私はオススメの本を聞かれると、いつも『孫子』と答える。それで「なぜですか?」と聞いてくる人には「知性の伸びしろ」があるんだな…と思う。結果的に『孫子』を読まずとも、何を読んでも伸びる。若いと、今読むべきものがわからないことってある。疑問を持つ人に教養は自然と身につくものなのだろう
— 黒色中国 (@bci_) May 18, 2019
▲昨日のこのツイートは、実は…
それは書籍の話とかが典型ですね。「おすすめの本はありますか?」と若い人からたまに聞かれることがあるんだけど、若者よ…それは君が読んできた本に依るよ。 https://t.co/6fSejMcFyx
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) May 18, 2019
佐々木俊尚さんのこのツイートを読んで書いたものです。
私がRTした時点で、佐々木俊尚さんのツイートの方はプチ炎上?みたいになっていたので、話の流れ的に別にした方が良いと思った。心静かなツイッターライフを送るためには「配慮」が大切なのでありましたw。
というわけで、冒頭のツイートの続きと共に、こちらで『孫子』の話を書いておきます。
【目次】
結局のところ、他者から「オススメの本」を聞かれても、佐々木俊尚さんのような回答にしかならないのですが、それではあまりに素っ気ないし、会話の糸口としてネタを振られているだけなので、私はあまり深く考えず、毎回『孫子』と答えています。
だから、別の本でも構わない。『孫子』でなくてもいい。何でもいいから本の名前をあげて、「なぜなんですか?」と聞いてもらえたら、そこから話が続いて、相手の好奇心がどのあたりにあるのかが見えてくるわけですが、私にとって『孫子』は、高校生の時にほぼ毎日学校に持っていって授業がつまらないとそればかり読んで、今までに軽く50回以上は通読しているので、「なぜなんですか?」と深く突っ込まれても、何かと説明もしやすいのでありました。
『孫子』はゼッタイお得
なんでもいいなりに、『孫子』を推すのはいくつか理由があって、
- 安い。手に入れやすい。
- 短いからすぐ読める。
- 読んだことがあると自慢できるw
- 他に読んだことのある人が多い
- 社会に出てから共通の話題として「使える」
- 関連書籍・研究本がやたらと多い
- 中国人の戦争観や物の見方・考え方を理解するのに役立つ
…というメリットがすぐに挙げられます。『孫子』は数百円で買えて、一生話のネタに使える本なのです。
今まで仕事絡みで会ったビジネスパーソンの中で、『孫子』を読んだことがあります、『孫子』の研究をしております…という人はやたらと多かった。もしくは、中国古典が好きだ、学んでいる…という人も多かった。
そういう人との付き合いが始まった時に、「私は高校の3年間に毎日『孫子』を学校に持っていって今まで50回以上読んだことがあります」と言えると、インパクトが強いから一目置いてもらえる。たった数百円の投資でこんなに効果が高いことはマレでしょう。
中国人の物の見方・考え方とのつながり
『孫子』が書かれたのは紀元前5世紀と言われているから、2500年ぐらいの歴史があります。この本は、それほどの長い歴史の中で、戦争に関する中国古典の決定版として読まれてきたので、中国人の物の見方や考え方、彼らの戦争観や人生観にも大きな影響力を持っています。
「兵は詭道なり」、「人を致して人に致されず」、「実を避けて虚を撃つ」、「兵は拙速を尊ぶ」…という言葉を知ると、現代中国人の人生哲学もこの通りだなぁ…と思うし、「智将は努めて敵に食む」「上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。その次は兵を伐つ。その下は城を攻む」というのは、中国人の戦い方をよく表していると思う。
それと、計篇に出てくる「廟算」という言葉の成り立ちを知ると、中国人の目に、日本の政治家の靖国参拝がどのように見えているのかが窺い知れるようで興味深いです。
良書とは「より多くの人、違う世代の人とツナガリを持てる本」
オススメの本…つまり「良書」の定義とは人それぞれと思うけど、1つの定義として、「より多くの人とその本について話し合える」、「自分とは離れた世代の人と話ができる」というのがあると思う。『孫子』はそれらの条件に合致している。
