最近、我が家の近くでも感染者が出た。
家族が聞いてきた「噂」では、我が家から数百メートルの某所。離れているが、そこは日常的に通りかかる生活圏内なので、他人事ではない。
噂の続きを聞くと、風邪のような症状がある男性が、コロナかと思い、某病院へ行ったが断られ、別の病院へ行ってから、感染が確認されたらしい。
その間、男性は住居や2つの病院の間を行き来しており、私の家からもそう遠くない大型の集合住宅に住んでいたらしい。
彼の詳細を聞いてみると、30代という説もあれば、40代という話もあり、住んでいる団地が何号棟なのかも定かではない。別の団地かも知れないとも聞く。
そもそも、それが事実なのか、感染が確認されたのがどの病院なのかもわからない。存在の不確かな…まるで幽霊の話を聞いているみたいだった。
【目次】
中国では感染者の所在地は情報公開される
中国の場合だと、各地域ごとに「社区」が設けられていて、感染者が出ると、そこの居民委員会が「公告」を出す。
▲こういうものだ。個人情報はわからないが、何処の何号棟で感染者が出たのかがわかる。文書の末尾に書かれているのは、「手を洗い、マスクをし、風通しを良くして、水を多く飲み、外に出ないようにしましょう!」ということ。つまり、感染者の情報を出すことで、警告を促し、感染予防を心がけるように通告しているわけだ。
情報を出してもらえないと、警戒のしようがない。噂が噂を呼んで、騒動になるかも知れない。だから、こういう公告があるのだろう。
感染者狩り
私が1月末に深セン入りした時、予約していたホテルに行くと、チェックインの際に、「不気味さ」を感じた。まず、いつもならすぐに済むパスポートチェックがなかなか終わらない。服務員が念入りに私のパスポートのスタンプを、1つ1つ確認するように見ている。
「あなたは日本を発ってから、どこにいたのか?」
落ち着いた口調、明瞭な発音で、私に質問した。真剣なまなざしで、私をジッと見た。
最近の香港では、パスポートに入国スタンプを押さないのだ。
日本を発ち、1週間香港に滞在して、深セン入りしてすぐホテルに来たのだが、その1週間の空白はパスポートの記録ではわからない。
ただ、服務員の「意図」が別にあるのを悟った。
「香港に1週間いました。私は武漢にも湖北省にも行ってません。」
そうすると、服務員がニッコリ笑って、安心してくれた。
しかし、部屋の鍵をもらっている間、じっと私を遠目に見ている男がいるのに気づいていた。
私が部屋へ向かって歩きだすと、社会的距離を取ってつきまとい、「オマエはどこからきた!」と凄んで睨みつけてきた。
さっきの服務員と同じ「疑い」をかけられているのがわかった。
「私は武漢にも湖北省にも行ってません。日本から…」と言いかけると、
「日本にも感染者が出てるぞ!」と大声をあげた。騙されないぞ!オレは知ってるぞ!という怒りと自信のある表情だ。
「いや、私は1週間前から香港にいたので、日本の感染者が出る前です」と告げると、憎らしそうに私を睨んで、舌打ちをして去っていった。
それからも、この男は廊下やロビーで見かける度に、私を睨みつけた。
なぜこんな時にわざわざ日本人が深センに来やがるんだ。何かあるに違いない…と思われたのだろう。
その後、他の客からも同様の疑いをかけられ、詰問をされた。
ようするに、ホテルの客同士で、お互いのことがわからないし、この時、ホテルではまだ体温検査をしていなかった。だから、客はお互いに「コイツは武漢から来やがったんじゃないか?」と疑いをかけて、信用しなかったのだ。
この事からわかるのは、先に挙げた居民委員会の公告のような情報公開がもしなかったら、住民がお互いに疑心暗鬼になって、噂が噂を呼んで、住民同士での相互監視…「感染者狩り」が始まっていただろう…ということだ。
新コロが引き起こす相互不信
そして、私が日本で住んでいる地域も、感染者の情報が不確かなこともあってか、深センのホテルみたいな状況を迎えつつある。他に感染した人がいるのではないか…と近隣住民が神経質になってきたのだ。証拠もなく「あの人もコロナだ」と決めつけ、疑心暗鬼になっている人がいるとも聞く。
同様の事例は、最近のツイッターを見ていると、いくつか似た話があったので、日本の各地で、このような相互不信が巻き起こっているのだろう。
広東省での経験で、新型コロナウイルスがこのように人の心を恐怖で蝕み、狂わせてしまうのを知っていたが、日本が同じ状況を迎えることになるとは全くの予想外だった。日本人はもっと、理性的な人たちだと信じていた。
* * * * *
冒頭の件に戻るが、後日ネット上でも、我が町の感染者の情報を見つけることができた。家族から噂の「続報」も寄せられたが、本当に感染者がいたのは確かだった。
私が、この「緊急事態」に、警戒を高めて食料を買い込み、「日記」を書き始めたのは、近所の感染騒動がキッカケになっている。新コロがすぐそばまで来ていたのは確かだし、ウイルスはまだ近くに存在するのかも知れない。
そして、疑心暗鬼になっている人たちが、私のように中国と関わりの深い人間…つい2ヶ月前まで広東省にいた…を、疑惑の目で見るのは間違いないだろう。
今後また近所で感染者が出ても、正確な情報は公開されない。ただ、感染しないように万端の準備を整え、極力外出を控え、他者との接触を断って、予防を徹底するしかない。
我々が戦うべき敵は「ウイルス」なのだが、厄介なのは「人」なのだ。
これは、国に関係なく、いまは世界中で起こっている問題であり、私も少しづつそこに巻き込まれようとしているのであった。
【追記】深センにおける湖北省出身者ヘイト
この日記には、FBで深センの現状に詳しい日本人の方から長文のコメントをいただきましたので、こちらにも転載しておきます。この件はあくまでも中国でのことですが、今後、日本でもこのような事態が発生するのかも知れません。