「捕鯨」も「レイシズム」もそうなんだけど、日本人が持つ「セルフイメージ」と、外国人の見ている「日本ってこんな国なのか」という印象は大きく違う。そして、私の活動範囲はせいぜい中国・香港で、そこに華僑が交じるぐらいだけど、全く日本の主張や実態が伝わってないことに、日々愕然としている。
— 黒色中国 (@bci_) January 14, 2019
▲昨晩のツイートですが、この数日考えていることを連投してみました。
中国や香港へ行く度に、中国語のできる日本人として色んなことを聞かれます。歴史問題、尖閣問題、そして捕鯨問題について。
その度に、私個人の見解というよりも、「日本では大体こんな風に考えられている」ということを客観的に説明することに苦心しているので、上掲の連投のような話になったわけですが、日本人の「セルフイメージ」と中国での「日本への印象」は大きく異なります。
それを「捕鯨」についてお見せすると次のようになります。
【目次】
「捕鯨」を日本と中国の画像検索で調べると…
▲日本のグーグル画像検索で「捕鯨」を検索した結果(クリックで拡大できます)。
▲中国のウェブ検索「百度」で「捕鯨」を画像検索した場合(クリックで拡大できます)。
ただ、これでは日本以外の画像も含まれているようなので、「日本 捕鯨」で検索してみると…
▲更にヒドくなった感じです(クリックで拡大できます)。
日本のグーグル検索は、日本向けに最適化されていると思われるので残酷な画像を自粛しているのか、たまたまああなってしまうのか。
中国では「配慮」する必要がないのでフィルタリングされてないのか、もしくは逆に残酷さを強調しているのか?
ネットで画像検索すると、日本と中国では「捕鯨」に対するイメージを共有できているとは言えません。
今の世の中、何か知ろうとすればまずはネットで検索するわけで、画像検索はその目安となると考えます。中国人が「捕鯨」に対して残酷な印象を持つのは当然だろうな…としか思えない。むしろ、中国人の「捕鯨観」を反映したのが、百度の検索結果じゃないのかな?と思うのです。
▲ちなみに、クジラについてはこんな記事も書いてますので、関心のある方はぜひ御覧ください。
私の中国・香港の友人の捕鯨への印象
今まで私が中国や香港の友人との会話で得た、彼らの「捕鯨への印象」を書き出すと…
- 捕鯨は残酷。可哀想(上海人、30代女性で英語堪能。「西洋かぶれ」な傾向あり。その他、野生動物の保護にも関心が高く、広州にあるような野生動物市場は廃止にすべきと日頃から主張していた)
- あんなカワイイ動物を殺すのはかわいそう(イルカなんかも一緒にして話をしている…上海人、20代女性。NZ留学経験あり)
- 捕鯨に賛成はしないけど、美味しいのなら食べてみたい気はする(湖南人、30代男性)
- クジラって美味しいの?…日本に行ったら食べてみようかな(遼寧省出身、30代男性)
- 中国の友人の会社の中国人社員が大勢で日本に来て、私が案内して一緒に観光している際、海鮮がメインのレストランに入って食事をしようとしたら(大半の中国人社員が日本に来たから美味しい海鮮を食べたかった)、生の魚介類は食べられない、そもそも魚介類は好きじゃない…という中国女子が一人いた。火の通った、中国人が好きなブタの料理ならいいだろうと思いメニューを見せながら「豚カツ定食」を勧めてみたら(海鮮がメインの店だけど、そういう料理もあった)、「そんなのゼッタイ食べないわよ!私は英国に留学して…」と大声で激怒し長々と話し始めた。中国人が「豚カツ」で激怒する理由がわからないので、落ち着いてもらって聞いてみると、「豚」を「海豚」と勘違いして激怒したらしい。(海鮮メインの店でメニューに「豚」と書いているからイルカが出てくると勘違いしたそうだ。ちなみに中国語でブタは「猪」と書き、「豚」という字は使わない)この中国女子は30歳手前ぐらいで、英国留学経験があり、高い英語能力を買われて雇われていた人。英国で反捕鯨の考えを持つようになったらしい。職業は通訳兼デザイナー。
- 日本人がクジラを食べるのには反対しないが、自分自身は捕鯨に賛同できないし、食べようとも思わない。残酷かどうかという以前に、私の生まれ育った社会の常識としてクジラは殺したり食べたりするものではない。(香港人、40代男性。欧州系の会社に長年勤務し、英語が堪能。留学だか仕事で長期ロンドンに居住している親戚がいるとのことで、そうした文化的背景の強い家庭に育った人物と思われる)
