早田ひなのさんの件について追記すると、特攻隊と中国は何の関係もなく、むしろ中国でも日本の特攻隊の愛国精神を称賛する人が多いのだが、最近は少しでも「親日的」であったり、日本帝国主義に寛容だと「精日」(精神的日本人)としてバッシングされるので、中国選手はフォローを外したものと思われる https://t.co/7g2K1UrbZE
— 黒色中国 (@bci_) 2024年8月15日
ツイッターでもすでに書いたが、改めてこちらでも書いておきたい。
私は長らく中国と関わって、住んでいたこともあるのだが、私は日本人なので、何かと戦争責任の件を話題に出されることが多かった。まるで私が戦犯であるかのように吊し上げられることもあった。だから私は「黒色中国」なるものを始めたのだが、ただ一つ…日本の戦争中の行いの中で、「別格」として扱われていたのが、「特攻隊」なのである。
以下、早田ひなさんの件を理解する上で、有用と思われる私の体験談を紹介しておきたい。
【目次】
中国人は、日中戦争以外に関心を持たない。
先に説明しておかねばならないのは、中国人は日本の戦争責任を追求するのが好きだけど、中国が関係ない日本の戦争についてはほぼ無関心なのだ。
冒頭の連投で述べた通り、私の大叔父は招集を受けてニューギニアに行ったが、大叔父が日本兵であっても、別にそのことで私が咎められることはない。ニューギニアでの戦いに中国人は無関係である。それは中国を侵略しているわけでもなく、中国人が犠牲になっている戦争でもないからだ。
なので、中国人が特攻隊について目くじらを立てる理由がよくわからないのである。
中国人は、政治家の靖国参拝しか批判しない。
私が靖国神社に参拝する…という話を中国人にすると、一部の中国人は感情的になるのだが、私の大叔父がニューギニアで亡くなっており、遺骨も戻らなかったし、私は長男なので一族を代表して東京にいる時には、靖国へお参りする…という話をすると、私とこの話題を語った全ての中国人は納得した。
中国では祖先を祀ったり、戦争で亡くなった人の慰霊をするのは、ごく当たり前のことであり、日本人よりも熱心だと思われる。中国人が靖国参拝で怒ったり批判するのは、大体が日本の政治家が参拝している場合である。私のような一般の個人や遺族が参拝することについて文句を言ってきた中国人には遭遇したことがない。
早田ひなさんは五輪のメダリストとはいえ、政治家でもないので、そういう立場の人が、特攻資料館へ行こうとしたからと言って、中国人が怒る理由がない。
日中戦争の時に、親戚が日本兵に刺されてずっと後遺症で苦しんだのを看病していた…という中国人の友人もいるし、日本軍の毒ガス攻撃を受けて村の土壌が汚染され、未だに身近に後遺症に苦しんでいる人がいる…という中国人の友人もいたけど、私が大叔父の慰霊で靖国へ行ってるのを理由に怒られたこともない。それは子孫の務めとして当然のことだよね…ぐらいの反応しかもらったことがないのである。
私の靖国参拝に怒った中国人もいたのだが、
▲こちらのブログ記事で書いた通り、ちゃんと説明すれば納得してもらえたのである。
日本の特攻隊を批判する中国人に会ったことがない。
中国人と日本の戦争責任の話になると、よく出てくるのは特攻隊の話題である。ただ、これだけに関しては、別格扱いで、「日本の侵略戦争は許せないが、神風はスゴイ👍️」と称賛するのである。
なぜこういうことになるのか。
そもそも日本の特攻隊は中国に対して攻撃をしたものではないので、怒る筋合いではない。人口が14億人もいるのだから、「日本軍がやったことは全てイヤだし、なにもかも許さん!どんなことでも文句をつけてやる!」という中国人がいるかも知れないが、そういう「批判者」は正常なものではないだろう。
冒頭のツイッターでの連投でも述べたように、中国人は「身を殺して仁をなす」(論語)とか「壮士一たび去りて復た還らず」(史記)という自己犠牲の話が好きである。中国のテレビや映画を見てると、自己犠牲によって敵と戦い、国や人を護る…という英雄がよく出てくる。
映画「八佰」とかでもめちゃくちゃ大量に特攻かけててびっくりした https://t.co/UcjN4KeA6l
— ∞無限けいちゃん∞ (@seijyunha) 2024年8月15日
中国のSF小説「三体」の中でも日本の特攻が出てきます。異星人と戦うにあたって日本の特攻精神を見習う流れで。その主張をするのは物語中ではアメリカ人ですが。
— 🐾 (@gatemara) 2024年8月15日
確かに、日本に来る様な中国人は帝国軍に対して拒否感はあるのに「特攻は無意味だった」って言う日本人がいるのは理解できないと言うかむしろ怒りを感じるって言ってたね。あくまで僕の周囲の観測範囲だけど。
— Лётчик (@l39_driver_jp) 2024年8月15日
そりゃ義によって立ち無謀な戦いで死んでいった中国史上の英雄全部否定されたと思うかもね https://t.co/tJaxIkI7py
荊軻の例で腹落ち。
— Jun / Джюн (@hitononaka) 2024年8月15日
こう言うのって、通奏低音的に日本と中国って通じる部分って、私の経験上ありますね。もしかしたら韓国人にも通じるのかもしれないけど、通じる韓国人にはまだ出会ったことがない。 https://t.co/srcETHehKA
今回の私の連投に対しても、このようなリプライをいただいた。
中国で自己犠牲を礼賛する映画やドラマが作られるのは、中国共産党のプロパガンダでもあるだろうが、そもそも中国人は伝統的かつ文化的に、自己犠牲を厭わず奮闘する人へのリスペクトがあるものと思われる。
早田ひなさんに対する中国の反応
中国人は14億もいるので、探せばいろんな意見が出てくるのだろうが、最後にわかりやすい事例として、中国のネットニュースとその反応を紹介しておきたい。
神風特攻と中国に何の関係があるのか?
