黒色中国BLOG

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香港の英国領事館職員が中国で拘束…その真相を探る

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▲こちらの件、既にツイートでかなりの情報を書きましたが、長くなりすぎたため、ブログにまとめておきます。

先に言っておきますが、本件は日本人とも無関係ではありません

【目次】

8月8日、羅湖のイミグレで拘束

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▲こちらのツイートによると、駐香港英国領事館職員であるサイモン・チェン氏(Simon Cheng)は、8月8日に羅湖のイミグレーション・コントロール・ポイントで拘束された…とあります。香港での抗議活動がエスカレートするのに伴って、ボーダーの管理が強化されていたそうです。

サイモン・チェン氏の身の上に何があったのか?

▲サイモン・チェン氏がどのような人物で、なぜ香港へ行っていたのか。こちらの記事が参考になりました。

要点を抜き出すと…

  • サイモン・チェン氏は台湾と英国へ留学経験あり(つまり香港人)
  • ビジネスイベントに参加のため深センへ(彼の職位はtrade and investment officer=貿易・投資関連の担当者。中文の情報を見ると「投資主任」とも書かれている)
  • 彼女は台湾人
  • 深センへ行く時に彼女へ「私のために祈ってください」と連絡
  • 現在は中国で行政勾留中(最長15日間)

つまり、中国側から見ると、サイモン氏は非常に疑わしい要素が満載の人物だった…ということになります。

イミグレでスマホのチェック?

 ▲ちょうど2日前にこのツイートがバズっておりましたが、香港から深センへ抜けるイミグレを通る際に、荷物とケータイをチェックされて、写真を見られるそうです。

FBの写真がヤバかった

▲こちらのツイートでも紹介されていますが、サイモン・チェン氏がFBに投稿した写真が非常にマズかったようです。

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▲スクショで撮ってきましたが、つまりサイモン・チェン氏は、いま話題の『引き渡し条例』の改正に反対する立場の人物だった…こういう写真を作るぐらいですから、活動家に近い立場だったのかも知れません。

▲サイモン・チェン氏のFBへのリンク

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▲サイモン・チェン氏がFBに投稿した一番上(左上)に問題の写真があります。

想像するに、サイモン・チェン氏はイミグレでスマホをチェックされ、FBの中でこの写真が中国当局の担当官の目に止まったのではないでしょうか。

そして、彼が英国領事館勤務であることや、その他の経歴などを見るに、中国当局から「非常に疑わしい人物」と認定されたのは、容易に想像できます。

領事館職員だけど外交官としての保護が受けられない立場

▲こちらにサイモン・チェン氏の件に関する考察が長々と書かれています。

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▲この部分を見ると、8月10日に入境処(香港のイミグレデパートメント)の助力を得て、在外香港居民小組職員処が、「サイモン・チェン氏は内地で行政勾留されており、その原因や場所はわからない」と連絡した…とあります。
行政勾留は一般的に最長で15日間を越えないため、サイモン・チェン氏は今月の23日か24日には釈放される見込みだそうです。

気になるのは次の部分…

維也納公約第29條規定,外交代表不受任何方式之逮捕或拘禁。如Simon任職的投資主任職位是屬於外交代表,中國亦違反相關公約。

ウィーン条約第29条で、外交代表はいかなる方式の逮捕・拘禁も受けないという条項があり、サイモン・チェン氏の「投資主任」の職位が「外交代表」に当たるのなら、中国はウィーン条約違反では…という指摘です。

ちゃんとした日本語訳でもう一度確認しますと、

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/diplomat.htm

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同志社大学のウィーン条約の日本語訳を見る限り「外交官」となっておりまして、サイモン・チェン氏は英国外務省の「外交官」ではなく、現地採用の「貿易・投資担当者」である可能性が高いため、ウィーン条約の保護の対象にならないものと思われます。

拘束の理由は?

