香港の朝食といえばすぐに思い浮かぶのは「飲茶」(ヤムチャ)である。私も飲茶は好きだけど、急ぎの時には向かないし、大勢で行った方が楽しい。
忙しい朝に、一人で手早く食事を済ませたいとなれば、茶餐庁へ行くことになる。茶餐庁は香港のどこにでもあるし、競争が激しいのでセットメニューが充実している上に値段も手頃、注文してすぐ出てくる。
私が好きな茶餐庁のモーニングセットは、こういう組み合わせ。
刻んだハムを乗っけたインスタントラーメンに、バターをたっぷり塗ったパンとハムエッグ、それにアイスミルクティー。
インスタントラーメンは数ドル追加して「出前一丁」に変えてもらうのが、愛国心豊かな日本人である私のコダワリだ。
香港人は麺の茹で加減に世界で一番気を使う人たちではないかと思う。
出前一丁は少しコシを残して固めに、でも表面はモチモチ感を持たせて茹で上げるのが最上である。アツアツのスープに千切りのハムをたっぷりのせて食べる。これぞ香港の朝食である。
「ソノ、オ茶ハ、飲ンデモ良イノデスカ?」
香港の茶餐庁へ行くと、お茶にフォークとスプーンを入れてあるのをよく見かける。私も毎回このようにする。
香港では食器洗いの時に、シツコイ汚れを落とすために、塩素を入れたシンクに食器を漬け込む。最後に水洗いしても、塩素が残留しているので、こうやってお茶につけて、塩素を落とすのだ…という説を聞いたことがある。
この様子をみた隣席の西洋人(たぶん旅行者と思われ)が、「ソノ、オ茶ハ、飲ンデモ良イノデスカ?」と英語で聞いてきたことがある。私は英語が不出来なので正確には不明だが、たぶんそういう意味の質問だったと思う。
「Can Drink」と返答すると、西洋人はちょっと安心したが、続けて「But I Don't Drink」と答えると、「Why?」と言いたげな表情を浮かべた。
私の英語力では「残留塩素」の説明ができない。西洋人は、私の真似をしてお茶を飲まずに食器を入れて、不可解そうに周囲の客を見渡し、この奇習の理由を考えているようであった。
- 作者:龍 陽一
- 発売日: 2012/03/01
- メディア: 単行本