【新疆で太陽に最も近い県、「光」で貧困脱却】
— 黒色中国 (@bci_) September 23, 2019
発電所の発電による利益は年間約2000万元(約3億円)に上り、現地の財政収入の約6分の1を占める。20年の貧困者支援期間内に貧困者を支援することができるだけでなく、農村振興と特色産業の発展に安定的に資金を注入できるhttps://t.co/Ow8pRWpOZm
▲こちらのツイートに質問あり。質問主を晒すつもりはないので粛々とブログを書きますけど、ようするに、「中共が少数民族のために良いことなんかするわけがない!絶対裏があるに違いない!どうせこんなのは搾取だ!」みたいな話はよく聞きます。
その手のクレームで叩かれるので、普段この手のニュースは流さないことにしているのですが、「太陽光発電」というのが気にかかったのでツイートしました。
中国の太陽光パネルは世界でも大きなシェアを占めているのですが、欧州でダンピング制裁の関税をかけられたり、トランプの対中関税の対象になったりで、結構「山あり谷あり」な産業分野です。
たぶん、貧困解消と絡めて、太陽光パネルの内需拡大を狙っているのだろうな…と思ったのですが、概ね間違いなかったみたいです。以下、解説を始めます。
【目次】
半分以上が深セン市福田区政府の出資
新疆ウイグル自治区発展改革委員会によると、これは新疆初で現在唯一の太陽光貧困者支援集中発電所だ。プロジェクトの投資総額は1億7400万元(約26億1000万円)で、うち深セン市福田区政府が9000万元を出資。深セン能源集団が残りの資金の調達および建設、運営管理を担当する。
▲まずはライブドアニュースをしっかり読むことにしますが、
- このプロジェクトで作られたのは「太陽光貧困者支援集中発電所」である。
- 投資総額は1億7400万元。
- その内、深セン市福田区政府が9千万元(51%)
- 残り(8400万元)は深セン能源集団が出資。建設、運営管理も担当する。
▲深セン能源集団は、深セン市政府系の電力・ガス供給会社。珠江デルタ地域や新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区、河北省など各地で事業を展開…と二季報で説明されております。
日本のニュースではあまり出てきませんけど、沿岸大都市の政府と企業が一緒に、内陸部の支援で投資を行うのは結構ありまして、中国国内のニュースでは度々みるので、あまり珍しいことでもありません。
中国語の記事を読む
新疆维吾尔区首个光伏扶贫集中电站并网发电 - OFweek太阳能光伏网
▲中国国内での報道を見ると
- 「在广东省、新疆自治区两省区主要领导共同协调推动下」
これって広東省と新疆ウイグル自治区が主導して行っている事業のようです。 - 「对促进我区光伏扶贫项目实施」
ここの「我区」とは新疆ウイグル自治区のこと。「光伏」とは太陽光発電、「扶贫」は貧困扶助、「项目」はプロジェクト。つまり新疆ウイグル自治区では太陽光発電で貧困地域を助けよう!というプロジェクトがあるんですね。 - 「该项目收益产生的全部利润用于塔县扶贫工作」
このプロジェクトによって得られた全ての利潤は、現地での貧困扶助工作に使われる…とあります。「全ての収益」ではなくて、「収益が生み出した全ての利潤」(收益产生的全部利润)とあるので、収益から深セン能源集団の運営管理費を除いたのが「利潤」ですね。 - 「每年向塔什库尔干县政府支付不低于500万扶贫款,实现精准扶贫800户贫困户,每年每户3000元扶贫效益,扶贫期限20年」
毎年タシュクルガンのタジク自治県政府に最低でも500万元の貧困扶助費が支払われ、800戸の貧困家庭を助け、毎年各家庭に3000元の「扶貧効益」(貧困支援効果)があり、扶貧期限は20年である。
⇒ライブドアニュースでは、年間収益2000万元とあったので、貧困扶助に500万元しか払われないということは、1500万元は深セン能源集団の「運営管理費」と思われます。
そして、500万元を800戸で分けると6250元のはずなのですが、なぜか「3000元」…半分以下ですね。それと、ストレートに「3000元支払われる」と書かずに「扶貧効益」があると書くのは何なのか。3000元相当の効果があるよ、という意味なんですけどね。ちょっと怪しくなってきました。各家庭に行くはずの残りの3250元はどこへ消えるのか。一応、このプロジェクトを進めるための現地政府のコストも計算に入れるべきなんですけど、それが各家庭に行き渡るお金より多いのって変ですよね。良心的に考えたら、とりあえず利潤は全部貧困扶助のために使われるとあるので、各家庭へ支給されるお金とは別で、貧困扶助政策のために使われる(インフラ整備や学校建設かな?)という風に解釈するしかありません。
▲「光伏扶貧」プロジェクトによる太陽光発電施設。
貧困支援は現金支給ではなかった!
