黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

『潜入中国』はどういう本なのか?

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「読書の秋」である。やはり「黒色中国」としては、ガッツリと中国に関する本を読んでみたい…と思い、選んだのは…

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▲最近ツイッターで何かと話題の新刊『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』。著者は峯村健司氏である。

【目次】

中国で二十数回拘束・尋問された記者のレポート

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▲峯村氏もツイッターをやっていて、大変骨太というのか、シッカリとしたツイートを書かれている。中国を専門に毎日ニュースを読んでいる私としても、必見のツイートとして、リストに入れて毎日読んでいる。

その彼の新刊でもあるし、『潜入中国』は発売前からずっと気になっていたけど、帯を見るに非常に「濃厚」そうな感じだ。

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▲私も中国をブラブラしている内に、拘束され、尋問を受けたことが何度かある。だから、峯村さんの話もぜひ読んでみたいと思ったのだった。

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▲ところで、峯村氏は一体どういう人なのか。

プロフを見ると、朝日新聞国際報道部記者とある。中国総局員⇒ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員⇒アメリカ総局員…とすごい経歴がつづく。『十三億分の一の男』と『宿命 習近平闘争秘史』は読んでみたいと思いながらも手を出さなかった。その前に、峯村氏本人のことがわかるような本を読みたいと思っていたのだ。本書はちょうどそういう内容のはずであろう…というのが購入に至ったキッカケだ。

ここまでを読んで、「なんだ朝日の記者じゃないか」と思われる人もいるだろう。ツイッターでも、本書発売後にそういう言いがかりを峯村氏につけている人を見た。朝日新聞を中共の機関紙と勘違いしている人もいるようだが、私の知る限りでも、朝日の記者だからといってカンタンに中国からビザを発行してもらえたり、取材に全面協力が得られるわけでもない。峯村氏が二十数回拘束され、長時間の尋問を受けた…ということから考えても、特に優遇はない…というのがわかる。そもそも、中国で朝日新聞の名前を聞いたことはあっても、読んだことのある中国人は少ないだろう。

そして、朝日記者への「優遇」があったとしても、二十数回も拘束されたというのは、峯村氏が全く優遇を受けられないヤバいところへ踏み込んだ…ということではないか。そこまで中国で体を張っている人がいるのなら、私としては読まずにはいられない。

目次を読む

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本を読もうとする時に、目次をちゃんと読まずに、ホイホイと読み始める人がいる。それも1つの読み方だろうが、私は読書を山登りみたいなものだと思っている。山がどれぐらいの高さで、どんな峠があって、頂上まで登って降りてくるまでにどれぐらい時間がかかるのか、全く調べもせずに山に登る人は少ないだろう。

山に登って死ぬ人はいても、本を読んで命を落とす人はいない。だから、とりあえずホイホイ読み始めるのだろうが、私の場合は高山に登るつもりでまずは目次をしっかり読む。目次は本の地図である。どこが難所で、どこがお楽しみで、どこが休憩できる場所なのか、目次をちゃんと読めばわかる。それがわからない目次を書く筆者なら、その本を読む値打ちはあまりない…だから、私はキッチリと目次を読む。

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▲私が最初に気になったのは、「現場から見た急速な近代化の足元」という一文だ。これは、私が中国に居た時に常々感じていたのと全く同じだ。

21世紀に入って間もない頃から北京五輪、上海万博に至るまでの間、日本では中国の発展を手放しで礼賛するような話が多かったけど、私としてはずっと危うさを感じていた。それを正直に、礼賛する日本人へ告白すると、「あなたは中国が嫌いなのか」と言われた。私が中国嫌いになったのは、半分ぐらいは、そういう日本人のせいだ。

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▲第一章で軍事について触れ、第二章でサイバー空間の話になる。

あまり日本では認知されていないが、中国は、陸・海・空・宇宙に続く、第5の国家主権が及ぶ空間として、サイバー空間…つまり「ネット」をあげている。

日本では、中国のネット監視が酷い…という話がたびたび出てくるけど、ネットは国家主権の及ぶ空間として管理する義務と責任があると考えるのが中共であるから、そもそもの発想が日本とは違う。

なんとなく「言論の自由」を掲げて実質は放置された無法地帯…なのが日本のネットだけど、中国では前のめりで政治がネットに介入してくるのだ。そういう事情を知らずに、少見多怪で雑な中国ネット事情を書く人が少なくないけど、こちらの本ではそうではなさそうだ。

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▲そして第三章は「宇宙開発への野望」とくる。もし私が本を書くことになったら、たぶん何の脈絡もなく、第三章に入る前に料理か中華スイーツの話になってしまうはずだw。

第四章は世界最大規模のスパイ活動、第五章は海軍大国への胎動…と続く。まるで前菜もサラダもなく、メインディッシュばかり出てくるコース料理みたいな内容である。

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▲第五章第2節で、無人偵察機が出てくる。これは私もずっと気になっていた分野なのでちょうど良かった。

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▲第六章で北朝鮮の話になるが、第四節まであるのはこの章だけだ。私は北朝鮮について詳しくないのだが、本書は読み進めてクライマックスあたる部分で北朝鮮の話になってしまうし、ここが長いわけだ。こうやって目次を頼りにどんな「山」なのか概要を掴んでおくと、読み進めやすくなる。

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▲そして第七章はまた軍の話に戻るけど、今度は「兵器」ではなく「組織」の話になる。

ツイッターで中国軍の話になると、戦前の「共匪」の印象で語られたり、何かとわけもなく暴走するとか、凶暴であるとか、そういう印象ばかりが先行した話になりやすいのだが、中国軍がどういう仕組で動いているのか、実態としてはどういう組織なのか、以前から知りたいと思っていた。そんなのは大著を数冊読まなきゃわからないだろうが、本書の第七章はそのための良き「取っ掛かり」になることを期待する。

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▲そして終章。「最後の中国特派員になるかもしれない 縦横無尽に取材のできた時代」とある。

前世紀は無論のこと、今世紀に入ってもしばらく、中国は「何でもあり」な状況で、とりあえず行けばなんとかなる、適当にどうにかなる…というのがあったけど、最近はそういうのが無理になってきた…至るところ監視カメラが設置され、コンピューターで管理されているからだ。まだ目次を読んだだけだが、本文を読む前から筆者には共感した。

これは…サラッと読み流せるような軽い本ではなかろう。久しぶりに本気を出して精読せねば…と覚悟した。後日、感想文も書こうと思う。

潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日 (朝日新書)

潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日 (朝日新書)