黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

【「中国でVPNを使ったら行政処罰」の真相を探る】(2)VPNで何をしたらアウトなのか?

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▲「中国でVPNを使ったら行政処罰」を受けたというニュースの元ネタとなったサイトのことはこちらにたっぷりと書きましたが、それよりも大切なのは、今回逮捕されてしまった人物は、具体的には何をやらかしたのか?を知る必要があります。そうでないと、今後我々日本人が中国でVPNを利用しても大丈夫なのか?という不安を払拭できないからです。

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【目次】

行政処罰決定書を読む

▲こちらのアカウントが今回、行政処罰を受けた人物の行政処罰決定書と思われる文書の画像を添付しています。こちらが本物かニセモノかはわかりませんけど、一応これを読んでみると、かなり詳細な情報が書かれているのがわかります。

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▲(クリックで拡大できます)

  1. 【違法行為人】朱雲楓/男/30歳/(ここから伏せ字が始まります…本籍地が広東省で、現在も広東省に居住…最後の「罪経歴」はたぶん「没有犯罪経歴」=犯罪経歴はない…の最後の3字じゃないかと思います。もし犯罪経歴があるのなら、それらが書かれているはずで、字数的にはこれでは収まらないからです)
  2. 【現在、捜査で判明していること】朱雲楓は2018年8月から捜査が開始されており、携帯電話にインストールしたアプリ「藍灯」(Lantern Pro)でアクセス(ここから字が切れている…)
  3. 150XXXXXX35@139.gdのブロードバンド回線で翻墙(中国のネット規制を飛び越えて禁止・制限されているネット上の情報にアクセス)した。最近1週間のログイン回数は487回であった。

これらについて考察してみようと思います。

(1)朱雲楓さんは何者か?

法輪功信者説

私が一番最初に思いついたのは、「法輪功関係者を別件逮捕したのではないか?」ということ。今どきVPN接続ぐらいで逮捕する必要もなかろうし、広東省は香港が近いこともあってか法輪功が強い地域です。

でも、罰金1000元だけで終わっているし、他の罪状も伝わってきませんから、ちょっと違うな…という感触。それと、法輪功関係者なら、自分のケータイで長期間VPNをやりまくって捕まるようなマヌケなことはしないと思うのですね。

旅館経営者説

そこで、「広東省 朱雲楓」で検索していると以下の情報を発見しました。

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▲(クリックで拡大できます)こちらによると、朱雲楓さんは小さい旅館の経営をしていた人物のようです。ただ、この情報の出典がわからないのですけどね。民警が旅館の検査をしていた時に、法規に違反した宿泊登記情報が見つかったので、それについて500元の罰金、その際にスマホを調べてみたらVPNアプリが見つかったため警告後、1000元の罰金…とあります。

ただ、これだと行政処罰決定書上の記載…去年8月から捜査が始まっていた…というのはどうなってしまうのか。

両方の情報が正しいという前提に立って考えると、そもそもの捜査はVPNの方じゃなくて、ここの旅館は何か怪しい…宿泊客の登記に問題がある…と睨まれて、捜査対象となり、捕まえてみたらスマホのVPNアプリが見つかった…ということではないのか。

でも、5か月も捜査したのに、計1500元の罰金だけで、刑事事件として立件出来ず、行政処罰で終わってしまう…というのは警察としてはマヌケな話ですよね。

もしかしたら、VPNで海外の客や、秘密の客と連絡しあってて、宿泊の証拠が残らないように記録を残さず泊めていた…テロリストの協力者と勘違いされていた…のかも知れませんけど。

罰金1000元の法的根拠を調べると、《中华人民共和国计算机信息网络国际联网管理暂行规定》 の第十四条に

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▲(クリックで拡大できます)

最高額は1万5千元とあり、「違法所得があれば没収」とあります。もしVPNを使って何らかの商売をしていたのなら、違法所得が発生しているから没収対象になっていたはず。そして違法な商売やテロリスト絡みとなれば、罰金1000元では済まなかったと思うのですね。

だから、旅館経営者説はさておき、朱雲楓さんはVPNで何らかの商売をやっていたわけでもなく、何か重大な「悪事」をやっていたわけでもない…ただVPNを使って禁止・制限されている情報にアクセスしているだけだった…と見るのが妥当ではないかと思います。

でも、そうだとしたら、特に「悪事」をしなくても、VPNを使っているだけで行政処罰を受ける…ということになってしまう。我々一般の日本人も油断できない話になってくるわけです。

(2)VPNアプリ「藍灯」(Lantern Pro)

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▲(クリックで拡大できます)私が最初、行政処罰決定書の「処罰事由」を見た時に疑問だったのは、「建立,使用」の部分でして、VPNでの違法アクセスにおいて、「この2つの違いは何を意味するのか?」ということなのですね。

「使用」は「使用」でしょう。「使う」ってことです。

でも、「建立」って何?

