1980年代の中国は、改革開放の初期ということもあり、一時期、非常に親日的だった。
この頃に日本語を学んだり、日本で学んだ中国人は、特に反日教育の影響も少なく、日本への偏見も少なく、日本人にとって付き合いやすい人が多い。たとえば石平さんも、その中の一人である。
私の友人にも、80年代に中国の大学で日本語を学んで、日本人と結婚して、日本に移住して、帰化した元中国人がいるのだが、ある日彼と食事をしている時に、「変なこと」を言い出したのであった。
戦前の日本は天皇親政だった?
友人は、日本に帰化するぐらいだから、日本が好きで、日本の社会、文化も好きで、民主的で自由なところも気に入っているわけだが、彼と中国の民主化やら現在の一党独裁体制などについて話し合っている時に、
「でも、日本だって民主化して、議会政治が始まったのは戦後のことじゃないですか」
…と言い出したのである。
大日本帝国でも選挙はあったけど、「民主的な体制」だったかは怪しい。ただ、議会政治はあった。
その旨を伝えると、
「議会政治は戦後からでしょう。戦前の日本は天皇の独裁だったから」
…と言うのである。
「それって、天皇が直接政治をやってた…って意味?」
「そう。そうでしょ?戦争に負けて米国が民主政治を日本にやらせるまで議会はなかった」
「議会がない?」
「そう。国会が始まったのは戦後から」
何かがおかしい。ただ、これを元中国人に理解させるためにはどうすればいいのか。
「だったら、東條英機が首相をやってたのはなんなの?天皇の独裁政治で議会はないけど首相はいるの?」
※中国で東條英機は「戦犯」として有名なため、彼が第二次世界大戦の際に首相だったのはよく知られている。
「…そういえばそうだね。東條は首相だったか…でも、天皇が政治をやってたんじゃないの」
「天皇親政って、後醍醐天皇の時代の話で、それ以後はやってないよ」
「やっぱり天皇が政治をやってたんでしょw。ゴダイゴ天皇って誰?いつの人?」
「700年ぐらい前の人。鎌倉幕府を倒して直接政治をやったけど、上手くいかなかった。結局、京都から追われて奈良の山奥に引っ込んだけど…聞いたことないかな?(※友人は関西在住)」
「700年前…知らない。そんな話、初めて聞いた」
「朝廷が南朝・北朝に分かれて何十年か、戦争をやってた」
「え、そうなの?」
「いや、君が住んでる地域で戦争をやってたんだよ。『太平記』とか読んでないか?」
「……」
だんだんと気の毒になってきた。
「まぁ、とにかく、それ以来、天皇は直接政治をやってないから、戦前の日本で『天皇の独裁政治』というのはないよ。戦前の日本は民主的じゃなかったかも知れないけど、議会もあった。今の国会議事堂は戦前に作ったものだよ」
そんな帰化人にも選挙権/被選挙権はある
「戦前の日本は天皇の独裁で、議会政治が始まったのは戦後から」というのは、中国にいるとよく聞かされるので、中国の学校でそう教えられているのかも知れない。上記の友人だけの話ではないので、特に珍しいことではない。
中国において、戦前の日本はナチスドイツと同様の「ファシズム国家」で、中国人民は中国共産党の指導の下で、反ファシズムの戦いに勝利した…ということになっているので、大日本帝国には選挙も議会政治もなく、天皇が独裁政治をやってた…という風に認識を「整理」してしまうのは、大雑把ながら、彼ら的には理解しやすいのかも知れない。
ただ、これほど大雑把に日本を「理解」した人が、日本に帰化して、「日本人」として選挙権や被選挙権を持ってしまうのは、如何なものか。
日本を好きになって、日本語を学び、帰化までして、日本人になって、日本の政治に参加しようとする「元外国人」の皆さんに対し、個々の政治性は抜きにして、私はおおむね好意的でリスペクトしているのだが(私も外国語を学んで、海外で住んだことがあるけど、そこまで外国に入れ込んで、ガッツリとコミットするのは本当に大変なことです)、母国で教え込まれた「プロパガンダ」をそのままに、かなり大雑把な理解(それは「デタラメ」と言い換えてもいいだろう)で、帰化した国の政治に参加してくるのは、先祖代々この国に生きてきた人間からすると脅威である。
この話には特別なオチも、私からの提言もないのですが、今後、「帰化人の政治参加」は増加し、同様の問題も増えるだろうから、私の経験をまとめておきました。皆さんの参考になれば幸いです。