【注】この記事の執筆直後、AFPさんが記事を訂正したため、話のつながりが悪くなったので、一時は非公開にしましたが、いまだに「ダムが爆破された」と思っている人が多いため、再公開いたします。先にオチを書きますが、爆破したと報道されている場所には、そもそもダムは存在しません。
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表題の件、ツイッターでもチラホラと見かけていたが、どうせ何かの間違いを、誰かが大げさに焚き付けているのだろう…と思っていたら
ついにAFPも取り上げました。
ただ、よく読んでみると、記事がおかしかったので、ちょっと調べてみたら、誤訳なのが判明しました。
【目次】
AFPの記事の何がおかしいの?
通常、「ダム」には名前がありますよね?
「三峡ダム」とか、「黒部ダム」とか。
AFPの記事にはダムの名前が記載されていないのです。
そして、写真10枚も掲載しているのに、爆破されたダムの写真もない。そもそも、爆破されたダムは安徽省だけど、掲載されている写真は江蘇省のもので、隣接した省だけど、爆破現場とは全然別の場所です。
なんだか怪しいなぁ…と思い、中国の報道を調べてみることにしました。
検索しても出てこない…
中国語でダムは「大坝」と書きます。
だから、「爆炸 大坝」(爆破 ダム)で検索すると…
▲爆破したのは7月19日ですが、百度検索では、それらしきものが見当たりません。
▲微博検索でも出てきません。
「大堤」はダムではない
検索ワードに問題があるのかな?と思い、いろいろ変えて試してみたら…出てきました!
▲「安徽 爆炸」で百度検索したら出てきました。ただ…何か変だな。「大坝」(ダム)が出てこない。「水坝」(これもダムを意味する)も出てこない。「大堤」としか書いてない。
▲検索上位2つのニュースを見ると、写真を多用して状況説明してるけど、「三峡ダム」とか「黒部ダム」みたいな、いわゆるコンクリの大きな壁みたいなので河をせき止める「ダム」は出てきません。
▲【看世界】安徽滁河爆破泄洪_腾讯新闻 より。これが爆破された箇所の写真みたいですが、これって「ダム」じゃなくて、「堤防」ですよね。河の流れをせき止める「ダム」じゃなくて、河の横で水を遮ってる土手です。
▲こちらのキャプションを見ると、「被爆破开的滁河大堤缺口」(爆破で開かれた滁河大堤の決壊したところ)とあります。これはいわゆる「ダム」じゃないです。
理由を探ってみました
AFPがソースにした「地元メディア」がどれかわからず、その後に出てくる環球時報の記事も、どれのことかわからなかったのですが
▲こんな記事を見つけました。
「爆破堤坝」とありますよね。「堤坝」は水を遮る構造物の総称です。ただ、この言葉を「ダム」と訳することがあるのです。たぶんAFPは、「堤坝」と書いている中国語のニュースを見つけて、それを「ダム」と訳して記事を書いてしまった…現場の写真は見てない(入手してない?)ので、代わりに江蘇省鎮江の写真をつけた…ものと思われます。
爆破された場所を確認する
▲こちらの記事の冒頭を見ると…
荒草二圩、荒草三圩作为安徽列入国家名册的蓄滞洪区,位于安徽省滁州市全椒县武岗镇滁河干流与襄河交汇处。
堤防を爆破して水が引き入れられた「蓄滞洪区」(洪水を溜めておく場所)は、安徽省滁州市全椒県の武岗鎮滁河と襄河が交差するところ…とありますので、地図で確認してみました。
▲たぶんここですね。滁河に対し、襄河が垂直に交差。
▲この周辺は田畑が広がっているけど、滁河と襄河が交差する地点の南東側は、未開墾の状態で、大きな溜池みたいなのが2つあります。蓄滞洪区の「荒草二圩」、「荒草三圩」の正確な位置は、ネット上でわからなかったのですが、たぶんここに水を逃がしたのではないか。
▲グーグルマップの直リンクも貼っておきます。
ようするに、2つの河が垂直に交わっているため、大雨で大量の雨水が流入すると、氾濫しやすく、周囲の田畑や家屋が浸水するために、河が交わるところに、水を引き込むための場所を確保している…ということのようです。
▲ちなみに、この蓄滞洪区は、1991年、2003年、2008年、2015年の4回使われたことがあり、今回が初めてというわけではないそうです。
▲蛇足ながら、今回堤防を爆破した場所と三峡ダムの場所も示しておきます。滁河と襄河が交差する地点(Hekou)は、三峡ダムのはるか下流域で、どちらかといえば、上海に近い場所になります。