黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』の3つの謎に迫る!

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▲クライブ・ハミルトン教授の新刊、『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』の日本語版が本日届きました!\(^o^)/

▲前作の『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』の時も、「買いました!」のブログ記事を書きましたが、今回も「読む前に書くブックレビュー」をいたします。

今回の『見えない手』は、発売前に監訳者が漏らしていた「問題」がありまして、まずはその点を確認せねばなりません。そして本書には他にも「2つの謎」がありまして、読み始める前にこれらの「3つの謎」を解き明かしておこう!と思っていたのでした。

購入を検討している皆さんの参考になれば幸いです。

1つ目の謎:「薄い本疑惑」

▲こちらの動画の42分20秒あたりから、『見えない手』の話になるのですが、44分40秒から、監訳者の奥山真司さんが、本書の問題について取り上げています。

「問題はですね、『サイレント・インベージョン』(邦題『目に見えぬ侵略』)よりも、薄いんですよ」(指で「本の厚さが薄い」というポーズをしながら)

監訳者がそこまで言うのなら、相当薄いのでしょう。

そして、共演者の和田憲治さんも、「後ろの方がね…引用元の…索引ばっかりなんで」とおっしゃっている。

「読まないブックレビュー」としては、まずその点を検証してみることにしました。

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▲まずは、『目に見えぬ侵略』と一緒に並べてみました。一見するところ、厚さに違いはありません…

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▲カバーを外してみましたが、ほとんど同じ厚みですよね。

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▲横から見るとこんな感じ。左が『目に見えぬ侵略』。ほとんど厚みは変わりませんね。

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▲ページ数の比較。最終ページを開くと、『見えない手』(写真上)は478頁。『目に見えぬ侵略』(写真下)は426頁。だから、ページ数で言えば、『見えない手』の方が52頁も多いのです。

ただ、和田さんが仰るように、巻末は引用元などを記した「脚注」が多くて、本文が薄い…ということらしいです。そこで本文の比較をしてみました。

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▲『目に見えぬ侵略』(写真上のモザイクをかけている方)は本文最終ページが381頁。『見えない手』の本文最終ページは、341頁。つまり、前作よりも40頁も薄いわけです。

ところが…

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『見えない手』では本文の後に、「補論 日本は「目に見えぬ侵略」にどう対処するか」が続きます。こちらは2020年に月刊Hanadaのために行われた2回のインタビューを再構成したもの。これが20頁続きます。

だから、前作『目に見えぬ侵略』よりも、20頁薄いだけですね。

あと、「あとがき」と「謝辞」と「監訳者解説」もありますけど、こちらは前作にもあった。ただ、その後に、「略語解説/用語集」というのが11頁もある。こちらは前作にはなかったので、かなり読みやすくなっております。だから、「真水分」で言うと、前作と文量の差は9頁程度。監訳者さんは正直な人なので、つい心配を漏らしたのでしょうが、確認してみたら、特に大きな差ではありませんでした。

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▲価格的には前作より100円値上げになっていますけど、量的には『見えない手』の方が厚いのは確かなので、これは仕方ない。というより、前作の時も申し上げましたけど、今回も『見えない手』では2段組でギッシリ内容が詰まっています。全478頁で2000円の本というのは、未曾有の出版不況の最中にあって、良心的な価格設定と言えます。

監訳者がYOUTUBEの番組で、真顔で「ウスイ!ウスイ!」と連呼するので、ペラペラのパンフレットみたいなのが届いたらどうしよう?と心配していたのですが、実物を手にとってやっと安心できました(^^)

2つ目の謎:マレイケ・オールバーグさんはどんな人?

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▲『見えない手』は、前作と違って、クライブ・ハミルトン教授とマレイケ・オールバーグさんの共著となっています。

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▲ところが、このマレイケさんってどんな人なんでしょうね?

