以前、中国に住んでいた頃、中国人の友人と話していたら、靖国神社の話題が出ました。
友人は、靖国神社をずいぶん「悪い場所」と思い込んでいて、「まぁ、中国人だからそう思うのも無理ないわな…」と思いましたが、話を聞いている内に、「何か変だな」と気づいたのでした。
「いや、オレも靖国に行ったことあるけど…」と私が告白すると、
「どうしてオマエが靖国に行くんだよっ!」と友人がひどく怒るので、
私が参拝する事情も説明しつつ、撮影した写真も見せながら、靖国神社が実際はどんな場所なのか、説明したことがありました。
最近、ハードディスクにたまった昔の画像を整理していたところ、友人に見せた写真が出てきたので、当時私が友人と話した内容を、写真と共に、こちらで再現してみようと思います。
【目次】
- その前に…どうして私が靖国神社の参拝するのか
- 中国の友人に写真を見せて靖国神社を説明してみた
- 第一鳥居から外苑休憩所まで
- 第二鳥居から拝殿まで
- …それから10年後
- 我々が「中国人は日本を誤解してる」と思う時、我々も中国について酷い誤解をしている。
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その前に…どうして私が靖国神社の参拝するのか
この手の話題になると、すぐに感情的になって突っかかって来る人が続出するので、先に書いておきますが、私の祖父の弟がニューギニアで亡くなっておりまして、遺骨も帰ってきておりません。
私が子供の頃、一族が集まったお盆の時に、僧侶の読経が退屈で、私はずっと軍服姿の大叔父の遺影を見ていた。祖父の代は兄弟が多くて、ニューギニアで戦死したのは末っ子だった。生き残った兄弟たちは、戦後になっても、かわいい末の弟が戦死したのがツラかったようで、遺影を見る度に悲しそうにしていた。まだ幼い私が無邪気に、大叔父の話を聞きたがるのが心苦しいようでした。
* * * * *
その後、私は故郷に帰る機会が少なくなり、墓参りにも行けなくなったけど、東京に住んでいたこともあり、今も上京する機会があるので、その時に墓参りのツモリも兼ねて、大叔父の慰霊のため、靖国神社に参拝しています。既に全員が他界してますけど、祖父とその兄弟たちの思いも込めて。
たまたま、東京で勤めていた時の職場が靖国神社に近く、飯田橋の駅を利用することが多かったので、ちょうど通り道でもあったし、現在も上京時に、その周辺へ顔を出すことが多い…という事情もあります。
こういうことをツイッターで書くと、「だったら、千鳥ヶ淵へ行けよ!」と怒る人もいるのですが(いるんですw)、私の以前の職場と飯田橋駅の間は、千鳥ヶ淵へ「ついで」に通りかかる位置にはなかったので、千鳥ヶ淵には一度しか行ったことがありません。別に、千鳥ヶ淵を慰霊の場として認めない!というわけではありません。
中国の友人に写真を見せて靖国神社を説明してみた
友人と話していて、「何か変だな」と思ったのは、どうやら靖国神社は、一般の人が入れない場所?と思ってるみたいで、政府要人のための特別な場所、戦争犯罪者を祀る宗教施設…みたいなことを言ってたのですね。
だから、
「靖国神社はほとんどの場所が、誰でも入れるし、何の許可もいらない。公園みたいな場所だ。出入りを監視する人もいない。街中にあって、大きい場所なので、単に通りすぎるためだけに中を通る人もいる。私も以前、会社から駅へ向かう時によく通った。靖国神社は戦死者が祀られる場所で、祀られているのは戦争犯罪者だけではない」、と説明をすると…
「はあ?そんなわけないだろ!」、と怒る。
「いや、靖国神社は骨董市をやってたり、桜を見に行く場所でもあるので…」、と続けると、友人は更に怒り出すので、写真を見せてあげたわけです。
鳥居をくぐる前から、順番に見せていくわけですが、冒頭の大鳥居(第一鳥居)を見ると、その大きさに驚いたのか、表情が不機嫌になってきました。
「靖国神社」の文字を見ると、更に表情が険しくなってきました。
▲靖国神社の位置関係がわからない人はこちらをご参照下さい。図解があります。
