▲以前から気になっていた中国製白黒フィルム「上海GP3」。ずっとブローニー判しか見かけなかったけど、35mm判をイーベイで発見しましたので、早速入手してみました!
▲大体、注文から10日で着きました。
【目次】
- (1)外観を観察する
- (2)生産しているのはどんな会社?
- (3)使用説明書(露出と現像)
- (4)パトローネとフィルム
- (5)謎のフィルム「上海GP3」の真相を探る
- (6)上海GP3は富士の「ジェネリック・フィルム」なのか?
(1)外観を観察する
フィルム10本にシュリンクをかけ、それをピッタリの段ボール箱に入れて、送ってきました。
▲たぶんこれは上海・南京路にある国際飯店かな。かつての上海を代表するビルだったので、「上海」と言う名のフィルムのシンボルにするにはちょうど良い建物でしょう。
▲有効期限は2021年6月。たぶんこれって2019年6月に生産されたフィルムなのでは。それだと2年使える計算になるので。
それと、「エマルジョンナンバー」(乳剤編号)が入ってますね。
白黒フィルムで生産ロットごとに、そんなに大きく違うものなのかな…まぁ、無いよりはマシですが。それにしても、結構シッカリしているものですね。
(2)生産しているのはどんな会社?
▲実物を入手してやっと社名がわかりました。
「上海剣誠実業有限公司」(Shanghai Jian Cheng Technology Co., Ltd.)
▲こちらを見ると、上海剣誠実業は1996年に創業した会社で、写真機材関連の会社。富士(たぶん富士フィルム)の上海地区代理、デジタルカメラの普及に伴い、銀塩系の市場から離れて、インクジェットやレーザーのプリンターの販売を…と書かれています。
▲こちらを見ると、上海剣誠実業の資本金や所在地などが書かれていました。
(3)使用説明書(露出と現像)
▲フィルムを取り出そうとして、箱を開けると…「使用説明は内側に」…
▲開けてみると、こういうことでした。
▲露出設定について。
シャッタースピード125分の1で
- ピーカン状態なら…f16
- 少し陰った晴れだと…f11
- 少し曇りなら…f8
- 早朝・夕刻の曇りなら…f5.6
- 完全な曇りなら…f4
…ということかな。露出計を使わずにこの説明だけで露出を決めて撮影してみても面白いかも。
▲フィルム現像について。
薬品はD-76かD-23を使用し、液温を20℃で10分…とのこと。

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D-76はまだ販売していますけど、D-23は見当たりませんでした。
▲こちらに薬品の配合が公開されているので、自作する手もアリですが、ここは普通にD-76でいいでしょう。
(4)パトローネとフィルム
▲パトローネは、シンプルながらロゴマークが金色だったりで、ちょっと高級感あります。
▲パトローネは金属製の「缶」のタイプではなくて、樹脂製のものですね。この手のものってあまり見かけないような…
▲ちゃんとDXコードも対応しています。
▲それにしても…このフィルムの色…見た瞬間に「これってネオパンSS?」と思いました。懐かしい色です。でも、手に触れた感覚で、ネオパンよりも少し厚め…冒頭で紹介した会社説明で、上海剣誠実業は富士フィルムの代理をしているとあったので、もしかして「上海GP3」は富士フィルムと関係あるのかな…
(5)謎のフィルム「上海GP3」の真相を探る
上海にいるのなら、上海剣誠実業に直接訪問して話を聞いてみても良いのですが、とりあえず今わかる情報だけで、調べてみることにしました。
▲上海GP3の箱の裏に「使用説明」と共に、こんな情報がありました。「『情報』もなにも、タダの住所と電話番号じゃないかw」と思われるでしょうけど、この中の「1字」に重要なのがあります。
「廠址」の「廠」です。日本語ではあまり使わなくなりましたけど、「工廠」とか「造兵廠」という使い方をしますけど、この1字で「工場」ということです。中国語で住所とか所在地のことを「地址」と書きますけど、「廠址」は「工場の住所」という意味。
つまり、上海市保定路257号510室に、「上海GP3を製造する工場」がある…ということになります。
実は私、この近くに住んでいたことがあるんですw
短い期間しかいなかったのですが、その後もこの付近には何度も行ったことがある。でも、あんなところに写真フィルムを製造できる工場があったのかなぁ…。
しかも「510室」とあるから、ビルの1室を使ってフィルム生産をしているわけです。なんだか変ですよね。
土地の狭い香港だと、ビルの形式の工場がありまして、窓が少なく、「1室」あたりの面積が広くて、製造機械を持ち込んで、立派な工場をやってたりします(最近はあまり流行らなくて、ただのオフィスになってたりもするのですが)。