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▲カバーの著者略歴を見ると…いろいろ書いてますけど、私の心に刺さらない説明でした。何か気になるんですよね…本文をちゃんと読めば納得できるのかも知れないけど。

そこで、372頁から始まる「監訳者解説」を読むと、次のように書かれていました。

もう一人の著者であるマレイケ・オールバーグは、アメリカに本部のあるジャーマン・マーシャル財団のアジア研究部門のシニアフェローであり、以前はドイツのシンクタンクである「メルカトル研究所」の中国研究部門で研究に従事していた。中国と欧州の関係についての専門家であり、同シンクタンクでいくつかの有名なレポートをまとめた経歴を持つ。彼女の博士号論文のテーマは中国共産党の対外工作についてであり、本書を書く上でこれ以上ないほど最適な人物であろう。

…とありまして、「ジャーマン・マーシャル財団」のシニアフェローなのですね。

ところが、「ジャーマン・マーシャル財団」に関する情報が、ググっても断片的なものばかりで、ほとんど出てきません。

▲まとまったものとしてはこれぐらいかな。

ジャーマン・マーシャル財団(German Marshall Fund of the United States:GMF)とは,米国(ワシントンDC)に本部がある米欧間の相互理解・協力に向けた公共政策に関連する財団。1972年に,マーシャル・プランによる支援を記憶に留めることを念頭に,西ドイツ政府(当時)の寄付により設立された。政治・安全保障分野における大西洋(transatlantic)関係の発展を起源とし,近年では,政策シンクタンクとしての性格を強め,グローバル且つ今日的な課題や,アジアを含む他地域にも,そのカバレッジを広げつつある。欧州各地に支部があり,米欧の首脳,閣僚級要人,有力シンクタンク,メディア,企業関係者等を集めた政策フォーラムを主催している。

さらに、そこからたどってみたら、ジャーマン・マーシャル財団のウェブサイトに、マレイケさんのページがありました。

www.gmfus.org

Mareike Ohlbergは、アジアプログラムのシニアフェローであり、ストックホルム中国フォーラムの共同リーダーです。彼女はGMFのベルリンオフィスを拠点としています。GMFに入社する前、マレイケはメルカトル中国研究所でアナリストとして働き、中国のメディアとデジタル政策、およびヨーロッパでの中国共産党の影響力キャンペーンに焦点を当てました。それ以前は、ハーバード大学のフェアバンク中国研究センターでアン・ワン博士研究員を務め、台北の世新大学で博士研究員を務めていました。彼女は中華圏に数年間住み、働いてきました。彼女は「ヒドゥン・ハンド:中国共産党が世界をどのように再形成しているか」という本の共著者です。(2020)。マレイケは、ハイデルベルク大学で中国学の博士号を取得し、コロンビア大学で東アジア地域研究の修士号を取得しています。彼女は、中国の台頭の世界的な影響についてメディアで頻繁に解説しています。

▲私は英語ができないので、自動翻訳で日本語にしてみましたけど、『見えない手』の略歴はここを参考にしたものなのかな(上掲は自動翻訳で、誤訳が含まれるはずなので、参考程度で流し読みしてください)。帯に使われている写真と財団のページの写真は同じものですね。

マレイケさんについてまとめてみると…

  • ドイツ人女性
  • ハーバード大学で中国研究
  • 台北の世新大学で博士研究員
  • 中華圏に数年間住み、働き
  • ハイデルベルク大学で中国学博士号を取得
  • コロンビア大学で東アジア地域研究の修士号
  • メルカトル中国研究所(MERICS)でアナリストとして働き
  • 現在はジャーマン・マーシャル財団のシニア・フェロー
  • ストックホルム中国フォーラムの共同リーダーでもある

ようするにこの人、中国学研究の偉い人ですね。でも中国の大学には行ってない?