第一鳥居から外苑休憩所まで
▲で、この写真を見せると友人はしばらく黙り込んでしまいました。
「靖国神社って、いつもこういうのやってるの?」
「いや、毎日ではないけど」
ベティちゃんとか、信楽焼のタヌキ、仙台四郎の置物…中国の友人が長年頭に刷り込まれてきた、「靖国神社」のイメージが崩壊していく…
▲この写真を見た時は、ちょっと「アレ?」という顔をしてましたけど、中国人視点でこれが何なのかはすぐわからなかったみたいで。とはいえ、これは別に戦争を賛美してるわけでも、ウヨクの街宣でもなく、骨董として販売してるだけですよね。
「ここは何なの?」
友人には、「人形焼」「COFFEE」「氷」ぐらいしか読めなかったはず。
「お土産物屋さん。お菓子とか飲み物、アイスクリームなんかも売ってる。靖国神社は観光地で、たくさんの人が来るから、こういう場所がある。」
このあたりで、友人は靖国神社が、政府要人だけが参拝する場所じゃないのを理解し始めたようでした。
第二鳥居から拝殿まで
▲ただ、この写真を見ると、
「ほらほら!日本軍だ!」
と言い出した。中国の抗日ドラマでもよく見かける皇軍兵士の軍服姿。しかし、よく見ると女性やお爺さんと話し込んでたりして、いかめしい雰囲気はない。
「いつもではないけど、靖国へ行くと、そういう格好の人がいる。政治的な意味があるのか、単なる趣味かはわからない。人によって違うと思う。多くの日本人は、こういう格好をする人について好感を持ってない」
と説明すると、
「そうなのか…」と納得した感じでした。
日本と違って、中国の場合は街中に軍服を着た人が結構いるので、日本人よりも「軍服アレルギー」は少ないのかも…と、この時気づきました。
「これ何なの?」
「手を洗うところ」
「大昔は、全身を清めてから参拝したらしいけど、今は手を洗い、口をすすぐだけ。」
「あのひしゃくは、みんな口つけるの?」
「いや、口は直接つけなくて、こうやって、手に受けて水を飲むの」
…と身振り手振りで教えてあげると、なんとなく理解してくれました。
そして、第二鳥居。
「ここをくぐって中に入ったら、靖国神社」
「今までのところはなんだったの」
「今までのところも、靖国神社の一部だけど、『境内』って中国語で言ってもわからないのか。今までのところは、神社の前の公園みたいな場所」
あながち、間違ってはないだろう。
「これは何を書いてるの?」
「靖国神社には、いろんな人がやってきて、色々活動したり、悪いことをする人がいるから、やってはいけないことの注意を書いてるの」
そして、後ろに「菊花」という文字が見えた。
「靖国神社は、さっき言ったように、桜を見に来たり、菊の展示をしてたりするの」
「これが靖国神社」
「え?」
「これが靖国神社」
「こんなに小さいの?」
友人は信じられないようだった。中国にはもっと巨大な建築物がいくらでもあるから、ガッカリしたのだろう。友人は上海の人だったけど、靖国神社の拝殿は、たぶん静安寺よりも小さいし、どう見ても地味だ。
「こんなに小さいの?お墓は中にあるの?建物のウラ?」
「靖国神社は霊を祀るだけで、墓はない。中国でいえば、北京の人民英雄紀念碑みたいなものかな」
「建物の中に遺骨とかないの」
「ない。」
「じゃあ、靖国神社の中には何があるの?」
「名簿だけ…じゃなかったかな。とにかく墓はない。骨もない。」
靖国神社に過敏な反応を示す中国人の中で、靖国神社を墓地と勘違いしている人は他にもいた。ようするに、中国人は靖国神社を危険視して、誰かが参拝すれば大騒ぎして罵倒するくせに、そこが何なのか正確に知る人は少ないのでした。
* * * * *
一通りの説明を終えましたが、友人はウヨい日本人が期待するような「靖国の真実がわかった!日本は素晴らしい!」というような、前向きな理解を示してくれたのではなく、ただ単にがっかりしただけ…「期待はずれ」なようでした。