今すぐに思い出せる話を書き出すだけでもこんな感じです。それぞれある程度のバラツキはあっても、基本的に捕鯨には反対。賛同しない。反対する人たちは、欧米の影響が強い人達ですけど、文化的な欧米の影響は今後も中国で広まるものではないかと思われます。
中国人や香港人と捕鯨について話すのは、歴史問題や領土問題に比べたら「ライト」な話題ですけど、それでも基本的に捕鯨への理解がない人達なので、彼らを相手に日本の捕鯨を理解してもらおうとすると、それなりの困難がつきまとうわけです。
ウィキペディアと百度百科の比較
▲外務省が米紙ニューヨーク・タイムズ紙に
捕鯨は何世紀にもわたる日本文化の一部であり、日本の文化的遺産や産業保護への関心を軽視することは「不快だ」と懸念をあらわにした。
…と寄稿したそうですが、先の画像検索でもわかるように、中国で捕鯨を検索した際に
▲こういうイメージで「捕鯨は何世紀にもわたる日本文化の一部」という印象を持ってくれることは、まずありえません。こちらは日本のウィキペディアで「捕鯨文化」の最初に掲載されている画像です。
▲こちらは百度百科(中国のウィキペディアみたいなの)の「捕鯨」の説明で1番に出てくる写真。百度百科に「捕鯨文化」の項目はありません。日本での撮影ではないようですが、中国人が捕鯨を説明する時にはこういう画像を選んでくるわけです。これが日本で撮影されたものでなくても、「捕鯨」というものがこうしたイメージで受け取られていることには変わりない。
日本人の言う「捕鯨は何世紀にもわたる日本文化の一部」というのは、こういう残酷なことなんだな、残酷なことが日本の文化なんだな、と思われてしまう。
こういう中国の状況を無視して、
日本の文化的遺産や産業保護への関心を軽視することは「不快だ」
と言っても、中国人からすると何を言ってるのかよくわからない。「不快なのは残酷な文化を持つ日本人だ!」と思われるのではないでしょうか。このままでは日本側の真意が伝わらないと思うのです。
日本人としては今後、海外で日本の主張を理解してもらおうとするなら、こうしたギャップを埋めるための努力が必要だと思います。
* * * * *
だから、日本人が日本人に説明するようなやり方で、中国人に捕鯨の正当性を主張しても、いまいち心に響かない。そもそも中国人はなんでも食べるくせに、クジラを食べる習慣はない。
私の場合は、中国人・香港人に対して、日本の捕鯨を説明するわけですが、その際には彼らのクジラに対する考えや、文化的なバックグラウンドを理解した上で、彼らにわかるように説明するようにしています。今後、日本が捕鯨を再開するのならば、色んな国の事情に合わせた上で、伝え方を工夫しなくちゃいけないと思うのですね。
「別にいいんじゃないの?わからないヤツにナニ言っても無駄なんだよ。捕鯨は日本の文化だから。外国の顔色なんか伺わなくてもいいんだよ」
…という対応をしていると、どこかで色々こじれて、つまらない摩擦が増えて来る。
そして日本人は「一生懸命やってればいつかはわかってくれる」「外国にわかってもらえなくてもいい」「外国人にナニがわかる」「国際陰謀に日本はハメられている!」「わからないアイツらが悪い」という考えに陥りやすい性質を持っていると思う。日本の国際問題の大半はこれが原因じゃないだろうか。
— 黒色中国 (@bci_) 2019年1月14日
▲そしてこんな風にエスカレートして、捕鯨問題以外のところでも、国と国の関係が変なことになるんじゃないかな…と心配になるわけです。
古式捕鯨のやり方、歴史に関する小説
日本の捕鯨をナショナリズムのダシとしてではなく、本当に伝統文化として関心を持っているのなら、最近良い小説(伊藤潤『巨鯨の海』『鯨分限』)が出ているので是非読んでみてほしいですね。小説としてすごく面白いし、古式捕鯨のやり方や歴史がよく理解できます。 pic.twitter.com/01RfxMZade— ncc1701 (@ncc170116) 2019年1月14日
▲ツイッターでいつもお世話になっているNCC170116さんからこちらの本をご紹介いただきました。

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私自身、和歌山のくじらの博物館にも足を運んだり、捕鯨に関するドキュメンタリーを見たりしてきたのですが、古式捕鯨について、こういう小説があるとは思いませんでした。ぜひ私も読んでみようと思います(^^)
- 今日の発見 この記事は多くの人に読まれた反面、多くの人の反感を買うことにもなりました。クジラのことは書かないのがベストです(^^)