黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

「自爆ドローン」用エンジンを中国のネットで普通に売ってる件

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このニュースには、非常に驚きましたが、調べれば調べるほど、驚きの新事実がどんどん出てきます。

ロイターの記事では、

中国外務省は、ドローンを含め軍事転用される可能性がある輸出品を厳格に管理しているとした上で「中国はウクライナ危機で和平交渉と政治的解決の促進に常にコミットしている」と述べた。中国の対ロ貿易に国際的な制限はないとも指摘した。

…とあるのですが、表題で書いた通り、驚きの事実がでてきましたのでこちらにまとめておきます。

【目次】

問題の「中国製エンジン」とはどんなものか?

https://www.reuters.com/world/europe/russia-produces-new-kamikaze-drone-with-chinese-engine-say-european-intel-2024-09-13/

本件、なぜか同じロイターの記事でも、日本語版より英語版の方がより詳しく報道されておりまして、そちらを見ると、中国製エンジンの型式が書いてありました。

The Garpiya "closely resembles the Shahed" but it has several distinguishing features, including a unique bolt-on fin and Limbach L-550 E engines, the European agency said in a statement to Reuters. 

ちなみに、「Garpiya-A1」はウドムルト共和国製

ロイター英語版に書かれているのですが、今回中国製エンジンの使用が確認された「カミカゼドローン」は「Garpiya-A1」という名称で、ウドムルト共和国で生産されたものです。

ja.wikipedia.org

スペック的にはイランのシャヘド136とほぼ一緒で、形状もよく似ているそうです。

航空機用エンジン「リンバッハ L-550E」とは?

ググったらウィキペディアに乗ってました。有名なエンジンなんですね。

要点をまとめると…

  • ドイツの航空機エンジンメーカー、「リンバッハ フルグモトレーン」(Limbach Flugmotoren)が設計。1987年から製造。
  • 空冷水平対向4気筒2ストロークガソリンエンジン
  • 少なくとも2014年以来、イランの企業マド(Mado)はL-550Eのコピーを販売している。
  • マドの派生型はイランのシャヘド136無人航空機に使用されている。
  • 排気量:548 cc、乾燥重量:16 kg、出力: 37kW (50馬力) 

でも、これだとドイツのエンジンですよね?

2012年、中国人がリンバッハ社を買収

▲リンバッハ社のウィキペディアを見ると、

By late 2011 the company planned to close due to a worsened climate in which they were unable to operate.

(2011年後半までに、同社は事業が不可能なほど状況が悪化したため閉鎖を計画していた)

In late 2012 it was announced that the Limbachs assets had been sold to Mr. Chen Shuide who tends to continue producing Limbach engines with Peter Limbach still on board. 
(2012年後半、リンバッハ社の資産がMr. Chen Shuideに売却されたことが発表された。Mr. Chen Shuideはピーター・リンバッハ氏も引き続き在籍し、リンバッハエンジンの生産を継続する予定である。)

リンバッハ社を買収した「Mr. Chen Shuide」はドイツ系中国人?

▲経営不振に陥ったリンバッハ社が投資家を見つけた…という記事ですが、ここに謎の中国人「Mr. Chen Shuide」のことが書かれています。

Der 54-jährige Deutsch-Chinese lebt seit rund 20 Jahren in Bonn. Er sieht in Limbachs Viertaktmotoren das Potenzial, um neue Märkte vor allem in Asien zu erschließen.

54歳のドイツ系中国人である彼は、約20年間ボンに住んでいる。同氏は、リンバッハの4ストロークエンジンが、特にアジアで新たな市場を開拓する可能性があると見ています。)

こちらは13年前の記事ですから、Mr. Chen Shuideは現在67歳になっているはずです。

以上は自動翻訳によるものなので、「Deutsch-Chinese」という表記を「ドイツ系中国人」と訳するのが正しいのかは私にはわからないのですが、

https://www.facebook.com/shuide.chen

Mr. Chen Shuideのものと思われるFBアカウントをみつけました。

こちらによると、河南省の鄭州第一高校⇒浙江大学という経歴ですから、基本的にこの人物は、まるっきりの中国人で、その後、ドイツに移住して20年間ボンで住んでいる内にドイツ籍を取得した「中国系ドイツ人」ではないのか…と思われます。

* * * * *

買収後の会社の形態をこちらにまとめておくと…

【親会社】福建德龙航空科技股份有限公司=英語の情報に出てくる際は、「德龙」(徳龍)の中国語発音から取って「Delong」と書かれる。法人代表は「陳聡明」。買収したChen Shuideが陳姓だとすれば、聡明(congming)は一族の者と思われる。息子だろうか?

