世の中は米中貿易戦争とファーウェイ問題で大騒ぎになっているが、最近の私は、すっかりフィルム写真にハマってしまって、中国関係のことを書く気はない。
ただ、アレコレと調べている内に…他にこんなことに興味を持つ人がそうそういるとは思えないのだが…たぶんこういうニッチすぎる情報こそ、知りたいと思っている「同志」にとっては重要ではないかと思い、こちらに書き残しておく。例によって私のことだから中国のことも一部含まれる。
▲家の中で大量の白黒フィルムが発見された…というのは既にお伝えした。残っているのはわかっていたけど、まさかこんな大量にあるとは思ってなかった。
それと、度重なる引っ越しで処分したものとばかり思っていた印画紙も大量に出てきたので、使ってやらねばもったいないな…と考え始めたのである。
昔、私が白黒写真の現像を始めた頃によく読んだのがこちらのムック本。日本カメラが発行していたもので、何度も繰り返し愛読していた。
私は中学の部活以来、引き伸ばし機としてラッキーの90M-Sを愛用していたが、もっと小さい引き伸ばし機はないのか…というのが悩みだった。毎度4つ切りを焼くわけでもなく、当時最も多く焼いていたのはキャビネ版だったので、設置や後片付けが楽なように引き伸ばし機も小さなものが欲しかったのだ。
先程のムック本の中に…
▲こんな引き伸ばし機があった。この写真ではわかりにくいがよく見ると、白い「台板」が下の方にある。引き伸ばし機は下部のクランプでテーブルの天板に挟んで、下の「台板」を動かしてフォーカシングする…というものだ。
「こんな引き伸ばし機もあるのか…」という驚きで、この引き伸ばし機のことはずっと覚えていた。ただ、現物を1度も見たことがない。
私は中学で写真を始めて以来、ずっと白黒写真の自家現像をやっていたが、それが突如終わってしまうのは、デジタル化…もあるものの、実は引っ越しが多くなり、香港や中国にまで転々を居を変えたため、引き伸ばし機を持っていくわけにもいかず、それで「長い中断」となったわけである。
写真現像が自分の生活の一部になっていたし、引き伸ばし機が部屋の片隅にあるのが日常の光景だったので、それがなくなってしまうのは寂しかった。
ただ、今になってよく考えてみると、引き伸ばし機が小さくて、カンタンに持ち運びができるようなものだったら、香港に住もうが、中国に引っ越ししようが、ずっと引き伸ばし機を持っていけたわけで、自家現像を中断することもなかった。なぜこんなカンタンなことに気づかなかったのだろうか!と思い、この数日、持ち運び可能な小型引き伸ばし機を探していたのであった。
【目次】
長年憧れた「ダースト Magico」を発見!
▲ダーストのMagicoはすぐ見つかった。しかも安い。イーベイに3つ出品されていたが、2つは日本への発送をしていなかった。昔、ムック本で白黒写真で見た時は、幻の舶来品みたいで、勝手に高級品だとばかり思っていたが、イーベイの写真で見るとかなり安っぽい。そして35ミリフィルムしか使えない。それと、一見小型に見えるが7kgもあって重い。そもそも今の我が家ではこれをクランプで据え付けるシッカリした重いテーブルなんかない。だからとりあえず保留ということで、他のものを探すことにした。
ウルムチで見かけた小型引き伸ばし機
昔、中国でほっつき歩いている時によく写真店へ行った。どこの街に行っても最初に行くのは写真店だった。
ただ、その時に気付いたのだが、当時の中国の写真店というのは、大体どこに行ってもある程度の大きさの店に行くと、引き伸ばし機を置いていた。しかも、何種類もあって、値段も安い。私が記憶しているのは、最小のもので300元ぐらいだった。あれで4つ切りが焼けたのだろうか…というぐらいのサイズである。
新疆のウルムチにある写真店で、その手の小型引き伸ばし機を買って帰るウイグル人を見かけたことがある。店主に「彼は写真愛好家なのか?」と聞くと、「あの人はこれから写真館を始めるのだ」と意外な答えが返ってきた。
「あんなオモチャみたいな白黒の引き伸ばし機で商売になるのですか?」
21世紀に入って間もない頃だが、既に日本ではデジタル化が始まっていた。それが新疆であったとしても、これから白黒の引き伸ばし機を買って商売を始める人がいる…というのはなんともロマンがあるではないかw
「彼は新疆の田舎で証明写真専門の店をやるつもりなんだよ。証明写真は白黒でもいいし、小さい写真で充分だからね。フィルムで撮って白黒の自家現像で証明写真を作るのは初期投資がかからないからいいんだよ」
…とのことであった。今から思うとあの引き伸ばし機は…
▲これにそっくりであった。BOGENというのは、海外ではよく知られた小型引き伸ばし機のメーカーらしい。引き伸ばし機というのは大体似たり寄ったりなので、中国がこれをコピったというわけでもパクったというわけでもないと思うのだがよく似ている。やっぱりパクったのだろうか。
▲BOGENはX35Bという引き伸ばし機を出していて、これってどこかで見たような…と思ったら…
▲ダーストのC35に似ている。OEMだったりするのだろうか?
