先週から香港が荒れている。各地の大学を中心とした抗議活動が活発化し、先週は中文大学、いまは理工大学で大規模な抗議活動が行われている。
そうした中で、中国人や台湾人の留学生が一時帰国するニュースが伝わってきました。
【香港の大学が「戦場」に 台湾人留学生126人が一時帰国へ】
— 黒色中国 (@bci_) 2019年11月14日
香港中文大学で警察と学生の衝突が発生したのを受け、台湾で対中政策を所管する大陸委員会が、台湾人留学生の帰国手続きを現地事務所を通じて進めていることが分かった。 https://t.co/UUm03L7u3V#HongKongProtests
日本人留学生はどうしているのだろうか?と思っていたら、その後で報道が続きました。
【混乱続く香港 日本人留学生に帰国の動き】
— 黒色中国 (@bci_) 2019年11月15日
「学内にはたくさんのバリケードが築かれていて、彼らは最後まで戦うつもりで備えていました。私たち留学生がすべていなくなって残された友人たちがこの先どうなるのかとても心配です」https://t.co/ykNkSh2wO1#HongKongProtests
それから、理工大学での衝突が大きくなり、戦場さながらの様子を見ている内に、私のツイッターのフォロワーからのDM(ダイレクトメール)が送られてきました。
こんにちは。私は香港に留学している日本人高校生で、ここのインターナショナルスクールに通っている者です。香港の留学生のうち、日本人大学生はたくさんいても高校生はおそらく片手で数えられるくらいしかいないので、我ながらレアな存在だと思います笑 なお、日本では「留学生が帰国を急いでいる」と報道されていますが、それは主に大学生のことであり、高校生である私の生活圏はまだ安全なので日本には帰っていません。
本人の許可をいただいたので、その内容をこちらで紹介してみようと思います。
【目次】
- 警察に実弾で撃たれた高校生は私の友達の友達だった
- 「何があろうとも香港は必ず私の第二の故郷になる」
- 香港が与えてくれた「自省と成長」
- 「日本人の高校生として、この目まぐるしい状況からいかに多くの学びを得られるか」
警察に実弾で撃たれた高校生は私の友達の友達だった
私は香港に留学してから一年と少ししか経っておらず、まだまだこの場所に関しては素人です。それでも、ここ最近はデモや香港の将来を案じて物事に集中できません。こんなことを日本にいる親に言ったら怒られそうですが、授業中もパソコンでパワポを見るフリをしながら、ほかの生徒と同様に香港のニュースを追っています。警察に実弾で撃たれた高校生は私の友達の友達であり、あの日はテスト勉強ができませんでした。お世話になっている知り合いの大学生が沢山いる中文大学や香港理工大学がまるで戦場のようになり、日本人留学生が散り散りに去らざるを得なくなってしまったのを見て、複雑な思いが日々頭の中を巡っています。
ここで書かれている「実弾で撃たれた高校生」とは、10月1日に拳銃を撃とうとした警官から仲間を護るために犠牲になってしまった高校生のことでしょう。
▲その詳細は私もこちらの記事で解説しました。
まさか、その高校生の友達の友達からDMをもらうことになるとは思いませんでした。
詳しくは上掲の記事で説明しましたが、撃たれた高校生は暴徒ではなく、威嚇射撃もなしに拳銃を仲間に向けて撃とうとした警官から、拳銃を振り払おうとして、胸を撃たれたのでした。彼が卑怯者で、正義感もない「暴徒」であれば、あんなことにはならなかった。
そもそも、今の香港がこんなことになっているのも、香港人が「他人がどうなろうが構うものか。自分さえよければいいんだ」という自己中心的な考えであれば、こんな長期の抗議活動にはなっていなかったでしょう。
私にDMをくれた日本人高校生は、まだ香港に来てから一年少しだけれど、広東語もまだ未熟だろうけど、あの撃たれた高校生と同じ目線で、今の香港を見ている。日頃、黒色中国にはさまざまなDMが送られてくるのですが、これは背筋を伸ばして、正座して、心して読まなければ…と思ったのでした。
以下、頂いたDMが続きます。
「何があろうとも香港は必ず私の第二の故郷になる」
