黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

【海上保安庁の公開情報に基づく】尖閣諸島周辺に接近する中国公船の傾向からわかること

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▲こういうニュース、ほぼ毎日のように見ますよね。

尖閣国有化以後、中国公船の尖閣接近が常態化して、最初は日本側でも警戒しておりましたが、毎日のように繰り返されるようになって、さほど注目されないようになりました。

でも、たまに長期間毎日連続したり、ある時は全く来なかったり。

たまたまその時の日中関係に照らして、「尖閣を侵略するつもりじゃないか」「政治的なメッセージじゃないか」という話が出てますが、その真相がよくわかりません。

それと、中国公船の「接近」は、2種類ありまして…

  • 接続水域に入った(接続水域内入域)
  • 領海に入った(領海侵入)

詳しくは…

▲こちらをご参照いただくとして、

実は、海上保安庁のウェブサイトで、中国公船の域内入域と領海侵入に関するデータがまとめられておりまして、その傾向から読み取れることはないのか…と思ったわけです。

【目次】

【海上保安庁】尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処

▲こちらのページで、平成24年(2012)以後の詳細なデータと、平成20年(2008年)以後のデータをグラフしたものが見られます。

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▲グラフを見ると(クリックで拡大できます)、尖閣国有化(2012年9月)の少し前から領海侵入が増え始め、国有化後に激増しているのがわかります。

過去のデータからわかること

これらのデータを見てわかることを書き出してみると…

  • 尖閣国有化(2012年9月)から1年間の領海侵入・接続水域入域の数は多い。これは、日本に潰されたメンツを取り戻す国内向けアピールと、日本に対しての外交的なメッセージを与えているのでしょう。
  • 2013年10月からガクッと数が下がって、その後は例年ほぼ横ばいだが、2016年8月だけ突出して領海侵入・接続水域入域の数が増える。
    (この時に何があったのか?)
  • 2017年10月から2018年11月まで、領海侵入の数が若干減る。
    (この時に何があったのか?)
  • 2018年12月の領海侵入は「0」。尖閣国有化以後はこの月だけ。
    (この時に何があったのか?)
  • 2019年以後、領海侵入は横ばいだが、接続水域入域は増加。
  • 毎年10月から2月ぐらいの間で、接続水域入域の件数は低下する。
    (毎年この時期に何があるのか?)

…となります。

以上で見えてきた疑問点を1つ1つ確認してみます。

2016年8月に何があったのか?

実はその一ヶ月前の2016年7月12日…中国の海上進出を揺るがす大事件が発生していました。

 ▲フィリピンが申し立てていた仲裁手続きで、中国の主張する「九段線」を認めない…とする判断が下されます。

たぶん、中国としてはこれへの反発で、今まで主張していた海洋権益を保護するために、「実効支配のアリバイ作り」と、国内向けの「ちゃんとやってる」アピールとして、尖閣周辺への領海侵入、接続水域入域を増やしたのではないか…。

 ▲ちなみに、2016年8月には、大量の中国漁船が尖閣接続水域に押し寄せて、大騒動になりました。

2017年10月から2018年11月、そして12月に何があったのか?

フィリピンが始めた国際仲裁に敗北することで、2016年8月だけ強気で出たけれど、その後はトーンダウンして、2017年10月から1年近く尖閣周辺での活動がおとなしくなり、2018年12月には領海侵入が「0」になります。

この時に何かあったっけ?と思い返してみると…

▲安倍総理の訪中があったのですね(2018年10月)。

▲少し遡って、2017年5月に二階俊博が安倍総理の親書を携えて訪中しておりました。

▲安倍訪中の2ヶ月前に、こんなこともありました。

つまり、2017年5月頃から、こじれていた日中関係を修復するための交渉が始まって、中国はそれに答える形で、2017年10月頃から尖閣周辺での活動も控えるようになったのでは…と考えられるわけです。

では2018年12月で領海侵入が「0」になる理由ですけど…

▲特に「これ!」というのが見当たりませんでしたが、中国は安倍訪中の翌月からAPEC・フィリピンとの関係改善、一帯一路の推進を強化していた時期なので、それを受けて領海侵入もたまたまゼロになったのかなぁ…。