【子会社】 Limbach Flugmotoren GmbH =そもそものリンバッハ社。2012年に買収されているが、社長だったピーター・リンバッハ氏も引き続き在籍し、リンバッハエンジンの生産に携わっているらしい。

【子会社】厦门林巴赫航空发动机有限公司=林巴赫は「リンバッハ」の音訳。福建省アモイでエンジンの生産を行っている。今回の報道でロシアに供給された「中国製エンジン」はここで作られているみたいです(※厦门林巴赫はロイターの取材に対して無回答)。

当時の中国・ドイツの関係

2011~2012年といえば、ドイツはメルケル首相の時代ですね。この頃は中国企業が欧州の企業を買い漁っていた時期にあたります。

▲こちらは2012年の記事ですが、

  • ドイツ経済を支える中小企業は何年 にもわたって中国企業からの打診を断り続けてきた。しかし世界的な景 気下降に伴い、ドイツ企業はつれなくするのをやめたようだ。
  • 典型的な家族経営で従業員数が500人未満のドイツの中小企業のう ち、中国企業による買収に同意した企業は今年に入って9社に上 り、2011年初め以降では計21社となった。
  • ドイツの経営者は、中国の買い手が自分の企業を解体し、人員削減 ないしは中国への雇用移転を行うことを恐れていると述べていた。しか し、債務危機と欧州のリセッション(景気後退)の影響で、そのような 愛国主義的な考え方は弱まった。

こういう背景の下、リンバッハ社は中国人に買われたわけですが、まさかそれから12年後に、1980年代に設計された2スト4気筒の548ccの古いエンジンが、中国で大量生産されてロシアの自爆ドローンに搭載され、ウクライナを攻撃する…とは誰も予想しなかったわけです。

L-550Eが自爆ドローンに採用される理由

「それにしても、どうしてこんな古いエンジンをロシアは採用するんだろう?」…と思って色々調べてみたのですが、L-550Eはアルミで作られていて非常に軽量なんですね。2スト4気筒の548ccで16kg~18kg程度。それで50馬力が出せて、元の構造が単純なのでいじりやすい。

攻撃ドローンとして使用する分には、ようするに「使い捨て」だから高価な最新エンジンを必要とせず、なるべく安くて、使い回しが楽で確実な「枯れた技術」の方が良かったのでしょうね

そして、YOUTUBEで検索すると、L-550Eの教習ビデオが色々出てくるのですねw

こういうのを見てると、私もちょっとがんばったら、自爆ドローンが自作できるんじゃなかろうか…と思うぐらいです。こういう情報がたくさんあるのも、L-550Eの強みなのでしょう。

そもそも、中国ではリンバッハのエンジンを「軍事用」として売っている

これで、中国でドイツの航空機用エンジンが製造されるようになった経緯を整理できましたが、中国企業となったリンバッハ社は、自社で製造したエンジンが、軍事用に使われているのを認識しているのか…そもそも、冒頭で紹介したロイター日本語版の記事では「ドローンを含め軍事転用される可能性がある輸出品を厳格に管理している」という中国外務省の声明が紹介されていました。外務省がここまで言うなら、厳格に管理されているに違いないでしょうが、でも実際はロシアに軍事転用されている。それがなぜなのか…まずはリンバッハのサイトを探して…と思っていたら、変なモノを見つけてしまいました。

cn.made-in-china.com

▲こちらのリンクなのですが…

中国のB2B仕入れサイトで、中国製L-550Eエンジンの販売サイトを見つけました!しかも、これって販売代理店経由ではなくて、アモイのリンバッハ社(厦门林巴赫航空发动机有限公司)が直接、このサイトを利用して販売しているみたいですね。

