黒色中国BLOG

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香港警察によるモスク攻撃の全容とその後の顛末

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20日(日曜)に香港警察がデモを鎮圧するため、放水車を出動させ、催涙性の青い液体を尖沙咀のモスクにブッ掛けた件で、林鄭月娥行政長官が直々にモスクへ出向いて謝罪しています。

ただこの件には続きがありまして、日本の報道ではあまり取り上げられていないので、こちらで一部始終を紹介しようと思います。

【目次】

香港警察がモスクを攻撃した際の状況

▲20日のデモの際、香港警察は放水車を出動させて、このように青色の催涙水をぶちまけてました。

走行しながら、ほぼ無差別に催涙水を放水しているので、モスクにかかっても仕方ない?と思う人もいるでしょう。

でも、実際はそうではなかったのです。

香港警察はわざわざモスクの前に停車、故意に攻撃を始めた

 ▲こちらのツイートで、放水車がモスクを攻撃した際の状況を詳細に解説していますが、

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▲放水車がモスクの付近を通る。

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▲放水車がモスクの門の前で止まる。

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▲モスクの門をめがけて青色の液体を噴射

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▲モスクの正面玄関一帯の放水後の状況。

モスク攻撃時の動画

 ▲こちらは香港警察の放水車がモスクめがけて攻撃を開始した時の一部始終が収められた動画になります。モスクの前で停車。それからちゃんと狙ってモスクへ放水しますが、ご丁寧なことに2回繰り返します。これはどう見ても「たまたまかかっちゃいました」というのではなく、明確に「狙って撃った」としか言いようがありません。

▲こちらはモスク前で撮影された映像。放水車が接近するのをモスクの前で記者やモスクの中の人?が見ていますけど、逃げないところを見ると、彼らはモスクの前に立っているだけで、攻撃されるとは思ってなかったのでしょう。

地上から撮影された香港警察の攻撃を解析する

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▲カメラはモスクの前にいます。ネイザンロードの南側にカメラを向けて、北上してくる警察車両を撮影していますが、モスク前に来る前に少し放水しています。何を狙って撃ったのかは不明ですが、この時点でモスク前の人たちは警察車両が放水をすでに開始していることは知っているわけです。

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▲ただ、モスク前の人たちはほとんどが記者かモスクの中の人?みたいなので、誰も逃げようとしません。そこに警察車両が接近してきて、放水車が車線変更をします。

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▲車線変更をしてモスク前で停車した放水車。この時点でもモスク前にいる人たちは逃げません。逃げなきゃいけないようなことをしてないからでしょう。

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▲そこで突如、青い水を発射します。

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▲モスクの門から少し離れたところにまず発射。ただ、この時点でも門の前にいる黒いポロシャツの人は逃げません。この人は黒いポロシャツを着ているけど、抗議者ではないようです。

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▲一瞬、黒尽くめの服装で手製の盾?らしきものを持った男性が走り抜けますが、彼は抗議者だったのでしょうか。ただ、抗議者としては軽装な方だし、他に仲間がいるようにも見えません。この人が逃げ去っても、黒いポロシャツの男性は逃げようとしません。放水で騒然となっているので後ろにいる人たちをかばうように手を横に広げています。

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▲ただ、逃げようとしない人たちにも警察は容赦なく放水をしました。黒いポロシャツの人は「え?なんで?」と信じられないようす。

盾を持った男性一人を攻撃するため?に、ここまで関係ない人も巻き込み、逃げない人にも放水し、モスクをメチャクチャに汚したのですから、どう考えてもこれは「ちょっと間違って撃っちゃいました」で済む話ではありません。

林鄭月娥がすぐモスクに出向いて謝罪した事情

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▲モスクへの攻撃があったのは20日。21日午前11時には林鄭月娥行政長官がモスクへ出向いて謝罪しています。警務処処長のステファン・ローも同行しているので、一応警察としても頭を下げた…ということになっているようです。

今まで香港警察がさんざんやらかして、救護班の女性の目を撃って潰しても、高校生を拳銃で撃って大怪我を追わせても、特に気にも止めてなかった林鄭月娥ですが、どうしてこんなにすぐ頭を下げにいくのか…香港へ行ったことがない人にはイマイチつかみにくいと思うのですが、

