黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

「性自認」があるなら、「国籍自認」もある

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「英利アルフィヤさん」という方が、ツイッターで話題になっている。

お名前だけは何度か見かけていたが、私はツイッターをやっていても、自分の興味・関心以外のツイートが目に触れないようにしている。だから、昨晩、彼女の詳細を知ったばかりだ。

▲そこで、こちらのブログ記事を読んだのだが、その中の一節がとても気になった。

日本の法律では、日本で生まれても両親が外国人だと外国籍を所有することとなるため、私は両親が帰化した際に一緒に日本国籍を持つこととなりましたが、帰化する前に父親が、「これから家族で日本人になるけど、どう思う?」と聞いてくれた時、「私はずっと日本人だったよ」と答えたそうです。
心ではそう思っていたとしても、日本のパスポートを初めて手にした日の感動は、今でも鮮明に覚えています。

ウイグル人とウズベク人の両親を持ち、子供ながらに言葉や文化も全く違う中国のパスポートを持つことに違和感を持っていた私にとって、自分のアイデンティティーと、社会から与えられるアイデンティティーが、初めて一致した日でした。

アルフィヤさんは日本で生まれ育っても、両親共に日本人ではないので、「日本人の血統」は一切ない。

ただ、この人には「日本人の魂」が降臨したのだ。

先祖代々の純ジャパの皆さんにはわかりにくいかも知れないが(私もその一人であるが)、世の中には日本で生まれ育っても、長く日本に住んでも、片親が日本人であっても、両親が日本人であっても、「日本人の魂」が降臨しない人がいる。今日はその件について書こうと思う。

【目次】

「日本人の魂」が降臨しなかった人

私の友人に米国人(先祖はドイツ系で全くの白人)の男性がいて、日本人女性と結婚して女の子が生まれた。彼女は日本で生まれ育ち、日本の学校に通った。インターナショナルスクールではなく、小中高と地元の公立である。

いわゆる「ハーフ」であるから、アイデンティティに悩むとかあるのでは…と思ったが、聞いてみると全くそういう悩みはなく、「自分は米国人」というアイデンティティしか持てなかったらしい。

彼女はハーフであるのを理由に、子供の頃にいじめられた経験がある。それが幾らかは原因になっているのかも知れないが、「日本は単に生まれ育っただけの場所」「日本が嫌いなわけではないが、自分は米国人だから米国にいたい」と考えて、高校を卒業してすぐに米国に渡り、それから日本にはほぼ帰ってこなくなった。

「ほぼ」というのは、米国で結婚して子供が出来た後、母に孫の顔を見せるため何度か日本に「来た」だけで、それ以外の理由で「帰ってくる」ことはなかったのだ。ようするに、彼女にとって「帰る」場所は米国であって、日本は生まれ育った国であったとしても、用がなければ「行く」ことがない。

「たまに、日本が懐かしくなったり、帰ってきたくなることはないのですか?」と聞いてみたが、「日本の好きな食べ物をたまに欲しくなることはあるけど、それ以外にそういう感覚はないですね」とのことだった。

ようするに、彼女は日本人の母の血統を受け継ぎ、日本に生まれ育ったけれど、彼女に「日本人の魂」は宿らなかった。

最近、「性自認」という言葉をよく聞くが、それと似たような感じで、彼女の国籍自認は全くの「米国人」なのだ。

両親共に帰るべき「国」を失っている人

私の知人に、父が満洲国生まれの日本人で、母が米国籍華人という人がいる。

父は満州国で日本人の両親の下に生まれ育ったが、終戦後に日本に帰ってきた…というより、終戦で「祖国」を失って、初めて「日本に来た」のであって、この人にとって日本は「帰ってくる場所」ではなかった。

とりあえず国籍は日本である。日本語も不自由なく話せる。ただ、日本にいても居心地が悪いので英語を学んで米国へ渡り、そこで知り合った華人の女性と結婚して出来た子供が、私の知人である。

あまりに複雑なファミリーヒストリーなので、この知人の国籍が現在どうなっているのかは聞かなかった。父の国籍が日本で、知人も日本での生活が長いので、日本国籍になっているかと思われるが、私が気になったのは知人の「国籍自認」である。

父の国籍自認は「満州国」である。ただ、この国は1945年に消滅して存在しない。

母の経歴の詳細は聞かなかったが、米国生まれの華人なので、年齢から考えて、中華人民共和国の成立前か直後に、祖父母が米国へ渡っているはずである。米国で生まれ育っているが、自分のルーツとなる「国」はない。少なくとも中華人民共和国に「国籍自認」を感じないはずである。

「自分のアイデンティティとしての『国籍』…どこが自分の帰るべき『国』なのか、考えたことはありますか?」

と知人に聞いてみたのだが、「そういうことはあまり気にしたことがない。どこにいても自分は自分ですから」という回答であった。

自分の居場所、帰るべき場所がわからない

両親の家系が共に先祖代々日本人で、日本に生まれ育って、日本からあまり出ることがない日本人にとって、こういうことはほとんど周りに事例がないし、国籍自認に悩むこともないけど、私の周囲には昔からハーフの人や、複雑な生い立ちを持つ人が少なくなかった。

私自身、幼少期に家庭の事情で、親の郷里の小さな漁村に預けられたが、祖父母の関係が悪くて居心地が悪く、私は全くのヨソモノなので、漁村の子供とも仲良くなれず、毎日一人で漁港へ行って、ずっと海ばかり見て過ごしていた。

幼少期に「ここは自分の居場所じゃない」「自分には居場所がない」という気持ちを心に刻みつけてしまったので、私は先祖代々の純ジャパで日本が嫌いでもないのだが、日本が自分の居場所じゃない…という気持ち、日本から出ていこうとする気持ちが強く、そういう事情から、中国語を学ぶようになった。

だから、自分の居場所がない人、居場所がよくわからなくなってしまった人、国籍自認に齟齬がある人、日本とは本来縁がない人なのに、「日本人としての魂」が降臨してしまった人、日本に生まれ育った日本人だけどヨソの国に「帰るべき祖国」を見つけてしまった人の気持ちがよくわかる。

* * * * *

こういう複雑な情況にある人が、身近にいない日本人にとって、

「コイツは一体ナニ人なんだ」

「日本人なら日本人らしくしろ」

「日本がイヤなら出て行け」

「二重国籍じゃないか」

「スパイだろ」

と言いたくなるのはわかるのだが、できればそっとしてあげてほしい。

わざわざ他人に言われなくても、本人自身が毎日のように、自分が一体ナニモノで、自分がいるべき場所、帰るべき場所がドコなのかを、自問自答して苦しんでいるのだから。