そこで、エンジンの写真の上の文字(商品のタイトル)をよーく見て下さい。

▲「林巴赫, 林巴贺L550E航空发动机, 飞艇, 直升机, 巡飞弹发动机

…とありますね。

「林巴赫」「林巴贺」は共に「リンバッハ」の音訳。中国語表記では二種類あるので検索で引っかかりやすくしているのでしょう。

「航空发动机」は「航空エンジン」、「飞艇」(飛行船),「直升机」(ヘリコプター)、そして最後の赤い点線で囲った部分は「巡飞弹发动机」(徘徊型兵器エンジン)と書かれてあります。「徘徊型兵器」という言葉は聞き慣れませんが、英語なら「loitering munition」。カンタンに言えば「自爆ドローン」のこと。

日本だとちょっとありえないことなので驚きましたが、中国外務省が「ドローンを含め軍事転用される可能性がある輸出品を厳格に管理している」と公式に発表しているのにも関わらず、誰でも見られるB2Bサイトで、中国企業の子会社であるリンバッハ社は、中国のB2B仕入れサイトで、堂々と「自爆ドローンのエンジン」と明記して販売しているのです(!)。

輸出に関する部分で「厳格に管理」しているだけで、それに到るまでの販売とか商談に関しては、自由にやってもOKということなんでしょうかね…。

ただ、あくまでも表向きには「飛行船」や「ヘリコプターのエンジン」として販売して、それがリンバッハ社の預かり知れぬところで、「自爆ドローン」に使われてました…「いやぁ、そんなことになってるとは知りませんでした」というのなら言い抜けられるでしょうけど、B2B仕入れサイトで堂々と「自爆ドローンのエンジン」と銘打っているのですから、言い逃れができませんよね。

実際に「自爆ドローン」を製造しようとする人たちが、中国のB2B仕入れサイトで「巡飞弹 发动机」というキーワードで検索して見つけ、購入しているのかはちょっと疑問なのですがw、少なくとも、アモイのリンバッハ社では、ネットで「巡飞弹」という言葉を使って、このエンジンを販売している。中国外務省が「厳格な管理」と主張するものの、実態はその真逆であるのがわかりました。

イランのシャヘド136に使われていた「L-550E」は北京の会社が製造・販売?

冒頭にあげた英語版のロイターの記事では、

 The engine, which was originally designed and manufactured by a German company, is now produced in China by a local firm, Xiamen Limbach. The company did not respond to a request for comment.

(このエンジンはもともとドイツの会社が設計・製造したものだが、現在は中国の厦門リンバッハ社が生産している。同社はコメント要請には応じなかった。)

とあるのですが、実は北京にも販売している会社があります。

jp.made-in-china.com

▲Beijing Micropilot Uav Control System Ltd.が販売元。こちらの販売サイトでは、「自爆ドローン用エンジン」とは明記しておりませんがw

▲ 2022年11月2日のサウスチャイナ・モーニング・ポストに

Citing an open source review of available information, researchers found in their analysis published on Monday that the Shahed-136 drone uses an engine built by Beijing MicroPilot Flight Control Systems – which is a copy of an engine built by German company Limbach Flugmotoren.
(研究者らは、入手可能な情報のオープンソースレビューを引用し、月曜日に公開した分析で、シャヘド136無人機が北京マイクロパイロット・フライト・コントロール・システムズ社製のエンジンを使用していることを発見した。これはドイツのリンバッハ・フルグモトーレン社製のエンジンのコピーである。)

とあります。

ロイターの記事では、アモイのリンバッハに取材を申し込んで断られているので、今回報道にあったロシアの攻撃ドローンに使用されているエンジンがアモイ・リンバッハ社製である証拠を持っているのではないかと思われますが、

  • イラン製「シャヘド136」…エンジンはBeijing Micropilot Uav Control System Ltd.が製造販売しているL-550Eを使用。リンバッハ社への権利関係がどうなってるかは不明。
  • ウドムルト共和国製「Garpiya-A1」…シャヘド136によく似た設計。エンジンはアモイのリンバッハ社が製造販売しているL-550Eを使用。

そのどちらでも、中国製のエンジンが深く関わっているのは事実であり、何千台の単位ですでに製造され、実戦投入されていることを考えていると、中国外務省の「ドローンを含め軍事転用される可能性がある輸出品を厳格に管理している」というのは、嘘でなければ、中国の「厳格な管理」がよっぽどのザル…ということになります。

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この件、調べれば調べるほど、キリがないレベルで情報が出てくるので、どのようにまとめようか悩んでいるのですが、とりあえず今回はここで止めておきます。