ツイッターで時折、私が中国で食べた美味しいものを紹介していると、「大丈夫なんですか?」という質問が寄せられることがある。
不衛生であるとか、毒が入っているんじゃないか…という指摘であろう。
日本のマスコミが中国の食べ物を紹介する時は、ネガティブな取り上げ方が少なくないので、「中国の食べ物=毒」という印象を持っている人がいるわけだ。
私が故意に毒入りの食べ物を「美味しい」と紹介するわけもなく、毒に当って死んでいればツイッターで紹介できるわけもなく、死なないまでも体調不良を感じていれば、まずはそのことを報告するだろうし(黒色中国とは本来、中国のネガティブな情報を紹介するものだ)、もし毒入りの食べ物を売る店があれば、先に中国人が大騒ぎをして商売を続けられなくなるだろう。
場所によっては、悪辣な衛生環境で調理していたり、マガイものや汚染された素材を使っている店もあるのだろうけど、そもそも私はそういう店に行かないし、そういう店の料理が美味いわけもなく、私もいちいち紹介することもない。
だから、わざわざ「大丈夫なんですか?」と聞いてくるのは愚問の極みと思うのだが、日本のマスコミがそういう「自分の頭で考えない」「マスコミの情報を鵜呑みにする」日本人を作っているわけで、世の中的には、そういう人達の方が正しい、常識的な社会人なのである。
こういう人に反論して、「大丈夫ですよ」「中国の食べ物の全てに毒が入っているわけではありません」と当たり前のことを言うのは、なんだか日本の常識に対抗しているような、反社会的な行為をやってるような気分になってくる。
だから、ツイッターではあまり中国の食べ物について書かないようになってしまった。
「見下す口実」を求める人達
ツイッターで7年間、24万ツイートをつぶやいてきて、わかってきたのは、単純に「美味しい」という話よりも、「アイツらはこんな変なものを食ってる」「残酷で野蛮な食習慣がある」「不衛生だ」「汚染されてるから危険」というようなネガティブな情報の方がウケが良い…ということだ。
これは自己防衛のために警戒しているのもあるだろうけど、要するに他国や他民族、異文化を見下す口実が求められているのだろうな…と思われる。
私のツイートやブログでも、奇食や食の安全について取り扱うことはある。それは私の知的好奇心の対象になる範囲で、広く知られている方が公共の利益になると判断される場合である。それでも、部分的にはレイシズムに協力するようなことになるので、食べ物ネタは結構取り扱いが難しかったりするのだ。
肥腸(フェイチャン)について
やっと本題に入るが、そういう諸事情の中で、「肥腸」(フェイチャン)をどのように扱えばいいのか、ちょっと悩んでいた。2年前に食べたもので、とっても美味しかったのだけれど、これをどう紹介すればいいのか、考え込んでしまったのである。
「肥腸」は豚の大腸の別称で、これを使った料理そのものを「肥腸」と呼んだりもする。写真のように、真っ白でプルプルである。
2年前、上海に居た時に友人が「美味しいものがあるから食べに行こうぜ」と誘ってくれた。
5人ぐらいで出かけたのだが、みんながノリノリの状態で、「肥腸(フェイチャン)は非常(フェイチャン)美味いぜw」とか言ってる。「肥腸」と「非常」は中国語で同音である。よっぽどみんなお気に入りらしい。
ある店が特別美味しい肥腸を出すとのことだが、話によると一般の人は利用できない店だとかで、この時は特別に友人のコネで入れてもらえた。
私が食べたこの肥腸の料理は、新鮮な豚の大腸を茹でて、ブツ切りにし、それをニンニク醤油につけて食べる…というただそれだけのものである。
新鮮な豚の大腸は、香りからして違う。嫌なニオイ、臭みが全くしない。食感はプルプルして柔らかく喉越しが滑らかである。肉は厚みがあって、適度な脂が乗っていて、ニンニク醤油がよく合う。さっぱりして、シツコクなく、これだけでビールが何リットルも飲めそうな素晴らしい料理だ。