 ▲香港にはインドネシア人が多く住んでおりまして、2015年のデータで165,750人が居住。香港で2番目に多い外国人になっています。ちなみに1番はフィリピン人で、共にお手伝いさんとして香港に出稼ぎに来る人が多いためです。

インドネシア人の87%はムスリムらしいので、香港に住むインドネシア人の多くも、ムスリムであると思われます。

▲中国語版のウィキペディアぐらいしか資料がありませんけど、一応リンクを貼っておきます。

インドネシア人の他にも、パキスタン人やマレーシアなどの東南アジアの国々からやってくるムスリムもいるため、現在香港では18万人ほどのムスリムがいる…ということになっています。737万の香港の人口の中で2%ぐらいになります。

2%が多いのか、少ないのか…これは人によって判断が変わってくると思いますが、モスクへの侮辱を、このまま放置しておけば、2%の人たちの本国にも「怒り」が拡散するわけで、香港デモで社会が混乱している上に、香港の内外に宗教対立まで抱え込んでしまうことになりかねない。そこで、林鄭月娥がすぐ謝罪に出向いたのではないか…と思われます。

インド協会の前主席は謝罪されても許さなかった

冒頭で紹介したRFAの記事には続きがありまして、20日の「鎮圧」の際、警察に「誤射」されてしまった中に、インド協会の前主席Mohan Chugani氏が含まれていたそうです。

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▲こちらを要訳すると、

  • 前主席は林鄭月娥から謝罪の電話をもらったけど、謝罪を受け入れなかった。
  • 香港警察のやり方は「完全に限度を越えて」(完全过界)おり、「誤射」との言い分は認められない。
  • 警察の放水車はモスクの前に停車してすぐに、放水を始めており、「故意じゃなかった」わけがなく(不是非故意)、ワザとやったのだ(那便是有心)

…ということで、現場にいなかった私が映像をみても、そうとしか思えないので、Mohan Chugani氏の怒りも理解できます。

▲ちなみに、このMohan Chugani氏。今年の7月20日に開催された警察支持のイベントに「支持者」として参加していたのですが、今回の攻撃を受けて、香港警察にはすっかり失望したそうです。

今の香港の混乱を収めるためには、まず警察の無秩序な暴力の使用をやめさせるべき…と思うのですが、それを拒むうちに無関係のモスクまで攻撃し、国際問題や宗教対立を抱えるトラブルを起こした上で、警察の支持者まで敵に回してしまった…というのが今回の顛末のようです。

追記:モスクの代表はとても立派な人です

大切なことなので追記しておきますが、今回の香港警察のモスク攻撃は「誤射」ではなくて

  • わざわざ車線変更してモスクに近いところへ放水車を寄せて
  • クルマを止めてから催涙性液体を発射。
  • しかも念入りに2回。
  • 黒尽くめの抗議者?と思われる人物がいなくなっても、残った無関係の人に液体を浴びせた

…というものですから、インド協会の前主席のように怒るのが当然なのです。

ただ、攻撃された当事者であるモスクの代表Saeed Uddin氏は次のように述べたそうです。

「我们是和平的社群。我们希望继续和平地在这里居住,因为香港是我们的家,清真寺没有被破坏,什么也没有被破坏,唯一做错的事,他们道歉了,我们接受了。」

(私達は平和的なコミュニティです。我々は平和的にここに継続して住むことを希望します。なぜなら香港は私達の家だからです。モスクは破壊されておらず、何も壊されていません。唯一のミスは、彼らが謝りました。私達は謝罪を受け入れます)

この機会を借りて、イスラム教徒が平和的であること、香港は私達の家でもあるのだから、私達はここで平和的に住み続けたいのです…と主張することで、イスラム教への偏見や反ムスリム感情を払拭しようとしたのでは…と思います。

私自身、中国にいる時にムスリムの人々との交流があり、香港に住んでいた時には、今回攻撃を受けたモスクの近所に住んでいたこともあったのですが、非常に大人しく、礼儀正しい人たちでした。

今回、香港警察は大きな問題をやらかしたわけですが、モスク代表の「大人の対応」に救われたのは、不幸中の幸いといえるでしょう。

香港を知るための60章 (エリア・スタディーズ142)
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