黒色中国BLOG

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バロチスタン解放軍について

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bci.hatenablog.com

バロチスタン解放軍(BLA)によるパキスタン・グワダルのホテル襲撃の件は今も追跡しているものの新しい情報は特にない。

ただ、そもそも「バロチスタン解放軍とは何なのか?」「バロチスタンの分離独立って何?」というのが気になってきた。

そして、凍結されたバロチスタン解放軍の公式ツイッターアカウントの写真が一部サルベージできたので、それをこちらに掲載し、彼らの実像を考えてみたい。

【目次】

バロチスタン分離独立の経緯

今日(13日)の宮崎正弘さんのメルマガで、グワダルの事件が取り上げられていたが、その中でバロチスタンの歴史が少し書かれていた

パキスタンのバロチスタン州は、もともと独立国家である。国王は英国の亡命したままである。英国が植民地時代に勝手に線を引いてパキスタン領としたため、紛争が絶えないのだが、近年は中国を「侵略者」とみて、これまでにも中国人誘拐、殺人、現場襲撃、カラチにある中国領事館へも自爆テロを仕掛けた。

バロチスタンが独立国家だったとは知らなかった。

バロチスタンの歴史について何か詳しいものはないか…と探してみたら、かの有名なウェブサイト『世界飛び地領土研究会』の中で取り上げられていた!しかもジオシティーズの閉鎖にともない、ウェブ・アーカイブ入りしていた。

1783年からの経緯が書かれているけど、結構ややこしい。

オマーンに割譲されたグワダルからオマーンの王が出ている。そして最後のオチがパキスタンへの「売却」である。

オマーンの王が勝手に売り飛ばしたけど、現地住民としてはパキスタンへの帰属を認めない…ということなのだろうか。

バロチスタン解放軍(BLA)

▲公安調査庁の『国際テロリズム要覧』でもバルチスタン解放軍は触れられている。なぜかこちらでは「バルチスタン」で「バロチスタン」ではない。

この公安調査庁のレポートは肝心なことが最後に書かれているのだが、パキスタン政府の宥和政策で2017年4月にバルチスタン解放軍から500名が投降…とある。

グワダル港近郊で発生した道路作業員への銃撃事件(10人死亡)は2017年5月で、その後もテロは繰り返され、今回のホテル襲撃になるので、宥和政策で投降者が大量に出た直後に過激路線へ舵を切ったことになる。

宥和政策で追いつめられたのか、逆に投降に応じるような弱気な人材が抜けることで、過激路線を止めるものがいなくなったのか…。

バルチスタン州内には121か所の反政府武装勢力の拠点があり,そのうち,40か所がBLAの拠点で,26か所がBRAの拠点,19か所がBLFの拠点である

▲という記載もある。一体、反政府武装勢力は、全てで何人いるのだろうか。

▲こちらは英語版ウィキペディアのバロチスタン解放軍の記事。

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人数は500。収入源はインド(allegedly=伝えられるところによれば)、ヘッドクォーターはアフガニスタン…と説明されている。

構成員500名の根拠は2006年のデータなので、2017年に500名が宥和政策で離脱しているのが本当だとすれば残りはゼロである。2006年~2017年の間に増加したのかも知れないが、2006年のデータも2017年の宥和政策による離脱者数もそもそも不確かなものと見ておいた方が良さそうだが、大体組織としてはそれぐらいの規模のもの…と見ていい。数人の顔見知りによる組織でもなく、何万人を抱える大部隊でもないわけだ。

インドからしたら、グワダル港でのテロで、一帯一路を効果的に妨害できて、パキスタンにも打撃を与えられるので一石二鳥であろう(あくまでも「伝えられるところによれば」ですけど)

なぜバロチスタンはこんなところなのか?

複雑な歴史経緯で分離独立運動があったり、住民のアイデンティティがパキスタンに同化しにくかったりするのはわかった。

ただ、なぜ今もこんなにおおくの分離独立を掲げる反政府武装勢力が複数存在したり、拠点がやたら多かったり、それらが敵対的な外国の支援を受けていたりする状況がずっと今まで続いているのだろうか。

https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2018_1700265_1_s.pdf

▲その答えは、JICAのレポートに書かれていた。以下要約すると

  • アフガニスタンとイランに国境を接している。
    (だからBLAはアフガンにヘッドクォーターがある)
  • 広い陸地面積と極めて低い人口密度
    (テロ活動がやりやすい)
  • 労働人口の7割が農業に従事しているが、山が多く水が少ないため儲からない。土地の半分以上が農地に適さない
    (ようするにまともに働く気になれない)