私は香港のことを愛しています。私はビクトリアピークから望む中環の夜景から重慶大厦の中東料理まで好きです。香港の経済的繁栄の影にはさまざまな問題があり、ここは決して完璧な場所ではありません。しかし、広東語のアクセントも、ボロボロなのに容赦なく走る小巴(ミニバス)も、譚仔(近所の麵屋)のちょっと無愛想なおばちゃんも、デタラメな日本語の広告も好きです。こんなことを言うのもおこがましいかもしれないですが、ここの高校を卒業した後、何があろうとも香港は必ず私の第二の故郷になると思います。
まだ1年ちょっとしか香港にいらっしゃらない…と言う割に、香港の押さえるべきところを押さえているというのか、この人は香港に対して非常に鋭い「嗅覚」を持っていたのではないでしょうか。
香港の不完全性、デタラメで、ちょっと無愛想なところも、愛おしく感じてしまう…私もそうです(^^)。香港はちょっとイイカゲンで、だからイイカゲンな自分がここに居てもいいんだよな、と思えてしまう。そういう人にとって香港は「自分の居場所」になってしまうのです。
香港が与えてくれた「自省と成長」
ただ、インターナショナルスクールといえば、一般的な香港社会からは隔絶した別世界じゃないのかな…と思っていたところ、実際はそうではなく、厳しい「社会の分断」を目撃するキッカケになっていたようです。
香港自体だけでなく私の学校も、もし日本にいれば体験しないであろう分断に直面しています。校内のLennon Wall(政治的意見やポスターを貼る掲示板の香港での通称)での表現の自由について、香港人と中国本土人の生徒で対立がありました。デモに関する学校の対応をめぐっても、生徒と先生の間で軋轢が生じています。ですので、ここも決して居心地のよい状況とは言えません。しかしそれでも幸いなことに、私の学校の生徒は、異なる立場を超えて辛抱強く最善の道を見出そうとしています。私がいるこのような環境は、これまで日本でずっと過ごし偏狭な考えを持っていた私に、かけがえのない自省と成長を促してくれます。
16歳で、自分の「偏狭さ」を自省できるのはスゴイことだと思いました。今の日本じゃ、いい歳になっても、それがわからない人がたくさんいる。自分の偏狭さに気づかずに、他人の偏狭さばかりに罵声を浴びせる人が山ほどいる。ツイッターなんかやってると特に、毎日がそういう人たちとの軋轢を繰り返しますが。
私も、中国の大学へ行って、いろんな国の学生と交流することで、自分にとっての「普通」が、他の国では通用しないことに気づきました。それが16歳でわかったのだからスゴイ。なんだか羨ましいじゃないですか。
「日本人の高校生として、この目まぐるしい状況からいかに多くの学びを得られるか」
ここに住む私でも、今夜も何が起こるかは分かりません。改善の目途は見えず泥沼化している中、1週間後、1か月後、1年後に香港がどうなっているかは私には予想すらできません。香港に短い間しかおらず、実際に危険な目にあったことのない私でさえこのような不安や焦りがあるのですから、香港の人々の心中を察すると、とても堪え忍べるものではありません。
私はこのような時期に香港にいさせてもらえることは、唯一無二の貴重な体験であると思っています。もちろんすべての留学生が私と同じ考えを持っているとは思いませんし、傍観者のくせに不謹慎だと批判される可能性を重々承知の上で申し上げています。
いま私には、「日本人の高校生として、この目まぐるしい状況からいかに多くの学びを得られるか」、そして直接的な問題解決につながらないにせよ、「その学びをどう責任ある行動に生かせるか」という問題が迫っています。これは私が香港を去った後でも、ここで過ごした時間が束の間であっても、特に中国が勢力を増す今の時代だからこそ、きっと一生を通して考えることになるほど重要な課題です。
拙文ではございますが、お読みいただきありがとうございました。
最後の段落を読んで、しばらく言葉を失いました。
この学びに対する姿勢は、高校生の時だけじゃなくて、人間が生きる上で、一生必要なものだし、この人はそれが出来る人なんだと思う。私は「これ」に気づくのに、ものすごい遠回りをしてきたし、これをずっと続けられるか自信がありません。
でも、このDMを読んで…いま香港にいる多くの人たち…国籍関係なく、子供も、大人も、どんな政治的立場の人でも、こうした気持ちと向き合って今を過ごしているのではないか…と思いました。
毎日香港のニュースを見ていると、毎日ツイッターをやっていると、ひどく落ち込むことが多いのですが、このDMは私の宝物になりました。本当にありがとうございました(^^)