去年から、「出るぞ!出るぞ!」と話題になってた赤々舎さんの写真雑誌「Decades」。やっと届きました\(^o^)/
まだ届いたばかりですけど、手に取った瞬間に、「買って良かった!」と大満足だったので、この「視覚の福音」を皆様にもお伝えしておきます(^^)
【目次】
正直、ちょっと迷ってた
私は昔から、カメラ雑誌、写真雑誌が好きで色々買ってきたし、ツイッターで赤々舎さんのアカウントをフォローしているので、「Decades」が出るのは知っていたし、気にはなっていたけど、「紙の雑誌かぁ……」というのが正直なところだったのですね。
写真はネットで幾らでも大量に見られる。
写真展ならオリジナルプリントで見られる。
写真集なら、その作家の世界観が反映された判型、紙質、印刷になってて、有意義なものではあるけれど、
「紙の雑誌かぁ……」
嫌いじゃないけど、どうしよう?と悩んでいたのですね。デジタル化が進んだ昨今、LCCで荷物は機内持ち込みだけ派のミニマリスト系のワタシは、紙のものは極力増やしたくない…どうしよう?
▲そう思っていたところ、私がいつも見ている「写真虎の穴 ハマチャンネル」さんで、Decadesの紹介をされていて、二人がかりでバシ!バシ!と背中を押しまくってくれたので、思い切ってポチってみました(^^)
家に来てくれる写真展
私がハマチャンネルの紹介の中で気になったのは、「作家ごとに紙質が違う」という件。そこにググっと引き込まれた。
写真作品を作る時は…特に最近なんかだと紙質にこだわってる人が多いじゃないですか。写真展を見に行ったりすると、紙質とか、額縁とか、BGMとか、空間の演出とか、そういうの全部込みで作品世界を楽しめる。ただ平面の画像を見るだけではなくて、作品世界に身体ごと没入するような感覚。
コロナで、写真展とか行きにくくなったので、それに代わる写真体験を探して、最近はネットで色んな写真を見てるのですが(ツイッターで最近、写真系ツイートのRTが多いのはそのせいですw)、その時にボンヤリと思ってたのは、
「私の家に、写真展が来てくれないかな」
ということ。
「郵送可能な写真展」
それって、写真集じゃないの?
いや、もう一歩二歩、写真展に踏み込むようなのが欲しい。
そんなことを考えていた時にハマチャンネルを見て、「もしかしてそれってDecadesかも」と思ったのでした。
存在感がハンパない
中身をお見せできないのが残念ですけど、Decadesを手にとって最初に思ったのは、「重い」ということ。ズシッ、と来ます。
ページを開いて感じたのは、ナマナマしいこと。
「高級感のある印刷物」…を通り越えて、雑誌の形をした「生物」みたいな。
液晶ディスプレイやスマホの画面で見るのとは全然違う。
ちょっとチラ見するつもりで開いたら、その瞬間から驚きが止まらない。
「おおおー!」
「うおおおおおー!」
「なんじゃこりゃー!」
って叫びながら、最後まで見ちゃいましたw
全200ページ。広告はあるけど、ホンのちょっとだけ。
写真を読み解きながら、文章も精読すれば、これってかなり楽しめそうです。2200円は決して高くありません。
作品短評
石内都さん
「Mother’s」が非常に良かった。精密に描写されたお母さんの火傷の跡が、痛々しさを越えて美しさをも感じる。目を背けたくなるのと同時に、目が離せなくなる。
アントワーヌ・ダガタさん
赤外線カメラで撮影したロックダウン中のパリ。ツイッターでもハマチャンネルさんでも見かけたけど、こういう特殊撮影の写真で「表現」というのは、安直な気がして、私はあまり好きじゃないタイプ。でも、実物を見たら、胸に刺さりました。コロナに脅かされる1年を過ごした人間の心に、リアルに訴えるものがある。
骆丹さん
中国の写真家、ルオ・ダンさん。重慶生まれで現在は成都(四川省)にお住まいだそうで、四川マニアの黒色中国にとっては、Decadesの中で最も気になっていた作家。「Nowhere to Run」(逃げ場なし)で、チベットと新疆を撮影している。
私自身、その両方に行ったことがあるのでわかるのですが、チベットは高原地帯で空気が澄んでいるため、遠くまで見渡せる。43頁や45頁の写真を見ていると、その時のことを思い出して、自分の魂が体から吸い出されて、天の向こうまで飛んでいってしまいそうな気がする。日本国内では体験できない距離感の世界があるのです。
そして58頁の写真をよく見ると、単なる荒涼とした風景かと思いきや、無機質な「壁」が並んでいる。文章でルオさんは「新疆のはずれに着いた時」と書いてあるから、国境地帯まで行ったのではないか。