「ドイツ・台湾」繋がりで考えると、親か祖父母あたりに中華民国関係の人がいたりするのかな?とも思ったりするのですが、あくまでも私の想像で、そこは本文を読んでのお楽しみ…ですかね。

ただ、パラパラッと眺めてみたところ、この本はどこの部分を誰が執筆したかは書いてないのですね。あくまでも共著ということで。冒頭の「日本の読者へ」すら、連名になっています。

前作の「読んでないレビュー」でも書きましたけど、クライブ・ハミルトン教授は本来は中国屋さんではないので、今回はマレイケさんの協力を得て、中国関連の知識を補強したのかな。なんにせよ、読み応えは十分ありそうです(ΦωΦ)フフフ…

3つ目の謎:『見えない手』はどんな本なのか?

前作の『目に見えぬ侵略』は、数年にわたって、出るぞ出るぞ!とYOUTUBEの番組で盛り上げてきたので、出版前からある程度の内容は漏れてたわけですが、今回の『見えない手』は、前作ほど内容がリークされてないので、どんな本なのかイメージが掴めてませんでした。

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▲私は、読書をする前に、事前情報をかき集めて、帯やカバーや目次をシッカリ読んで、著者略歴を頭に叩き込んで、著者の思想背景や所属機関なども調べて、「外堀を埋めて」から本を読み始めるタイプなんですけど、『見えない手』はどんな本なんでしょうね?

▲一応、ウィキペディアでも本書に関する項目はあるんですけど、具体的な内容はわからないですね。

目次を読んでも、漠然としたイメージしか持てなかったので、「まえがき」まで読み進めましたけど、その中に、こんなことが書かれておりました。

本書のテーマは、中国共産党が北米と西欧(つまり西洋諸国)において、影響力の発揮、干渉、そして破壊などを、何を対象にして、なぜ、そしてどのように行ったかを明らかにすることだ。

オーストラリア(『目に見えぬ侵略』で記述)とニュージーランドにおける中国共産党の活動については、ごくたまに触れる程度である。ただし中国共産党の活動は、全世界の秩序の再構築を目指しており、その形は様々であるが、今回紹介する西洋諸国の経験は、世界のあらゆる国々が経験したこととよく似ているのを心に留めておくべきだ。

これが、二人の著者が設定する「テーマ」なんですね。

私は非常に興味津々だけど、イマイチ日本とは無関係な気もする。中共はヤバい!欧米ではこうでした…という研究本ですからね。

ただ、「まえがき」の最後の部分で

西洋諸国が中国共産党の脅威にうまく対処できていないのは、これまで中国共産党のような敵と戦う必要がなかった事実に加えて、そもそも中国共産党について無知であったことが原因だと言えよう。冷戦時代、西洋諸国の中にソ連と深い経済関係を持っている国はなかった。現在は実に多くの国が、中国の経済面や戦略面での重要性を意識して、中国について詳しく知ろうとしている。ところが北京はそれと同時に「中国をよりよく理解してもらう」ことを支援するために資金を注ぎ込んでいる。もちろん中国から直接情報を得るのは賢明なように思えるが、これから我々が示していくように、これは大きな間違いなのだ。

太字にしたのは私ですが、この部分と、そこから続く最後までの段落…私の心に刺さりました。

中国は、「中国をよりよく理解してもらう」ために、ありとあらゆるチャンネルを使って、パブリック・ディプロマシーを展開している。単なる政府広報とか、人民日報だの新華社通信というわかりやすい「プロパガンダ」だけではなくて、中国の巧みな宣伝活動は、官民の境界線がよくわからないようになっている。

黒色中国では、敢えてCCTVだの、新華社通信の情報をガッツリ見ることで、内容を検証し、「彼らが見せようとしていることの意図はなにか」「彼らが見せなかったことは何なのか」を考えてきましたけど、この本では別のアプローチで(いや、まだ読んでないから知らんけど)、中国のパブリック・ディプロマシーの裏をかいて、中国共産党がどんな敵なのかを暴き、如何にして中国共産党の脅威に対処するのか?を考察した本ではないでしょうか。

コロナのせいで今年の年末年始はずっと家にこもっておりますから、このチャンスに本書を熟読しようと思います(^^)