▲今年1月に話題になった「中国でVPNを使ったら捕まる!」という噂がありましたけど、こちらはそれを考察した記事。

この記事を公開した時に、外国人は関係ないとか、中国人でVPNを使っているけど別に捕まってないよw…と、あちこちから嘲笑され、叩かれましたが(実際「行政勾留」を受けた人はいるのですが)、サイモン・チェン氏が行政勾留を受けているところから察するに、この「VPNを使ったら」の件を思い出していると、ある「法律」が浮かび上がってきました。

《中華人民共和国治安管理処罰法》

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20050828_rev.pdf

▲こちらにJETROが作った治安管理処罰法の日本語訳があります。第1条から第22条まではこの法律の定義みたいな内容なので、それから先を読むと「何をすれば治安管理処罰法違反なのか」がわかります。

ただ、第23条から第76条までが、「何をすれば」の定義になっているので、非常に長いですが、いくつか抜粋してみると…

第26条

先のブログ記事(中国でVPNを使ったら行政処罰)で出てきた潘細佃さんは簡単に言うと民主化活動家ですが、彼は第26条で引っかかり、行政勾留を受けています。

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▲ネットで当局に都合が悪い情報を流した場合、26条が適用されるわけですが、たぶんその中の(4)になるのでしょうね。

中国当局の認識では、民主化活動の発言をネットすると、「言いがかりをつけて騒動を起こした」となるわけです。サイモン・チェン氏がFBで香港デモへの呼びかけなどをしていれば、これにひっかかる可能性があります。

第55条

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▲そのものズバリ、こういうのもあります。香港でやる分には関係ないのでは?とも思うのですが、どうなんでしょうね?


これら2つの違反でなくても、治安管理処罰法の適用範囲は広く、解釈によってはなんとか適応できそうなので、サイモン・チェン氏をどれかで「引っ掛ける」のはできそうですね。

日本人とも無関係ではない

サイモン・チェン氏のように英国領事館勤務でなければ…普通の民間の日本人などであれば、スマホに中国当局の喜ばしくない内容があっても、消せば許してもらえるとか、単に入国不許可とか、その程度で済むものと思います。

ただ、香港の反政府活動に深入りしているとか、反中活動に加担しすぎている…職業がジャーナリストだ…もしくは国家機関や公的機関で勤務している…それらに近い立場の人が、今後中国に入国する際に、スマホや持ち物をチェックされて、なんらかの「証拠」が出てきたら、サイモン・チェン氏と同じような扱いを受ける可能性が充分にあります。

サイモン・チェン氏がなぜ捕まったのか…その具体的な事情については、続報を待つしかありませんが、香港での抗議活動が長引くことで、中国側が非常に神経質になっているのは間違いありません。特に、中国国内へ「抗議活動の関係者」が入ってきて、人民に運動が「波及」することを警戒しているはずです。今後、中国への出入国の際は、やましいことがなかったとしても、当局に誤解されないよう慎重に「注意」した方が良いでしょう。

【追記1】サイモン・チェン氏は買春で捕まった?

▲22日になって、サイモン・チェン氏は買春で捕まった…との報道が中国から出てきました。

環球時報が深センの警察から入手した情報みたいですが、ちょっとニワカには信じられませんね。

というのも、サイモン・チェン氏は仕事で8月8日に日帰りの予定で深センへ行っており、日帰りで帰るつもりの人が、わざわざ平日に買春をするのかな…と思うわけです。買春がしたいのなら、週末まで待って仕事と無関係で行けばいい。不自然ですね。

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▲それと、上掲の中国の記事に掲載されていた写真ですが、左の西洋人はパッテン卿…英領香港時代の最後の総督です。 サイモン・チェン氏は、英国領事館に勤務しているけど、「外交官」(diplomat)ではありません。英文の記事を見ても、「staff」「worker」とあるし、正確には「Scotland Development International」の職員さんです。日本で言えば、JETROの現地職員みたいなものかな…でも、この現地採用の職員さんが、パッテン卿と2ショットで写真を撮っていることの方が注目すべきことのように思うのですね。

「親密な関係」というのではなくて、何かの記念で写真を撮らせてもらった…という感じですけど、サイモン・チェン氏は元総督と会って記念写真を撮らせてもらうような「思想傾向」の人物であり、FBに反送中の文字を入れた写真をアップしているのもたまたまではない…かなり「活動」に入れ込んでいる人物じゃないのだろうか。

だからこそ中国当局も目をつけていたのでは…としか思えないのです。

【追記2】サイモン・チェン氏買春の「証拠写真」はフェイク

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▲現在、中国国内でこちらのサイモン氏買春の「証拠写真」なるものが出回っております。

ツイッターでも中国人と思われるアカウントがそれらの情報をツイートしておりますが

▲写真の出所はこちらの掲示板で、

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1年前の投稿から持ってきたものです。全く時間的に辻褄が合いません。

週刊ニューズウィーク日本版 「特集:香港の出口」〈2019年8月27日号〉 [雑誌]

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