無限の広がりを感じさせられるチベット高原を抜けて、新疆の果てに「壁」を発見して終わるのは、映画『トゥルーマン・ショー』で、主人公のいる世界が撮影セットの中にあるフィクションであるのを発見するのと似たような感覚…国家という「フィクション」の壁を見つけてしまったような気がする。
コロナの生活空間における「封鎖」から解放されたけど、その後の旅で新疆の果てに国家としての「封鎖」を見つけてしまう。なるほど、それで「逃げ場なし」か、と納得するオチになっている。
ERICさん
香港人の写真家。まずは20年前に撮った海水浴場の子供の写真が来て、それから2019年の香港デモの活動家の写真が来る。共に日中シンクロ撮影。
この並べ方だと、まるで子どもたちが20年後、香港を救うため路上で戦っているように見えてくる。そう考えると、まるでイルカのようなピカピカツヤツヤの肌でキラキラ輝いている子供たちが、とても悲しく見えて来て、正視するのがツライ。
キム・ジンヒさん
韓国の写真家。写真に刺繍するのは、他にもやってる作家が複数いて、どれもイマイチ消化不良な気がしていたが、キム・ジンヒさんの写真ではそれが上手く「作品」になってるように思えた。ぜひリアルで作品の実物を見てみたい。
岩根愛さん
以前、彼女の写真展に行ったことがあるのだが、会場全体に張り詰めた緊張感があった。たぶんそれは、表現したい世界観がシッカリしているので、「単に写真が並んでいる」のではなくて、それぞれの写真が合唱するようにして共鳴しあい、見る者に強い印象を与えるのではないか…と思っていたのだが、Decadesでもその効果は発揮されていた。
沈昭良さん
台湾の写真家さん。撮影地の「南方澳」とは、宜蘭県蘇澳鎮にあり、台湾の東北部だが、我々日本人からすると、地図上で「与那国島から真っ直ぐ西へ100km進んだところにある場所」を探した方が早いだろう。
解説文と共に写真を見ると、沈さんは台北側からクルマで山間を進んでいるようで、「南方澳」は美麗島東方の、山に隠された仙境のように描かれているが、
南方澳漁港は、高知県の漁民が移り住んだ歴史があり、神社もあったらしい。漁港から海を撮った写真を見ていると、その先に与那国島を探してしまう。たぶん、天気が良ければ見えるのではないか。ただ、他の写真を見るとシーツで隠された戦車がある…
中国軍が台湾上陸作戦を行う際は、東側から侵入すると言われているが、南方澳は福建省にも近いので攻略しやすい天然の良港で、山に囲まれているので、海側からは攻めやすく、一旦攻め落とせば守りやすい。上陸した中国軍は、沈さんが撮影のために通った5号線を逆向きに台北へと進軍するのではないか。
この小さな仙境が背負っている過去と現在を知ると、写真の見方が大きく変わってくる。作家がどこまで意図しているのかは不明だが、日本人にとって、この作品は様々な受け取り方ができるだろう。それと、139頁に出てくる作りかけの木造船…これって中国式なのか、台湾式なのか。または日本の影響があるのか。そのあたりが非常に気になります。
石川竜一さん
私個人の問題なのですが、沖縄には行ったことがなく、日本にも疎いので、中国や台湾の写真を見るより、「異国情緒」を感じてしまうのですね。特に古い方の写真は、日本のような、米国のような。そのあたりがよくわからない感じが、沖縄の正体なのか。行ったことがないので確信が持てないのですけど。
こういう自分と撮影地の心理的な「距離感」を確認できるのも、写真の面白いところであります。
ベク・スンウさん
韓国の写真家さん。実は、私も「年月日入りの写真」が好きで、最近撮影しているのは全て年月日が入れられるカメラを使って、フィルムで撮っているのですが、ここまで堂々と大きく年月日を作品に入れるのは考えてもなかったので、大変参考になりました。私の写真にも取り入れてみようと思います(^^)
マンデラ・ハドソンさん
アメリカ人の写真家さん。最後の最後になってやっとわかったのだが、表紙にも使われている「クルマに乗った覆面の男の写真」は「Thief Theme, Beautiful boogeyman」という作品のもので、どうやらBLMの人なのか。
* * * * *
とにかく、ガッツリ濃厚な写真体験でした。10人の作家の写真展を全部見に行った気分になれます。
次号の刊行予定はすでにあるそうなので、今後の発展に期待です(^^)
【追記】
Decadesを買う前に、ハマチャンネルさんの動画を見る人がほとんどかと思いますが、買ってから実物を目の前にしつつ、もう一度あの動画を見ると、理解が更に深まります。
▲ハマチャンネルさんの動画は、こちらのインタビューが元になっているので、こちらもご参照下さい。