黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

【新型コロナウイルス肺炎】(6)新型肺炎はいつ、どこで、誰が「新型」と認定したのか?

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黒色中国のブログには、連絡用のメールフォームがあります。

▲こちらですが、様々な質問やら問い合わせが寄せられます。

内容的には単なる嫌がらせだったり、答えるまでもない愚問だったりで、全部の質問に答えるわけではないのですが、たまに興味深い質問が届きます。

今回寄せられた質問は、メールで回答するだけではモッタイナイので、他の皆さんとも共有しておくため、こちらに記事として公開いたします。

【目次】

(1)なぜこの質問を取り上げるか?

寄せられた質問のメールの詳細な文面については、個人のプライバシーもあるので、こちらでは取り上げません。簡潔に申し上げて、タイトルの通りです。

新型コロナウイルス肺炎は、

  • いつ
  • どこで
  • 誰が

「新型」として認定したのか。

▲私は去年の大晦日から、この件について関心を持ち、ずっとその詳細を追っていました。正式に「新型コロナウイルス」と発表される前から、これはSARSだとか、コロナウイルスだという情報はあった。だから、中国当局が正式に発表した件については、特に大きなニュースだとも思わなかった。「やっと認めたか」というのが正直な感想でした。

ただ、いま改めて振り返ると、いつどのタイミングで中国当局が「新型コロナウイルス」と認定したのか…というのは、別の意味を含んで注目すべきことになっています。

▲それは、遠藤誉さんが追っていた、「習近平が1月7日に感染対策指示は虚偽か?」という問題と絡んでくるのでありました。

(2)1月5日説と1月7日説

ウィキペディア中国語版の解説

▲ウィキペディア中国語版の新型コロナウイルス肺炎の記載を見ると、冒頭で次のように書かれています。

1月5日凌晨,复旦大学张永振团队从武汉市样本中检测出一种新型SARS样冠状病毒,获得病毒全基因组序列。

1月6日,中国疾控中心启动二级应急响应。

1月7日,中共中央总书记习近平主持召开中共中央政治局常委会,对疫情防控工作提出了要求

  • 1月5日に復旦大学の張永振チームが武漢市で採取したサンプルから新型のSARSコロナウイルスを検出し、全ての遺伝子配列を取得した。
  • 1月6日、中国のCDCが二級応急対応を発令。
  • 1月7日、習近平が中共中央政治局委員会の会議で、防疫工作について要求を提出。

▲張永振さんについてはこちらを御覧ください。ちゃんと実在する人物です。

あともう1つ、ウィキペディア中国語版では「病原体」の項目にて、

2020年1月1日上午,中国疾病预防控制中心人员穿着防护服至华南海鲜市场采得585份样本。同月7日晚上9时,中国疾病预防控制中心实验室检出一种新型冠状病毒,获得该病毒的全基因组序列

▲…とあります。1月1日午前に中国のCDCが武漢の華南海鮮市場で採取した585のサンプルを取得し、7日夜9時までにCDCの研究室にて新型のコロナウイルスを検出、遺伝子配列を取得した…という内容。

つまり、1月5日から「原因不明の肺炎」が新型のコロナウイルスであるのはわかってたけれど、国家機関であるCDCが正式に答えを出したのが1月7日の夜だった…ということになります。

百度百科の解説

ただ、これを百度百科(中国のウィキペディアみたいなもの)で見ると、同じ内容になっていません。

截至2020年1月7日21时,实验室检出一种新型冠状病毒,获得该病毒的全基因组序列

 「2020年1月7日21時までに、実験室で一種の新型コロナウイルスを検出し、ウイルスの遺伝子配列を取得」

…とだけあり、復旦大学も張永振さんの名前も出てこない。ここで出てくる「実験室」とは、ウィキペディア中国語版で触れているように、中国のCDCの実験室だと思われます。

つまり、百度百科では1月5日からわかってた…ということについて、触れていないのです。

(3)さらにソースを当たる

ウィキペディア中国語版に記載されている「1月5日からわかってました説」が正しければ、翌日に中国のCDCが応急対応を発令、翌々日に習近平が会議で対応を指示…ということになって時間的な「辻褄」がピッタリ合う。

ただ、百度百科の「1月7日の夜までわかってませんでした説」の場合、中央の会議が夜9時以後もやっているとは考えにくい。原文を見ると会議は「全天」(一日中)やってたと書いているけど、夜の9時に実験室での調査結果が出て、それをすぐに会議中の習近平に知らせて…というのはありえない気がする。

そうなってくると、1月7日に習近平が会議で指示を出した時は、「新型」とも知らずに、CDCの実験室での最終的な調査報告も受けずに指示を出したことになります。

ウィキペディア日本語版での記載

日本語のウィキペディアで新型コロナウイルスについて調べてみると、1月7日にCCTVが報じた…という書き方になっており、1月5日説とか、7日説には触れていない。

ただ、張永振さんの名前は出てくる。

2020年1月7日の中国中央テレビ報道によると、この肺炎の病原体は新型のコロナウイルスである。

このウイルスの完全ゲノム配列は上海公共衛生臨床センター、武漢中心医院、華中科技大学、武漢市疾病予防控制中心、中国疾病予防控制中心感染症予防管理所、中国疾病管理予防センター、シドニー大学らの協力によって解読され、シドニー大学のエドワード・C・ホルムズ教授の協力の下、上海公共衛生臨床センターの張永振教授によって1月11日に Virological.org 上に公開された。