▲こちらのツイートでは「建立」を「setting up」と訳しているのですね。

もしかしてVPNのサーバーを自分で立ち上げたのか…とか考えたのですけど、そうじゃなくて、

「建立」って、単にVPN接続アプリをインストールしただけ…なんですね。

▲Lantern Proについての詳細はこちらをご参照ください。

私はこのアプリを使ったことないのですが、OpenVPNやSoftEther VPNだったら大丈夫なのでしょうか?

たぶん、そういうことじゃないと思うのですね。

私の場合、最近は香港でSIMを買って大陸入りするので、VPNを使うことがないのですが、大陸でも使える香港SIMをの場合、別に何もしなくても「壁越え」できます。こちらは当局の規制対象になっていません。

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▲(クリックで拡大できます)

香港で買える大陸でも使えるSIMの場合、正規の形で大陸のキャリアーが提供しているものですから、《中华人民共和国计算机信息网络国际联网管理暂行规定》 の第六条の「必须使用邮电部国家公用电信网提供的国际出入口信道」に違反してないから大丈夫なわけです。

日本のSIMでローミングサービスという手も、これと同じ状況になります。

だから、今後VPNの使用が心配…という人は、香港で販売されている大陸でも使えるSIMや、日本のSIMのローミングサービスを利用されることをオススメします。

(3)ケータイからのアクセスだった?

中国のネット情報を見ると、

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▲(クリックで拡大できます)というのがありまして、「连接到自己家的宽带」(自分の家のブロードバンド回線でアクセスした)と書かれているんですけど、

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▲(クリックで拡大できます)

150XXXXXX35@139.gd

▲この部分の「@139.gd」を調べると

后缀为@139.gd是移动宽带

1、移动宽带账号移动手机号码+@139.gd , 根据手机号码来区分的,最后的后缀都是一样的。

例如12345678900办理了“手机宽带”,账号为12345678900@139.gd。

▲とありまして、これってケータイのブロードバンド回線なんですね。

私の場合、短期間でSIMを変えて、VPN接続はケータイを使わないで出先のWIFIでやって…とか、いろいろ気をつけているのですけど(一体何を書いておるのだw)、どうやら朱雲楓さんは自分のケータイのSIM1種類を長期使用でVPNも使っちゃった…みたいなのですね。

そんなことだから公安の調査対象になったのではないか。

そして…

公共信息網絡安全監察大隊

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▲またこの行政処罰決定書を引っ張り出してきましたけど、最後の行に「公共信息网络安全监察大队」(公共信息網絡安全監察大隊)とありますよね。もうちょっと日本語寄りに訳したら「公共情報ネットワーク安全監察チーム」 ってことです。

▲こちらに解説がありました。大したことは書いてませんけど、ようするに「ネット監視」専門の警察ですね。

行政処罰決定書の「承辦単位」(この場合の「単位」は「部門」ということ)が公共信息網絡安全監察大隊ということは、やっぱり最初の民警が旅館を捜査したら、たまたま見つかりました…という説は違うんじゃないかな…。

去年8月から12月までの5ヶ月間、捜査したけど、捕まえてみたら別に大したことありませんでした…ということじゃないのかな…と思うわけです。

同じ罪状で召喚された黄成城さん

ただ、この朱雲楓さんの件と同時進行で、重慶では下記のようなことが起こっていました。

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▲こちらが黄成城さんの家族に届いた「被传唤人家属通知书」(召喚された人の家族への通知書)。ここで召喚された容疑は

擅自建立、使用非法定信道进行国际联网

でして、

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これって朱雲楓さんの処罰事由と同じですね。

朱雲楓さんは去年12月27日に逮捕で行政処分のみ。

黄成城さんは今年1月4日に召喚されまして

▲こちらが黄成城さんのアカウントですが、本人の書き込みは1月1日以後更新なし、1月2日のRT以後、新しいツイートはありません。

▲こちらによりますと

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▲とありますから、警察に呼ばれて取り調べを受けたのは1月4日の午前11時からの8時間だけで、午後7時26分にはWechat(微信)に書き込みをしていたようです。

つまり今は釈放されて、Wechatはできるけど込み入った話はできない、ツイッターはできない状況にある…ということなのでしょう。

黄成城さんの場合、「罰金」を払ったという情報がないのですが、この点は一体どうなっているのか。行政処分を受けてないのか?