いろいろ漁っている内にみつけたのですが、
▲こちらの記事に、「暖棚」(ビニールハウス)という言葉が出てきます。温度調節可能とか書いてる。つまり、太陽光発電の利潤で受けられる貧困扶助とは直接現金をもらうのではなくて、ビニールハウスの形で支給されて、それで野菜を育てて自分たちで食べたり、売ったりすることができる…ということのようです。そのために、各家庭に3000元相当の貧困支援効果がある…というちょっと回りくどい書き方になっていたのでしょう。
ここでなんとなく見えてきましたが、
- 深セン能源集団は単に太陽光発電だけの運営管理をしているのではなく、この地域の電力供給も行っており、年間1500万元の管理費はそれもコミになってる(はず)
- こんな僻地で発電して誰が買うのだろうかというのが謎でした。一次産業がメインなのです。ただ「温度調節可能なビニールハウス」というのは太陽光発電所で作った電力を使っているのでは?
- 年間500万元の利潤の半分以下の3000元しか各家庭に行き渡らない…しかも現金支給ではないのは、ビニールハウスの形式を取っているからであり、利潤の半分以上はビニールハウスの維持管理や農業技術の指導(たぶん市政府がやってる)のコストとして使われている(はず)
たぶん、こういうことじゃないかと思われます。
さきにこっちを読んでおけば良かった…orz
▲百度百科の解説にありましたけど、そもそも「光伏扶貧」プロジェクトそのものが、家庭やビニールハウスに太陽光パネルを設置して貧困を解決しよう…というものだそうです。
新疆でのプロジェクトは、各家庭や各ビニールハウスに太陽光パネルを設置するのではなくて、どこかに集中させて太陽光パネルを設置し、「発電所」から電源を供給する…その収益が現地農家のビニールハウスになり、エネルギー源も太陽光発電所から…ということではないかと思われます。
【追記】タシュクルガン・タジク自治県とはどこにあるのか?
この地味で誰も読みそうにないブログ記事…公開してから結構なアクセス数がありましたので、戴いた質問などに回答する形で、こちらに追記しておきます。
▲いつもなら、場所を明確にしてから解説が始まるのですが、今回は順序が逆になりました。新疆ウイグル自治区にあるタシュクルガンのタジク自治県とは
▲こちらですね。新疆ウイグル自治区の一番西寄りの地域です。平均高度は 4000mを越えるそうなので、深センからソーラーパネルを持ってきて発電所の建設やら運営管理をするだけでも大変そうです。人口は3万人になります。富士山より高いところに3万人が住んでいる…というのが驚きです。ウィキペディアの説明では「タクラマカン砂漠からパミール高原を越えて西トルキスタンに至るシルクロード上のオアシスのひとつであった」とのこと。
▲こちらはYOUTUBEにあがっていたタジク自治県の紹介ビデオ。中国でも特別美女の多い地域だとか。それはさておき、高度4000mでどうやって生活してるのか不思議でしたが、川だか湖?みたいなのが映像に写っています。雪山が多いので雪解け水で川とかできそうですね。そういう地理的条件で「オアシス」だったのでしょう。
▲こちらは百度百科。
▲一次産業メインの地域ですが、生産しているのは大半が穀物(64100ムー)で野菜は1100ムーしか作付面積がありません。穀物は小麦とトウモロコシ。綿花と果物(ほとんどが杏とナツメ)も作っている。
▲この地域、高度4000mで日当たりはいいけど、一年を通しての気温が低めで夏でも20℃前半ぐらいがいいところ。冬は-18.5℃まで下がるそうで、寒さに強い穀物なら良しとして、野菜の類は温度調節可能なビニールハウスなしでは、一年を通して育てるのが困難…ということだったのかと思われます。
▲それと、以前からタシクルガン川を利用した水力発電所があったようです。