その後、1月14日には国際核酸配列データベースGenBankで正式に公開されている。

1月7日の夜9時以後にCCTVが取り上げた…ということだろうか。

改めて、ウィキペディア中国語版に戻ってソースを確認する

1月5日説に触れているウィキペディア中国語版の記事で掲載されている「ソース」へのリンクをたどると、次の記事が出てくる。

web.archive.org

▲新京報の記事だが、なぜかウェブアーカイブへのリンクだ。

中科院武汉病毒所、中国疾控中心病毒所、上海市公共卫生临床中心三地科研人员在实验室彻夜忙碌,分别于1月2日、1月3日、1月5日凌晨,获得病毒全基因组序列。

 三个科研团队的基因组研究结果均证明,这是一种从未在人类中发现的全新冠状病毒。

中国科学院武漢ウイルス研究所、中国CDCウイルス研究所、上海市公共衛生臨床センターの研究員が実験室で調べたところ、1月2日、1月3日、1月5日の早朝に遺伝子配列を取得。3つの科学研究チームの遺伝子研究結果によって、これが新型コロナウイルスであることが証明された…と書いてある。

この記事、ウェブアーカイブにリンクが飛んでいるので、元記事は削除されたのかと思いきや

▲オリジナルはある。内容も書き換えられていない。

たぶん、ウィキペディア中国語版の執筆者は、当局が国内の情報を削除・改変するかも知れないので、「保険」のため、出典をウェブアーカイブ化するようになっているのだろう。

ただ、この記事が正しければ、1月7日夜9時以前に、中国のCDCは「原因不明の肺炎」の正体が、新型のコロナウイルスだったことを知っていた…ということになる。

【結論】医療機関の「調査」としては1月5日にはわかっていたけど、国家機関の「結論」としては1月7日夜から正式に「認定」

これらのことについて、合理的にナットクできる見解を述べると、次のようになるだろう。

  • 「原因不明の肺炎」の病原体サンプルは大量に取得されており、それらは中国国内の3つの研究機関で解析されていた。地元の武漢のウイルス研究所、上海の公共衛生臨床センター、中国CDCのウイルス研究所である。加えて、シドニー大も協力していた。
  • 1月5日早朝の時点で上海の公共衛生臨床センターの張永振(復旦大学の博士)が新型コロナウイルスであることを突き止めていた。新京報の記事によれば、CDCも1月5日までにはすでにわかっていた。
  • 1月6日に中国CDCが2級応急対応を発令。この発令が5日の張永振博士の調査結果と関係あるのかは不明。ウイルスの正体が何であるかはさておき、感染が拡大すれば、応急対応は発令するでしょうから。
  • 1月7日の会議で、習近平が新型コロナウイルスへの対応を指示。
  • 中国CDCが最終回答を出したのは1月7日21時。
  • 百度百科に中国CDCが1月7日21時に新型コロナウイルスであると確定した件しか書いてないのは、CDCが国家機関として本件につき最終的な答えを出す立場にあるからではないか?
  • 1月7日に習近平が指示を出していた…という件は、疑義を感じる人が少なくないわけだが、それはさておき指示を出していたのが本当なら、CDCの最終回答を待たずに、1月5日時点での情報で指示を出したことになる。ただ、CDCの応急対応発令と同じで、ウイルスの正体に対する見解がなくても、感染が拡大すれば指示は出すでしょうけど。
  • ちなみに、習近平の指示のソースとなっている「求是」の記事を見るに、「1月7日,我主持召开中央政治局常委会会议时,就对新型冠状病毒肺炎疫情防控工作提出了要求。」と習近平が自ら書いていますけど、この文章が発表されたのは2月3日のことでして、執筆・発表の時点では、「原因不明の肺炎」の正体が「新型コロナウイルス」と知っていても、1月7日の時点でそれを知っていたかは定かではない…ということになっています。
  • 1月5日の時点ですでに「新型コロナウイルス」と判明していた…という記事は、今現在も中国のネット上にあって、削除されていないので、これが当局にとって都合の悪いものとは断定できない状況です。
  • 習近平の指示が本当かウソかは別にして、1月5日~1月7日にかけて、「謎の肺炎」が新型コロナウイルスであるのが判明しているので、「指示」が、更に後日へズレるのは困る。それで行くと1月7日が「指示」が「あったこと」にできるギリギリの限界だった…ということではないでしょうか。ただ、武漢が閉鎖されるのは1月23日からなので、1月7日の「指示」とは一体なんだったのか…という疑問そのものは変わりありません。

以上、長々と面倒な解説になりましたが、情報を整理すると上記のようになりました。

【おまけ】映画『コンテイジョン」とビル・ゲイツのTEDスピーチ

コンテイジョン(吹替版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

▲私は去年この映画を見たのですが、パンデミックを扱った映画としては非常にクオリティの高い傑作なので、最近また見ました。家族がウイルスの感染拡大に対して、かなり警戒心が薄いため、「教育効果」のある映像作品として見せたらどうかな?と思った次第。確かにこれは効果がありました(^^)

▲尺が短く、無料のコンテンツとしては、ビル・ゲイツのTEDスピーチが良いでしょう。2014年の時点で、現在の状況を予言するような内容になっています。