「罰金」の根拠

▲こちらに重要な情報がありました。

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▲(クリックで拡大できます)こちらは重慶市の公安機関のネットワーク安全管理行政処罰裁量基準で、公安機関が違反者のネット利用を禁止するか、1万5千元以下の罰金、違法所得がある場合は没収です。そして

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▲(クリックで拡大できます)こちらはどのように処分や罰金が決められるのか書かれているのですが(余談ですが、こういうところをイチイチ事細かに決めるあたりが、さすがは中共ですねぇw)

  1. 営利目的でない場合、初犯はネットへのアクセスを停め、警告を与える。
  2. 営利目的で違法所得が5000元以下の場合、ネットへのアクセスを停め、警告を与え、違法所得は没収。
  3. 営利目的で違法所得が5000元以上、10000元以下の場合、ネットへのアクセスを停め、警告を与え、個人の場合は5000元以下の罰金。組織の場合は5000元から10000元の罰金で違法所得は没収。
  4. 営利目的で違法所得が1万元またはネットへのアクセスを停めた後も違法行為を継続した場合、ネットへのアクセスを停めて警告し、1万から1万5千元の罰金、違法行為の没収。

これを見る限り、黄成城さんは営利目的ではなく、初犯であったため罰金なしで釈放され、VPNを使用は停止させられたからツイッターはできないけど、Wechatをする分にはOK(敏感な書き込みは自粛)ということじゃないかと思われます。

そして、これらの罰則規定はあくまでも重慶市の場合ですが、もしこれが広東省韶関市でも同じだとしたら、朱雲楓さんは上掲の(3)に相当し、営利目的でのVPNの使用で5000元以上1万元以下の利益を出していたため5000元以下の罰金…ということになり、罰金1000元を要求された…ということではないでしょうか。

そうすると朱雲楓さんは、個人事業者であり、違法所得の総額はたぶん(3)が定める最低ラインの5000元あたりだったため、罰金は1000元で済み、違法所得の没収はなかったのではないか…と思われます。

我々はどうすれば良いのか?

朱雲楓さんと黄成城さんの2人の事例を追ってわかってきた我々が参考にすべき教訓を考えますと、以下のようになると思います。

  1. 違法なVPNの使用は当局の捜査の対象になる。
  2. 長期間・頻繁にアクセスするのも目をつけられやすくなるみたい(朱雲楓さんは結果的に罰金1000元で済んでいるけれど、当局が5か月も捜査したのは、元々朱さんが頻繁に違法なVPNへアクセスしていたのが原因と考えられ、実際に捕まえてみたら大したことはやってなかった…という事情と考えられます)。
  3. スマホにアプリを入れてVPN接続するだけでも「状況」によっては見逃してくれない。
  4. 捜査・処罰の対象となりうる「状況」は2つあり、大きく分けて「非営利目的」と「営利目的」である。
  5. 非営利目的で処罰対象になるのは、黄成城さんのケース。ようするに民主化活動、人権活動、反政府活動…いわゆる政治活動に属するもの。初犯の時は注意とアクセス停止だけの処罰。召喚されても8時間ぐらいで釈放してくれる。
  6. 営利目的で処罰対象になるのは、金額によって処罰内容が変わる。個人よりも法人、初犯より再犯の罰金が高額になる。

こうやって整理すると、大半の日本人にとって営利目的での違法なVPN接続を使う…しかも個人じゃなくて法人で…というケースは多くないと思いますので(そうですよね?)無関係な話じゃないかと思うのですね。

もし中国国内で、個人&営利目的で違法なVPNを使用している人がいたら、早めに他の合法なアクセス方法を探した方が賢明でしょう。

日本人で、非営利目的で違法な(中国政府公認ではない)VPNを使う人は結構いると思いますが(ツイッターしたいとかFBしたいとか)、たぶん政治目的じゃなければ問題にならないのではないかなぁ…と思うのですね。こんなの、全部捕まえだしたら大変なことになりますから。

でも、日本人で非営利目的で政治目的じゃなくても、違法なVPNを継続的に使う人は、同じ回線(特にケータイSIM)を長期間・頻繁に使用するのは避けた方が良いと思います。このケースは、中国当局の捜査対象になってしまう可能性が高いからです。

▲長くなりましたが、この件は(3)に続きます。

▲こちらは私が以前使っていたもので、参考まで掲載しておきます。他にも種類があり、アマゾンで「香港 SIM」で検索すればいろいろ出てきます。この手のSIMの大陸内での使用は違法ではありません。

私は香港で購入し、日本でも使っているスマホにSIMを挿して、香港でも使えましたし、そのまま中国に入っても何も操作せずにそのまま使えました(機種によって違うかも知れません)。中国に入ってもツイッターやFBが使えました。こちらのSIMは電話回線なしで、データ通信のみです。この手のSIMは電話回線+データ通信のものと、データ通信だけのもの、使用できる期間の違いなどもありますので、購入時には注意してください。