これで思い出したのは、高島俊男氏の『中国の大盗賊』にあった匪賊に関する記述である。

▲こちらに引用されている。バロチスタンと重なる部分を抜粋すると

  • 盗賊が発生し存在するのは氏族社会と近代資本主義社会との中間の段階にある農業社会である。
  • そういう農業社会のなかで、農作業にあまり手間や人手を必要としない所とか、強壮な男子に十分な職をあたえることができない所では、農村過剰人口が生じる。これが盗賊の源泉である。
  • 盗賊にとって理想的な環境とは、各地域の権力が確立していて、言いかえれば相互の連絡がわるくて、A地域で悪事をはたらいてもB地域に逃げこんでしまえば、AはBに手を出せず、BはAで起こったことは関知しない、というような所である。

こういう地域なので、パキスタンはオマーンからバロチスタンを購入しても、土地は広いだけで農業に向かず、自由港でもなくなり(オマーン時代は自由港だった)、近代化に遅れ、経済的に頼りない状況が続いていたところに、外国勢力が反政府活動を支援したりで、不安定な地域となり、なおさら手をつけるのが面倒臭くなっているところに中国が「一帯一路」の港として目をつけた…という事情が見えてきた。

BLAの戦闘員の素顔

バロチスタン解放軍は今回のホテル襲撃の際に、ツイッターの公式アカウントから情報発信をしていた。そのアカウントはすでに凍結されたが、写真を2枚サルベージできたのでこちらに掲載しておく。

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▲パキスタンの辺境の反政府武装勢力…と聞いて、野暮ったい山賊みたいなのを想像していたのだが、こちらの写真を見ると、なかなか立派な出で立ちなのである。ただ、よく見ると(クリックで拡大できます)、武器以外の装備は全部新品で靴の裏はキレイだし、軍服もほとんど着古した様子がない…新品のままみたいである。ホテル襲撃の前に記念撮影したのであろう。

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▲バロチスタン解放軍の旗のワッペンが軍服の袖につけられているが、よく見ると(クリックして拡大してください)手作り?だろうか。紙か何かに色鉛筆で書いた?みたいな。

▲こちらの動画は去年11月にカラチの中国領事館をBLAが襲撃した際の記録映像。こちらでは普段着姿なので、たぶん今回のホテル襲撃の際も似たような格好だったのではないか。

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▲というのも、今回は船で上陸してホテルへ向かった…という説があり、最短ルートは2つ考えられるがどちらの上陸地点からもホテルまでは1km以上離れており、そこに武装した上で軍服を着込んでいては、監視カメラですぐに見つけられてしまうからだ。

ホテル襲撃の際は、全員が自殺ベストを着込んでいたそうで、決死の覚悟で挑んだのだろうが、その前に撮影したと思われる写真で見せる戦闘員の笑顔がなんとも屈託なく、清々しく、人懐っこそうなのには胸が傷んだ。

テロを称賛する気は皆無だが、生まれつきの邪悪な人殺しというわけでなく、彼らには彼らの正義や思いがあって、自分たちの国を取り戻すために戦っているのだろうな…と思わされた。

中国が一帯一路の建設で「敵」に回しているのは、こういう人たちなのである。

苦悩するパキスタン

苦悩するパキスタン

 

余談:『攻殻機動隊』に「バロチスタン」が出てくる

本記事公開後、ツイッターで『攻殻機動隊』のセリフの中で「バロチスタン」が出てくるのがわかった。

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

攻殻機動隊 (1) KCデラックス

 

第六話の「ROBOT RONDO」の阪華精機の出荷検査部の久保沼部長を暗殺したヤクザ風の男とバトーの会話に「戦時中ホラサンかバルチスタンで捕虜になったろ」というセリフが出てくる。

ja.wikipedia.org

ホラサンはたぶん「ホラーサーン」のことだろう。イラン東部の州の名前だ。

第六話は「2029年10月1日」のことらしいので、今から10年後になる。士郎正宗の『攻殻機動隊』の世界では、この10年の間に、日本人?がバルチスタンかホラーサーンで戦闘に参加しているようだ。もしかしたら一帯一路関連で、現地の反政府武装勢力を鎮圧するために、自衛隊が出兵…もしくはなんらかの形で日本人が当該地域での戦闘に参加している…ということなのかも知れない。

▲ちなみに、こんなニュースもあった。士郎正宗には、予知能力でもあるのだろうか…。