2500年も読みつがれてきたものだから、来年や10年後、20年後にも廃れることがない。日本人だけじゃなく、もちろん中国人も読んでる。他の国でも読まれている。
社会人になった時に、歳の離れた上司や経営者、仕事やプライベートで出会う色んな人と『孫子』の話が出来たりする。自分の親ぐらい歳の離れた人と、「私の孫子論」が話せたりすると面白い。別に研究者でなくても、『孫子』はテキストが短いし、研究本は多い。人生論、戦争論、ビジネス論、中国文化論など色んなパターンでの「私の孫子論」がやりやすいのであります。
黒色中国が勧める4冊
「じゃあ、私も『孫子』を読んでみようか…」と思った人のためにオススメを紹介すると…
▲まずはこれを1冊持っておきましょう。古本屋に行けばすぐ見つかるし安く買えます。小さいから邪魔にならず、どこにでも持っていけます。私が高校の時にいつもカバンに入れていたのはこれです。少々意味がわからなくても、繰り返し読んで一言一句を頭に染み込ませて下さい。
▲台湾の漫画家、蔡志忠さんが描いたマンガ版。韓非子も入ってます。よっぽどの天才でもない限り、2500年も前の外国の本を文字だけでチョロっと読んで、それでシッカリ頭に知識が入る…理解できると期待しない方がいいです。
「マンガじゃないかw」と侮ってはいけません。マンガだとビジュアル的にイメージをつかみやすいので頭に入ってきやすいのです。こういうのは『孫子』に限らず、昔のことを読む時には、その当時の文物や服装、描かれている場所などをビジュアル的に理解している方が良いです。
このマンガ版は、文庫の他に、単行本がありまして、単行本の方がサイズが大きいので読みやすくオススメです。

孫子・三十六計 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)
- 作者: 湯浅邦弘
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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▲孫子の解説をした本はたくさんありますけど、湯浅邦弘さんは2014年にNHKの『100分 de 名著』で孫子の担当をされておりまして、その解説が非常に上手で明快でした。
『孫子』は2500年もの歴史を持つ本ですから、今まで色んな人が解説している。そのどれを読んでも良いのですが、やはり現代を生きる人間としては、同時代の研究者の解説が、言葉遣いも同じだし、視点も近いからわかりやすい。そして、湯浅邦弘さんの語り口・文体が優しいので、難しいことでもスルスルと抵抗なく頭に入ってくる…というのもあります。
▲こちらはその湯浅邦弘さんが担当された『100分 de 名著』の副読本ですね。
孫子本は数あれど、わかりやすさ…という点においてはたぶんこれが一番でしょう。
▲そもそも判型が大きいのと、文字が大きくレイアウトに余裕があり、脚注に難しい言葉や図解があるので読みやすいのですね。NHKのテキスト本って高齢者&初心者が読むものだから(そんな決めつけで良いのかw)、かなり親切丁寧に作られています。
▲こういう年表もあったりして。NHKのテキスト本とはいえ侮れないのです。
孫子の関連書籍って、小難しい雰囲気のものが少なくないのですが、そういう本を読むと格調高くてありがたみが多い反面、わかりにくいですからね。素人向けっぽい本で読んでも、知識を頭にシッカリ入れた方が「勝ち」です。
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これらの4冊を古書で手に入れたら全部でも1000円前後…送料込みでも2000円程度ですが、得られる知識は一生モノですからお得なものです(^^)。
『孫子』を繰り返し読んで、ビジュアル的にも掴んで、その上で現代人の解説も読めば、もう基礎は出来上がっているわけですから、そこから他のビジネス寄りの「孫子本」を読むもよし、もっと学術的な「孫子本」、戦争哲学寄りの「孫子本」を読むもよし。そういうことをやっている内に、自分の「孫子論」が出来上がって、一生使える知識として身につくものと思います。