黒色中国BLOG

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青海省のチベット人自治州の小学校の教室に掲げられている肖像画の1人が意外に真っ当な人物であったことについて

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西村幸祐さんのツイートを見ていると、こんな写真が紹介されていた。

毛沢東、周恩来、鄧小平はすぐにわかるし、西洋人がマルクス、エンゲルスというのもすぐに察しがつく。一番右端は孔子か…でも、もう一人いる。一番左端の人は一体誰なのだろうか?

元はツェリン・オーセルさんのツイートらしい。それによると、一番の左の人物は李時珍らしい。

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▲李時珍の肖像画。確かに青海省の小学校に掲げられている肖像画に似ている。李時珍は、本草学の偉い人で有名なのだが、それにしても、毛沢東、周恩来、鄧小平、マルクス、エンゲルス、孔子…と来て、どうして李時珍になってしまうのだろうか。

李時珍は中国の「野口英世」?

李時珍をウィキペディアで引いてみると、次のように要約できると思う。

  1. 医者である親は科挙の受験を薦めていたけれど、医者になりたかった。つまり、親孝行だ。
  2. 23歳で医者を志して34歳で当時の医学の最高機関の推薦を受けている。とても優秀な人物だ。
  3. 湖北省から北京に行ってたけれど、中央の役人に向かなかった。あまり欲がない人なのか…。
  4. 結局1年で田舎に戻って、医者になった。
  5. 『本草綱目』を著して、世界的に有名な人物になった。

こうやって見てみると、青海省の小学校の教室に掲げられている人物の中で、一番身近に模範にしやすい人ではないだろうか。なかなか真っ当な人なのである。日本でいえば、野口英世みたいなポジションの人なのであろう。

青海省は貧しい地域として知られている。そういう土地の小学校で、政治的な人物の他に、苦学から立身出世して世界に名を馳せた人物が入っているのは、適切ながらも妙な取り合わせである。

中国の愛国主義教育

【PDF】『中国の愛国主義教育に関する諸規定』
▲こちらの資料の6頁目に、湖北省にある「李時珍記念館」が出てくる。李時珍記念館は、「愛国主義教育模範基地」に指定されているのだ。他の記念館はほとんどが戦争や革命に関係するものだから、李時珍はそういう中で少数派の歴史上の人物の一人である。

ツェリン・オーセルさんは、チベット人の肖像画が一つもない!とお怒りなわけだが、(この小学校がある青海省玉樹蔵族自治州囊謙県はチベット人の自治州である)、たぶん愛国主義教育の中で取り上げられうようなチベット人そのものが存在しないのではないか。

そういう人選の中で、他の革命家や軍人でもなく、李時珍が入っているのは、逆に青海省の小学校運営者の良心を感じなくもない…現地の教育者の本心としては、李時珍以外は全て「オマケ」じゃないだろうか…と想像し、ツイッターの他のみなさんはお怒りなのだが、私はつい微笑ましく思ったのであった。 

本草綱目―臨床百味 (三考塾叢刊)