でも、上海のあのあたりで…あったかなぁ…フィルムの製造って、かなり大掛かりになるはずだし、化学薬品も使うだろうし、廃液なんかも大変そうですよね。
そこで、グーグルマップで場所を確認してみました。
上海市保定路257号
▲右上の「257 Bao ding lu」になります。
かつて戦前の「上海」は外灘あたりから競馬場(今の人民広場…地図上の「上海市」と書いてるあたり)を中心にして「租界」で構成されている地域です。
蘇州河(地図上中央に蛇行しながら流れる細い河)を境に向こう側は魯迅公園あたりまでは日本人も住む租界でしたけど、更に東側へ行くと、このあたりには工場が増えてくる。清朝末期頃には殖産興業のために工場を作ったとか、そういう話だったと記憶しています。私が上海に住んだ21世紀初頭にもこのあたりには工場をよく見かけましたが、最近は地価の高騰で、マンションがたくさん建って、工場は姿を消しました。
だから、保定路のあたりで、今もフィルムを製造している…というのがちょっと考えにくいのですね。日本で例えたら、台東区か豊島区にフィルム工場があるような感じです。
日本人の一般的な「中国感覚」からすると、至ることころ環境汚染が酷く、人体に有害な工場排液も排気も出し放題で…と思われるかも知れませんが、上海のあのあたりだと、不動産開発が進んで、不動産価値を維持するために、厳しい取り締まりもあり、住民の反対もあるので、今は環境汚染があるとすぐに大騒ぎになります。
工場の排気や排液が原因で、住民の大規模な抗議とか、警察との衝突とかしょっちゅうありますから、上海の中心部近いところで、フィルム工場なんかやってたら、「一発でアウト」だと思うのですね。
▲こちらがグーグルマップの3Dで出してみた「保定路257号」にある建造物の画像。「257 Bao ding lu」の赤い目印のすぐ後ろの白い建物は窓を数えると4階までしかないので、たぶんその奥の建物が上海GP3の「工場」がある場所と思われます。
隣接してホテル(大酒店)があり、左に見える「全家福」はレストランじゃないかと思われます。
こんなところで写真フィルムの製造をやりますかね?
たぶん…ですけど、上海剣誠実業はフィルムを自社製造しているのではなく、どこからか仕入れたフィルムを転売しているだけ…「作っていた」としても、長巻を仕入れて、ここでパトローネに詰めているだけではないかと想像されます。
もしくは、こことは別の場所にフィルム工場があるのか。
でも、資本金50万人民元(今のレートで750万円ぐらい)の会社で、そこまで大規模な生産設備を持てるのでしょうか?
たぶん「上海GP3」のパトローネに入っているフィルムは、どこか別の企業から仕入れているものとしか思えないのです。
上海剣誠実業の会社案内
▲ググってみると、アリババに上海剣誠実業のサイトがありました。
▲(クリックで拡大できます)上海剣誠実業は、富士、コダック、イルフォード、上海牌(これはGP3のことでしょう)、AP、カイザー、マーティン、ポラロイドのカメラとフィルム、剣誠(これは剣誠実業の自家ブランドと思われる)、プリンター用のフォト用紙、Adoxフィルム(おっ!w)、引伸機などの、取次・卸販売を主として活動している企業になります。
なので、上海剣誠実業は写真感材をメインに、写真関連用品の取次・卸を行う企業であって、自社でフィルムを製造していない…としか思えないのです。
上海牌のフィルム
ここでもう一度、「上海牌」というブランドに戻って、探し直すことにしました。
▲こちらは「上海牌フィルム再生産!唯一残る国産ブランド!」というタイトルのウェブページ。
こちらに、再生産されるようになったシートフィルムのことが書かれていますけど、
▲これは4x5のシートフィルム。
▲この国際飯店のマークと、「上海」の文字はGP3のものと全く同じです。
上掲の「上海牌フィルム再生産!唯一残る国産ブランド!」のページの下の方に、上海牌フィルムの歴史が出てきます。
▲こちらの情報を要訳すると、
- 現在の上工申貝集団の上海申貝感光材料廠は、本来1958年創業の「上海感光フィルム廠」である。
- 上海申貝感光材料廠は富士フィルムと合作し、富士フィルムのカラー印画紙を生産している。
- 医療用・工業用のX線フィルムなどと共に、民間用の白黒フィルムと富士フィルムブランドのカラー印画紙なども生産している。
中華人民共和国は1949年に建国しましたが、それから工業製品の国産化に着手します。別の企業ですけど「上海牌」の腕時計などもその1つ。1958年に写真用フィルムの国産化を始めたのが「上海感光フィルム廠」だったのでしょう。
▲上工申貝は、「上工」と「申貝」という企業が合併して出来た軽工業系の企業グループ。どういう経緯かは知りませんが、上海感光フィルム廠もそこに吸収されてしまったのでしょう。
以上の情報を整理して、こちらの推察も含めてまとめてみると…