2019年以後、領海侵入は横ばいだが、接続水域入域は増加

グラフを見てよく考えると、接続水域入域(青線)の増減は激しく変化する割に、領海侵入(赤棒)は安定している…まるで月ごとの「ノルマ」が設定されているかの如く、ほぼ一定しているのですね。

中国公船の尖閣接近を、「実効支配の実績作り」として考えた場合、接続水域でウロチョロしても実績にはならないので、領海侵入の必要がある…それは月に一度や二度のレベルではなくて、まとまった数で毎月繰り返す必要があるのではないか。

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▲グラフで赤棒を見ると、最低の数で「4」というのがよく見えます。つまり実績のために月4回…少なくとも週に1回ぐらいは領海侵入しとかなくちゃね…という「最低ライン」があるのでは。

2019年以後に、中国公船の接続水域入域が増えている理由は、よくわかりません。何か、特別やらなきゃいけないことがあるのでしょうか?

毎年10月から2月ぐらいの間で、接続水域入域の件数は低下する

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▲それと、毎年10月から2月にかけて、一時的に跳ね上がる月があれど、大体において接続水域入域の件数(青線)が低下するのですね。3~4月にかけて激増するのも似ている。

2月は春節があるから…と考えるわけですが、春節と中国公船…何か関係あるのでしょうか?

中国漁船の活動との関係

2016年8月のところで紹介した大量の中国漁船が尖閣接続水域に押し寄せた件…

▲こちらは、中国側から、休漁期が明けて、中国漁船が一斉に押し寄せたのだ…という言い分が出されていた…と記憶しています。

▲2020年の福建省の休漁期を確認すると、5月1日から8月1日まで…となっています。つまり8月から4月は出漁できる。中国公船は、実効支配の実績作りのために、尖閣周辺の海域で、漁船の取締りや保護をやっているのだ…という「言い分」もありました。

漁船は春節の時には出漁が減るんじゃないかと思われます。さすがに年越しぐらいは家族と一緒に過ごしたいでしょうから。

そのように整理していていくと、

  • 春節明け(毎年2月前後)以後、海が暖かくなるにつれて5月の休漁期開始までの間に魚を獲ろうと、中国漁船が尖閣周辺に出てくるのでは?
  • 8月以後は休漁期が明けるため、また漁船の活動が活発化する?
  • 10月以後に中国公船の接続水域への入域が減るのはなぜか?漁船の活動と連動すると仮定すれば、尖閣周辺で穫れる魚は10月ぐらいまでが回遊の時期なのか。または寒くなるので出漁するのが嫌なのか。

過去の尖閣上陸は3月から10月に集中している

▲こちらの「年表」で「上陸」を検索すると、過去の尖閣上陸は3月から10月の間に集中してます。まれに1月とか12月の上陸もありますけど、基本的に春から秋にかけてが尖閣上陸に向いている?のでしょうか。海が荒れにくいのかな?夏だと台風が多そうな気がしますけどね。

まとめ

海上保安庁は、尖閣に接近する中国公船のデータを公開しても、中国漁船のデータは公開してくれないので、漁船との関係はあくまでも仮定です。ただ、上記の考察を改めてまとめ直すと…

  • 尖閣国有化(2012年9月)から1年間の中国公船の尖閣接近は、それ以後に比べて多すぎ。これはあくまでも中国国内への領土保全をちゃんとやってる!というアピールと、日本への外交的メッセージが目的と思われ。
  • 2013年秋以後、領海侵入の数は安定的。月4回…週に1回が最低の目安になっているらしい。
  • フィリピンの国際仲裁申立や、日中関係回復&安倍訪中などがあると、中国公船の尖閣接近は増えたり、減ったりする。つまり、中国公船の活動は、その時の外交状況の影響を受けている。
  • 毎年10月から2月は中国公船の接続水域入域が減る。
  • 日中台の活動家などが尖閣上陸をするのは3月から10月が多い。
  • 中国公船の動きは中国漁船の活動とも連動しているみたい?
  • 2019年以後、中国公船の接続水域入域が増えている理由は不明。

中国公船が尖閣周辺に接近すると、さまざまな陰謀論?がツイッターに出てきますけど、とりあえず、過去の状況を把握した上で冷静かつ客観的に考えたいですね。そのための議論の「土台」として、このデータに基づく考察をお役立ていただければ…と思います。

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