香港や中国に住んでいた時も、この手の引き伸ばし機を持っていたら、自家現像を中断せずに済んだのに…と今更になって思うが、後悔先に立たずである。
でも、いずれにせよ、この手の「小型引き伸ばし機」は小さいといってもそれなりの大きさがある。もっと小さな引き伸ばし機はないのか?引き伸ばしぐらいちょっと工夫すればもっと小さくてもできるだろうに…と考えたのだ。
「ポータブルエンラージャー」の世界
…と、ここまでイーベイで調べている内に、「ポータブルエンラージャー」というカテゴリーが存在するのに気がついた。「カバンに全てが収まって持ち運びがカンタンな引き伸ばし機」…というのがあるのだ。
KODAK Portable Miniature Enlarger
▲たぶんこちらが最古のものになるのだろうか。1930年代から生産を始めたらしい。今でもイーベイに幾つか出品されているけれど、写真を見る限りかなりの年代物である。カバンに現像に関する一式が収まるようになっている。私が欲しいのはこういうものだが、これは完全に「骨董品」の部類で、いま実際に使用するのはほぼ無理であろう。
lovery WRAY
▲検索したが、イーベイでの情報以外ヒットしなかった。これぐらい簡素化されると嬉しい半面、ちょっと不安である。ただ、引き伸ばし機というのは、ここまで削ぎ落とせるのだ…というのはわかった。
Zenith YNA-5とYNA-725
旧ソ連時代に作られたものでYNA-5は、ポータブルエンラージャー愛好家にとってはかなり有名なものらしい。ググると関連情報がたくさん出てくる。
▲イーベイでもかなりの数が出品されている。ちゃんと動作するものが多く、パーツのみでの販売もみかける。
▲こちらの動画を見るとわかるが、かなり小さい。
この動画をみて思い出したのだが、これは昔、北京でもよく見かけた。ロシアから光学機器を持ち込む行商人が多かったので、その中に紛れていたのだろう。当時私はなぜあんなヘンテコな台板なのか意味がわかってなかった。ボロボロの骨董品みたいなものしかなかったから、これが実用品だとは気づかなかった。
ちなみに、動画には「UPA-5」とあるけど、これは同じZenithの製品でもYNA-5とは若干ことなるらしい。英語が読めないからよくわからないのだが、今度時間をかけて
▲YNA-5の後継機?と思われるYNA-725というのもある。結局、収納カバンを台板に使うのは辞めて、専用の台板を用意したわけだ。こちらもそれなりに数があるようだし、動作もするみたいだ。
これらの小型引き伸ばし機にもっと早く気付いていれば、私の写真生活は充実したものになっていたはずなのに!(´Д⊂グスン
メオプタ Proximus
メオプタはチェコの光学機器メーカー。メオプタの引き伸ばし機は日本にも輸入されていたので、馴染みはあったが、この「Proximus」(プロキシマス?)の存在は知らなかった。
▲なぜか旧ソ連のゼニスの製品よりも飛び抜けて高い。
▲こちらの動画を見る限り、全金属で精密感がある。邦貨にて3万円以上のお値段もなるほど…とナットク。
イーベイとYOUTUBEによる検索で、ここまではゾロゾロと芋づる式に引っ張り出せた。でも、ここまで出たところで、「なぜ日本製はないのだろうか?」という疑問が湧いてきた。小型の精密光学機器って、どう考えても日本が得意そうだし、住環境的にも小さな引き伸ばし機の需要はありそうだが…
ラッキー ATTACHE 35
そこで、目先を変えて日本製を探した時に見つかったのがこちら。
【中古引伸機】ラッキー ATTACHE 35(AB+ランク) 4200円 アルミトランクに納まる小型の引伸機です。トランクに支柱を取り付け、台板として使用します。けっこう珍しいです。 http://t.co/vv3phpZu
— フジヤカメラ店 用品 (@fujiyacamera_yh) November 16, 2011
フジヤカメラに4200円で出てる!もう8年前のことですがw
▲こちらでは2018年(つまり去年だ)の記事で、3000円でヤフオクで落札した…とある。
数も多くないし、珍品かも知れないが、日本で中古が市場に出てくる時は叩き売り状態の値付けなのである。
もっと人気が出ても良さそうだが、日本ではそもそも自家現像ってあまり人気のないジャンルだったのかも知れない。
日本で普及しなかった理由
なぜ日本でポータブルエンラージャー(カバンに収納できるタイプ)が流行らなかったのか…というのを考えるに、日本でよく普及していたフジのB型なんかがそもそもかなりの小型だったため、更に小型の引き伸ばし機が必要とされてなかったのでは…と思われる。それと、どうせ引き伸ばし機を入手するなら本格的なもの、ブローニーフィルムも扱えるもの…となって、ポータブルエンラージャーには出番が回ってこなかったのだろう。
そして、現在でも中古の引き伸ばし機が大量に出回っているので、わざわざ海外からポータブルエンラージャーを個人輸入しようという物好きも少なかったのではなかろうか。
私は今後も引っ越しや移動が多そうな人生なので、YNA-5ぐらい1つ持っててもいいのかな…と思ったりするのだが、今後フィルムが供給され続けたとしても、印画紙の供給がどうなるかわからず、結局はフィルムスキャナー1つ持っていた方が便利な気もするが、やっぱり紙焼きの写真の良さも捨てきれず、どうしたものかと逡巡としている。
とりあえず、フィルムの自家現像を順調にこなせるようになってから、この引き伸ばし機問題は改めて考え直したい。本稿が他の同様の悩みを持つ人の助けになれば幸いである。