- 民間用の白黒フィルムの生産は、一旦ヤメたけれど、医療用・工業用のX線フィルムはまだ作っているので会社としてはフィルム事業を全廃していない。民間用白黒フィルムは2016年頃から生産を再開している。
- 富士フィルムとの合作があるので、上海牌のフィルムは富士フィルムの白黒フィルムの影響が強いと思われる。
- 民間用白黒フィルム(シートフィルム、35ミリ判、ブローニー判)の販売については上海剣誠実業が行っている。
…と考えられます。

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▲ちなみに、こちらで確認したところ、シートフィルムの箱にも「Shanghai Jiancheng」の文字が確認できました。
上海申貝感光材料廠
▲上海申貝感光材料廠の場所を確認してみましたが、これは上海剣誠実業と近いですね。
▲徒歩で8分しか離れていませんw
▲拡大してみるとこうなります。臨潼路と恵民路の交差するところ。向かいに幼稚園があります。ここで衛星写真に切り替えたのですが、グーグルマップで中国国内の地図を衛星写真に切り替えると、場所がズレます。だから正しい画像か判別できないので、ここは百度地図を利用してみます。
▲たぶんここ…でも、これって本当に工場なんですかね?角が丸いのは、グーグルマップでもそうなっていたので、ここで間違いないような。百度地図の左下でも、ちゃんと幼稚園の向いなっているから、ここで間違いないと思うのですけどね…
この建物はかなり新しいし、周囲も住宅が多いようなので、ここに昔あった工場は取り壊して、今あるのはオフィスだけで、別の場所にフィルムを生産する工場があるのかも知れません。
▲こちらの上海申貝感光材料廠の情報を見ると、
▲所在地が「陜西省」になっているのです。
そして、企業類型が「中外合作」で、成立時間が「2001年」になっている。
ここから想像できるのは、1958年創立の「上海感光フィルム廠」は、上工申貝集団の傘下になり、富士フィルムとの中外合作企業として2001年に「上海申貝感光材料廠」になったのではないか。ただ、生産は陜西省で行っており、上海のこの場所にあるのはオフィスのみ…ということではないでしょうか。
収集した情報から判断できるのは
- 上海GP3が中国国内生産であるのは間違いない。会社設立の背景から考えて、中国や日本以外の第三国からの輸入は考えられない。状況から見て上海で生産しているとは思えないが、陜西省だとも断定できない。
- 上海GP3は合作している富士フィルムの白黒フィルムの影響が強い(はず)。
- 上海申貝感光材料廠は、上工申貝集団という大きな企業グループの傘下であり、医療用・工業用のX線フィルムの生産を行っているのが主要な業務であり、写真用フィルムは一旦生産を取りやめたが、2016年頃から生産を再開。大々的に大量生産し、海外にも積極的に輸出しているわけではないが、写真感材卸商の上海剣誠実業有限公司を経て、海外ではイーベイやB&Hなどでも販売されている。
- 上海剣誠実業有限公司は「廠」と箱に書いているものの、フィルムそのものは生産していない。上海申貝感光材料廠から長巻を買って、パトローネ詰めぐらいはしているのかも知れません。
…ということがわかりました。
(6)上海GP3は富士の「ジェネリック・フィルム」なのか?
もしかして、上海GP3は、富士フィルムの白黒フィルムのどれかを中国国内生産しているだけではないのか…というのも疑ってみましたが
▲現在、富士フィルムがウェブサイトで公開しているフィルムのデーターシートの中で、ISO100で、D-76を使って液温20℃で10分で現像…というものはありませんでした。
現在サイトに掲載されていない、昔の白黒フィルムの生産設備を引き継いで、同じレシピで作り続けている…ということもあるのかも知れませんが、とりあえず現時点では、それが元々富士の、どのフィルムなのか、特定できません。
上海GP3の画質が中国国内で高評価なのは、中国人の「国産製品贔屓」による過大評価でもなく、富士フィルムが提供した技術が優れているからではないでしょうか。GP3は「安価に入手可能な中国産のフジの白黒フィルム」と言ってもいいと思われます。
また、何かわかりましたら、このブログにてお知らせしようと思います。

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▲ちなみに現在、日本のアマゾンでも上海GP3は売ってますね。イーベイなら送料込みで10本買っても5000円しないので(私が買った時は4968円)、5本3000円は割高ですけど、10本買っても6000円ですから、イーベイと1000円しか違いませんので良心的ですね。とりあえずお試しで使ってみたいのなら、日本のアマゾンから購入するのもアリかも知れません。