今まで、中国でのプロパガンダ…靖国神社に対する過剰なネガキャンのせいで、「日本の政府要人が軍国主義の亡霊を招魂し、大日本帝国を復活させようとしている!靖国神社はそのための恐ろしい宗教施設だ!」と友人は思い込んでいたのでしょう。そんな場所に、一般人が行くのであれば、よっぽど特別な人間なのか、または日本の極右政治家のように、大日本帝国の復活を願う危険な極右分子と思ってしまうのか。
ただ、私の写真を見ると、大きな公園みたいで、誰でも自由に入れるし、骨董市をやってるし、アイスクリームを売ってるし、軍服を着たお兄さんはいても、お姉さんやお爺さんと仲良さそうに話してるだけだし、オドロオドロシイ邪教の神殿でもなかった。中国にある寺や道観(道教の施設)に比べると、随分質素に見えたはず。
私の写真解説は、遊就館には触れてないから(その時、遊就館の写真はなかった)、ちょっとアンフェアではありますがw。ただ、遊就館は、靖国へ参拝に来る人全員が行くわけでもなく、遺族でも全員が、遊就館の展示や主張を全部肯定するとは限らないので、判断は微妙なところ。遊就館を口実に、参拝者を極右扱いして責めても、何の意味もない。それに、中国にも反日記念館とか、軍事博物館はありますしね。
…それから10年後
写真は2005年秋の撮影。友人に見せたのは2005年か2006年だったと思います。ただ、それから10年ほど経って、中国人観光客がたくさん日本に押し寄せるようになってからは、靖国神社で中国人をよく見かけるようになりました。
その頃、靖国神社の能楽堂のそばを通ったら、中国語が聞こえました。よく見ると、観光客らしき中国人のオバサンが数人…この人達は、ここが何なのかわかってるのかな?と疑問に思ったので、話しかけてみたら、
「靖国神社でしょ。知ってるわよ」
「東京は人が多くて、狭苦しいけど、ここは静かで気持ちよくて、のんびりできるからいいわね」
「木が多いし、空気がいい(^^)」
確か、団体で観光に来て、その関係でバスが近くで停まっていたとか、わかりやすい場所だから、仲間との待ち合わせのため休憩している…とのことでした。
しばらく、オバサンたちと雑談して見ましたが、特に歴史問題やら戦争犯罪に敏感なところは全く感じられなかった。怒ってる様子もなかった。本当に、ただの観光客が歩き疲れて、休んでいるだけなのでした。
我々が「中国人は日本を誤解してる」と思う時、我々も中国について酷い誤解をしている。
中国では、靖国神社について、オドロオドロシイ印象を植え付けているので、その実情をよくわかってない人たちが、勝手に妄想をふくらませて、過剰な反応をすることがある。こういうのは、日本でもある。ロクに靖国に行ったこともない人ほど、偏見に満ちた靖国批判をやる。または、ロクに中国に行ったことがない人ほど、何かの受け売りで、オドロオドロシイ印象の中国を語って知ったかぶりする。
ただ、私の知る限り、中国人に靖国神社の説明をすると(上掲のような説明を毎回全部やってるわけではないけど、今まで複数の中国人にこの手の写真を見せて説明したことはある)、大体は「がっかり」した感じで、
「なんだ、たったそれだけの場所なのか」
という反応をして、私が参拝することについても特に何の文句も言わなかった。
「一般国民が参拝するのは、信仰の自由だし、いいんじゃないかな。中国でも戦死者を追悼することはある。それを怒る中国人はいないと思う。中国人が怒るのは、日本の政治指導者が参拝することだ」
この問題に、10年以上向き合ってきた私としては、靖国神社について過敏に反応し、怒り出す中国人がいても、
「この人は靖国神社が何なのかよくわからないまま怒っているんだな」
…と受け取って、あまり厳しく責めたり、怒ったり、言い返したりしない。そんなことやっても、何もわかってくれない。余計に亀裂を深めて、関係を悪くして、靖国を、日本を、誤解させてしまうだけなので。
むしろ、我々日本人としては、ロクに行ったこともない中国のことを、誰かの受け売りやら、メディアが恣意的に切り取って作った情報を信じて、知ったつもりになって、一方的に怒ったり、誰かを責めたりしないように心がけたい…我々の方から、謙虚に中国への理解を深めれば、中国人にも偏見なく日本を理解をしてもらえるようになるはず…と思うのです。