▲こちらは、「早田ひな、知覧特攻平和会館訪問希望 『右翼発言』で後戻りできない」という記事。
大体は自動翻訳で読める。
中国人的血海深仇我们不会忘、不能忘、不敢忘。
(中国人は血の犠牲を払った深い恨みを忘れません、忘れることができないし、決して忘れません)
…という中国人の情緒に訴えかけるような詩のようなフレーズが出てくる。
ただ、ちょっと待て。知覧から飛び立った特攻隊によって、中国人が血を流した事実はあるのか。
ちなみに、この記事のオチは、
“神风特攻队”是日本军国主义在穷途末路之际的极端产物,他们给世界带来了巨大灾难。
(「神風特攻隊」は日本軍国主義が行き着いた極端な産物であり、世界に巨大な災害をもたらした。)
「神風特攻隊が世界に与えた巨大な災害」とは一体なんだろうか?
他们想申请“世界记忆遗产”,就是日本右翼势力妄图篡改历史、美化侵略的表现。
(彼らは、特攻隊を世界遺産に申請しようとしてるが、それは日本右翼勢力が歴史を改竄し、侵略を美化しようとする試みである)
…となっている。一人の卓球選手が知覧の特攻隊記念館に行ってみたい…と発言しただけで、ここまでの誇大妄想を展開するのは滑稽でもあるし、冒頭に掲げた中国人の「血の犠牲」と特攻隊が全然つながらないので、話を極端に広げてみたものとも考えられる。そして、こちらの記事のコメント欄では
神风特攻跟中国有什么关系?
(神風特攻と中国に何の関係があるのか?)
…という疑問が投げかけられている。この中国人が特別冷静というわけでもなく、これこそが率直な意見だろう。だって、特攻隊と中国は本当に何の関係もないのだから。
「オマエは日本の侵略集団に属するのか?」
▲こちらの記事では、中国の卓球選手である孫穎莎が、早田発言の後、SNSでのフォローを外したことを「厳正反撃」と称賛しつつ、孫穎莎の行いは「真の愛国心と歴史への敬意」であるという解釈を述べている。
そして、こちらのコメント欄を見ると…
神风特攻队是太平洋战争对美的吧?
(神風特攻隊って、太平洋戦争での米国に対してのものだよね?)
つまり「中国に関係ないでしょ?」というコメントが寄せられているが、それに対して
你就说属不属于日本侵略集团?
(オマエは日本侵略集団に属するのか?)
…という脅迫めいたリプライがついている。
「神風特攻隊って、太平洋戦争での米国に対してのものだよね?」というコメントには👍️が36もついているので、中国でもこうした意見に、それなりの数の理解者はいるのだろう。「理解者」というのか、これは単に事実を述べているだけに過ぎないのだ。
ただ、それだけの疑問を投げかけただけで、日本侵略者の同類にされてしまうのが今の中国であり、そうした狂信的な愛国が幅を利かしているのだから、本人たちの友情が実際どうかは別にして、早田ひなさんのフォローを外さねば、自分たちが危うい…という危険な状況にあるのだろう。
* * * * *
そもそも早田ひなさんは、平和への感謝から特攻資料館を参観したいと述べただけで、別に過去の戦争を礼賛したり、もう一度似たような戦争をやろう…みたいな考えは全然ないものと思われるが、ここまで曲解をした上で、フォローを外しただけのことを、愛国心と絡めて「厳正反撃!」とメディアが絶賛し、少しの疑問も許容しない今の中国とは、そもそも真っ当な友情は成立しにくいのではないでしょうか。