この店は新鮮な豚の大腸を確保するルートがあり、それで極上の肥腸を提供できるので有名らしいのだ。ほとんど、肥腸専門店と言ってもいい。
この時は5人で狂ったように肥腸を食べまくった。おかわりをたくさん頼み、5人がかりでタラフク食べて、大満足であった。
では、なぜこれを紹介するのに、私が困ってしまうのか。
要するに、この料理は「大丈夫じゃなかった」からだ。
激しい腹痛と下痢
肥腸を食べた翌朝、激しい腹痛を感じて、ずっとトイレに入りっぱなし。何か変なもの食べたっけ?と思うものの、心当たりが全くない。
他の友人たちは全く異常がない。私だけが激しい腹痛と下痢を引き起こしている。
この日はおとなしく家の中で安静にしておいた。
その次の日も腹痛による疲れで、家の外に出たくなかったけれど、何か食べなくてはいけない。体力はある程度回復して、腹痛・下痢も収まっていたので、食欲はある。
冷蔵庫を見ると、肥腸の残りをテイクアウトしたのが入っていた。あんまりたくさん頼みすぎたので、ちょうど半人前ぐらい残っていたのだ。
腐ってはないが、二日前のものなので、食べるには加熱しなければ…と思い、インスタントラーメンに入れてよく煮て食べることにした。
醤油味のインスタントラーメンのダシがよく染みて、肥腸はとても美味しかった。
すると、しばらくしてから、また腹痛が始まり、ヒドイ下痢を起こした。それでまた1日家の中で安静にしておくことになったのだ。どうやら肥腸が原因であるらしい。
「ジエン」とは?
同じものを食べても友人たちは何ともない。私だけは激しい腹痛と下痢になる。翌日安静にしてほとんど何も食べず、翌々日に肥腸入りラーメンを食べてまた腹痛と下痢を起こしたのだから、肥腸が「犯人」と思われる。
飲食関連で働いていた友人に聞くと、「ジエン」のせいではないかと言う。音を聞いただけでは何のことかわからないので、書いてもらうと「碱」という見慣れない字だった。
「碱」は、辞書を引くと、「アルカリ」とか「炭酸ソーダ」という訳が出て来る。
百度百科で「食用碱」を引くと、
食用碱为纯碱(碳酸钠)(化学式Na2CO3)与小苏打(碳酸氢钠)(化学式NaHCO3)的混合物
食用碱は炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウム(重曹)の混合物である
…と書いてある。
友人が言うには、肥腸は白いほどキレイで美味しく見えるので、豚の大腸を洗浄する際に、ジエンを使っているのではないか…とのことである。「でも、どうしてオマエだけ腹痛を起こして、オレたちはなんとも無いのだろうね…」友人は首をかしげた。
白いものを食べない
後日、ある女の子を食事をしていると、彼女はタケノコを避けて食べなかった。普通、中国女子はタケノコが好きなものである。「タケノコが嫌いなんですか?」と聞いてみると、「あのタケノコは白すぎるから食べないの」と言う。
詳しく聞いてみると、中国でタケノコとかモヤシなどは、白いほど高く売れるので、漂白しているものがあるらしく、それらは身体に悪いらしい。
「肌に悪いから食べないの。自然な色のものなら食べるけど…」
…という回答であった。
たぶん、肥腸もなんらかの漂白が行われており、それがジエンによるものなのか、別の漂白剤を使われているのかは不明だけど、友人たちはそういうのに既に慣れているので、腹痛を起こさず、下痢にもならないのではないか。
私はそれらの漂白成分に対して慣れてないので、体調不良を起こすのではないかと思われる。
ツイッターでこういう長い説明が必要なものは、部分的に切り取って誤解されたり、故意に曲解して難癖をつけてくる人がいるので、肥腸の紹介はブログで行うことにした。
白さと美味さは無関係と思われるので、色が少々悪くても、漂白処理を行っていない安全な肥腸があれば美味しく戴けるのではないだろうか。
肥腸には他の調理法もあり、炒めたり、醤油煮込みにしたりするものもあるので、それだと漂白は関係ない。たぶん腹痛とも無縁と思われる。