発売予告がずっとツイッターで流れていたこともあり、気になっていた本なので読んでみました。
昔の中国人留学生
私が中国語を学び始めたのは、石平さんが日本に来てからしばらく経った後なのですが、この本を読んで思い出したのは、昔の中国人留学生のことです。
私が中国語を学ぼうとしていた時に、知人のツテで、近所にいる中国人留学生を紹介してもらいました。確か30歳過ぎぐらいで、繁華街の外れの小さなワンルームに住んでいました。最低限の調理器具と食器、衣服と寝具と本以外はほとんど何もない部屋で、質素な生活をしていたのでした。
私はこれから中国語を学ぶこと、中国に留学することに不安を持っていたので、誰かに相談してみたかった。私の母が手作りの料理を持たせてくれて、一緒にそれを食べながら、彼の話を聞きました。日本語が少したどたどしいところもありましたが、丁寧かつ礼儀正しい口調で、日本は素晴らしい!日本はとても良い国です!…と興奮気味に話してくれた…肝心の中国の話はほとんど聞けませんでしたが、彼は私が会ってジックリと話した初めての中国人でした。中国人はこんなに真面目で、質素な生活をして、日本への好意を持ってくれているのか…と思うと、中国語を学ぶこと、中国へ留学することへの不安は薄らいだのでした。
しばらくして、学業が忙しくなったとか、バイトが変わったとかの理由で、彼は遠くの町に引っ越したので、再び会う機会はないまま、それっきりなのですが、当時は他の中国人留学生もこんな感じでした。石平さんも、かつてそういう中国人留学生の1人だったのが、本書から伺えます。
1988年に石平さんは鑑真号に乗って日本に来ましたが、その翌年に天安門事件が発生します。
この32年の中国の変化を、日中関係の変遷を如何に見てきたのか…そういうことは、他の著作で触れられていますが、本書では彼を魅了した日本の美にまつわるエピソードと共に、如何にして石平さんは日本でヨメをみつけて結婚したのか。撮影に使用したカメラはソニーのα7IIIで、実は動いているものを撮影するのは苦手だとか、愛用の腕時計はセイコーであるとか、運転免許は持ってないので家のクルマはヨメが運転するとか、彼の個人的かつ細かいところまで「等身大の姿」も綴られています。
私は、昔出会った中国人留学生がその後、どんな人生を歩んだのか…それを石平さんの独白に重ねて読んだのでした。
日本と四川
私は四川省が好きで、あちこち旅したのですが、それでわかったのは、日本は海に囲まれた「島国」だが、四川は山に囲まれた「島国」である…ということでした。
四川は山地や丘陵が8割以上を占め、平地が少ない地域です。「四川」という名前からわかるように、川も多い。四川省の自然環境は、海がないことを除けば、なんとなく日本に似ている。少ない平地を有効活用するために、風景もなんとなく日本に似ている。私は中国のいろんなところに行ったことがあるけど、四川省の風景には、日本人の心に響くものが少なくない。そして、そういう環境に育った四川人と話していると、他の中国人にはない、特別な親しみを感じるのでありました。
▲四川省広元市で撮影。山間の川のそばにある平地に家を建て、田畑を耕し、作り出された風景はなんとなく日本に似ている。これを見てすぐに日本か中国か、見分けが付く人は少ないのではないでしょうか。
本書の64頁から始まる「瑞穂の国の田園風景と稲作文化」において、日本と四川省の共通点…稲作農業を中心としており、その田園風景がよく似ていることを石平さんは指摘されていますが、私は同様のことを、四川を旅することで感じ取っていたのでありました。
石平さんは既に日本に帰化されて13年が経過しており、私なんかよりもずっと立派な日本人なわけですが、「元中国人」であり、「四川人」であった彼が、なぜ日本に魅了されたのか。四川省の旅の記憶を思い出しながら、本書の写真を見て、文章を読みつつ想像していると、非常に楽しめました。
32年前に日本にやってきた元中国人留学生の自伝、日中の間に生きた元中国人青年の記録、四川人の視点で日本がどのように見えたのか…という角度で読み解くと、石平さんが日本の風景に見出した「美」が、より深く切なく心に響いたのでした。
関連記事
▲こちらでは、昔、日本へやってきた中国人留学生に、どうして日本人は優しかったのか、その背景を書いております。