映画を見てみることにしました。

以下、ネタバレになる部分もありますので、未見の方はご注意を。

映画『空母いぶき』の感想

監督について

2019年公開の最近作られた映画にしては、映像表現や撮影手法、演出手法などが古く感じられた。気になって調べてみると、監督は若松節朗さんで、1949年生まれ。現在71歳のお爺さんである。

若松氏の過去の作品のタイトルを見る限り、戦争映画は見当たらず、主に人間ドラマを描くのが得意なようなので、『空母いぶき』でも兵器や軍事の描写がリアルでないのは仕方ない。「戦争映画」のフリをした「人間ドラマ」であると読み解くべきである。

波留間群島と島嶼国家カレドルフ

映画『空母いぶき』に出てくる「波留間群島」は、字面が「波照間島」(はてるまじま…沖縄県八重山諸島に実在する日本最南端の有人島)に似ているが、「波留間群島」はあくまで架空の島である。ただ、実在する波照間島にも「架空の島」の伝説が存在する。

南波照間島は、波照間島の南にあるらしい。

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参考まで、地図をのせておく。島嶼国家カレドルフは「フィリピン北東400海里」にあるらしいので、位置関係で言うと、伝説の「南波照間島」とも近くにありそうだ。だから、東亜連邦が領有を主張するのだろう。

東亜連邦

原作で日本は、中国と戦うことになっているのだが、映画版『空母いぶき』では、架空の国家共同体である「東亜連邦」と戦うことになっている。

映画版批判派の多くが、「中国に忖度して架空の国に設定を変えた」と主張している。私は原作を読んでないので、正確なところはわかりかねるが、改変のキッカケとしては、たぶんそうなのだろう。

ただ、私も長年映画を見てきた人間なので、「中国に忖度して敵を架空の国にして角が立たないようにした」と言われると、日本の映画人がそんな単純な忖度で、小手先のストーリー改変をやらかすものなのかな…と違和感を持つ。

映画『空母いぶき』には、二人の脚本家が参加しているが、

伊藤和典氏、長谷川康夫氏の経歴を見ても、そんなに単純な人間には思えない。いままで多くの作品を手掛けてきたのだから、忖度を重ねて妥協の産物を作ったのではなく、原作と大きく異るストーリー改変を行うからには、そこに何か「重要なテーマ」を埋め込んでいるはずなのだ。

私は、映画『空母いぶき』を最後まで見ることで確信したのだが、

「東亜連邦」は「大東亜共栄圏」をもじったもので、ようするに大日本帝国ではないのか。それに気づいたら、脚本の意図が紐解けたように思えた。つまり、

  • 東亜連邦の「過激な民族主義を掲げ、強大な軍事力を持つ国家が領土拡大を行う」というのは、「大日本帝国」を象徴している。
  • 映画版『空母いぶき』に埋め込まれた主題は、平和憲法国家日本vs大日本帝国であり、現代日本が憲法9条の理念に基づいて有事にあたり、国連中心主義で紛争を解決する…「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という「日本国憲法前文」を反映したストーリーになっている。
  • 城山副総理は、現代日本の政権中枢における、「大日本帝国的価値観」の残滓として登場する。彼の発言は一見、現実的なように見えるが、直接的な議論ではなく、その他の登場人物の活躍や、外交努力による「戦後価値観の実践」によって、否定される展開になっている。

「戦後日本」の自画像、そして理想像としての映画

映画『空母いぶき』には、軍艦や戦闘機など、たくさんの兵器が出てくるので、一見、「戦闘」を中心にした映画に見えるのだが、ストーリーに埋め込まれている主題を読み解くと、これは非常に思想的な戦争映画…日本の戦前・戦後の価値観が対決し、現代日本が大日本帝国を超克する物語ではないだろうか。本作は決して、忖度や妥協の産物ではない。

私自身、この映画が特別好きなわけでもないのだが、この映画に込められたテーマが、周辺の国々に正しく理解されることを願っている。

中国では、長年続けられた反日プロパガンダ、反日教育の影響もあって、日本人は武士道を尊び、非常に好戦的な軍事至上主義の野蛮な人間であり、大日本帝国の復活をたくらむ極右政治家が暗躍している…と誤解されているのだが、実際の日本人の大半は、映画『空母いぶき』で描かれたような「当たり前の暮らし」を愛する平和的な人間なのである。

原作を愛するファンにとって、映画版の「改変」は嬉しくなかったのでしょうが、今のような微妙な国際情勢において、日本から発する「メッセージ」として、本作は間違っていなかった…と私は思ったのでした。

空母いぶき

空母いぶき

  • 発売日: 2019/11/05
  • メディア: Prime Video