黒色中国BLOG

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「香港国家安全維持法」のナニが危険かを解読する

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6月30日に可決・施行された「香港国家安全維持法」。すでにネットでもマスメディアでも大騒ぎになってますが、実際どういう法律なのか、自分の目で確かめてみたい…でも、原文読むのは大変だしな…と思ってました。すると…

▲ニュースソクラさんが日本語に翻訳したものがヤフーニュースに掲載されておりましたので、こちらを読んで内容を理解しようと思いました。

ただ、日本語訳だけに頼りっぱなしなのも危なっかしいので、

▲中国語の原文も参照することにしました。

私は法律の専門家ではないので、全文一字一句を完全に理解して、その危険性を世に訴える…というのは出来ません。

ただ、目を通すことで、全体像を把握して、世の中で騒がれている「危険性」が、どの条文にあたるのか、実際はどうなのかを検証します。

最初に断っておくと、「結局中共が恣意的に判断して何でもアリにするんじゃない?」というのは、私も同じことを思っているので、そのツッコミはなしですw。

そうであっても、とりあえず訳文と原文を読んで、「お!話題のヤバい箇所はここか」「でもこれって他にもいろいろ書いてるよね」というのを一通りやって初めて批判もできると思うのですね。

では、始めます。

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【目次】

ザックリ分けて、「55条案件か、それ以外か」

全66条の香港国家安全維持法、それを全部読んでその意味を理解するのは大変ですよね。

ただ、とりあえず目を通して理解してみたところ、55条が重要なのがわかりました。

第55条 次のいずれかの状況において、香港特別行政区政府或いは駐香港特別行政区国家安全保障局は、中央人民政府に承認を求めて提出することとする 駐香港特別行政区国家安全保障局は、本法律に基づき国家を危険にさらす罪について管轄権を行使することができる。
1)外国または域外勢力の介入を含む複雑な状況が含まれ、香港特別行政区の管轄に困難をきたす場合。
2)香港特別行政区政府が本法律を効果的に実施できない深刻な状況
3)国家の安全が重大な脅威に直面している状況。

ようするに、

  • 外国か域外勢力が関わる面倒な事案
  • 香港政府には扱いきれない状況
  • 香港だけの問題じゃなく、中国の国家規模の一大事

こういう大きな問題が発生した時は、中央(北京)に報告して、「香港政府マター」から、「中央政府マター」になりますよ。ということです。

この法律を読むのは面倒くさい上に、55条云々と書かれた箇所が多いのですが、整理すると、

  • 国家安全を脅かす重大すぎる違反は中央管轄
  • それ以外は香港政府が管轄

…となってます。

そして、55条案件になるかならないかで、扱いが大きく変わってしまうのですね。

  • 55条案件の捜査は、中央の捜査機関である国家安全保障局が管轄(第56条)
  • 55条案件に関しては、中国の検察が法的機関を指定、中国の裁判所が、司法権を行使するために関連する裁判所を指定(第56条)
  • 55条案件は、中国の刑事訴訟法の関連法に準拠(第57条)
  • 55条案件でも、容疑者は弁護士を委任する権利がある。ただし、これが香港の弁護士か大陸の弁護士かは書いてません(第58条)

そして、取り調べとか裁判が大陸に移ってしまうため、「国家安全維持法に違反したら大陸に移送される!」という話になってるみたいですね。ただ、それはあくまでも55条案件のみです。

「非公開裁判、陪審なし」にも条件あり

話題になった非公開裁判は、第41条で規定されています。

該当箇所を引用すると…

裁判は公の場で行われるべきである。国家機密、公序良俗などを鑑み、公聴会に適さない場合、報道関係者および公衆は公聴会の全部ま たは一部の公聴をを禁じられるが、判決の結果は公表される。

つまり、

  • 裁判は公開でやるのが前提だが
  • 国家機密とか公序良俗などで支障がある時は、非公開
  • 秘密でも判決は公表します。

…となってます。

「陪審なし」の詳細は第46条に書いてますが、長いので全文引用しません。ポイントだけ書き出すと…

  • 国家秘密の保護、事件における外国関連の要因、または陪審員とその家族の個人の安全の保護などの理由があって
  • 司法長官が証明書を発行する場合においてのみ
  • 高等裁判所の第一審裁判所は陪審なしで審理を行い、3人の裁判官が審判裁判所を形成する

つまり、国家秘密や外国絡みの面倒な件とか、この裁判に関わることで、陪審員やその家族がヤバい状況におかれるようなケースだったら、司法長官がその証明を出して、陪審員なしでやりますね…ということです。

具体的にそれってどういう状況なんだろう?と思いますけど、国家安全に関わる法律ですから、「万に一つ」の状況も考慮してますよ…ということなのかな。

「香港以外にいる外国人も対象に」…ってホントなの?

ネットやマスメディアで最も話題になったのはこれでしょう。

香港以外の外国にいる人でも、香港人じゃない外国人でも、もちろん日本人でも、国家安全維持法に違反すれば逮捕される!(かも)という話がありましたけど、それに該当する条文を探してみると…

第38条 香港特別行政区に永住権を有しておらず、香港特別行政区外の者が香港特別行政区に対して罪を犯した者も本法律に基づいて処罰される。

ここちょっと訳がわかりにくいので(ニュースソクラさんごめんなさい)、原文引っ張ってきます。

第三十八条 不具有香港特别行政区永久性居民身份的人在香港特别行政区以外针对香港特别行政区实施本法规定的犯罪的,适用本法。

ここをわかりやすく意訳すると、

香港の永久性居民としての身分を持たない人が、香港以外の場所で、香港に狙いをつけて、本法律の規定する犯罪を実施した場合、この法律が適用される

となります。

「在香港特别行政区以外」で、「在~以外」だから「香港以外の場所で」です。

なぜこんなツッコミ待ちみたいな条文があるのか?w

実際、全世界からツッコまれてますね。

この件は、私の方にも何度かツイッターで質問があって、回答してきました。今後も同じ質問が寄せられるのが予想されるので、こちらにも書いておきますね。

外国籍を持つ香港人は普通にいる

林鄭月娥行政長官は英国籍です。林鄭月娥の旦那もそうだったはず。彼女以外にも英国籍を持つ政府のVIPはたくさんいます。公職についている人でもそうなのだから、民主派の中にも外国籍を持つ人は当然のようにいます。

そして、去年の香港デモの時に、こんなことがありました…

▲歌手のデニス・ホーさんが、スイスのジュネーブで開かれた国連の人権理事会で、「中国を除名すべき!」と訴えたのです。

このデニス・ホーさん、カナダ国籍を取得しています。

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▲このように、香港人だけど、外国籍を持ち、外国で香港デモに加担する(中共目線で言えば、国家安全を脅かす)ことは可能なわけで、中共が国家安全維持法を制定して、香港人の民主化活動を妨害しようとすれば、外国籍でも、海外での活動でも、その対象にしないと意味のない「ザル法」になってしまうのですね。

国家安全維持法の制定で、海外に逃亡している香港人は既にいるので、彼らが外国で国籍を取得したり、海外で香港民主化活動を展開することは充分ありえる。

だから国家安全維持法には、我々日本人から見ると、ツッコミたくなるような奇っ怪な条文が入っているものと思われます。

それと、本来は香港と全然無関係の、まるっきりの外国人でも香港の民主化活動に参加するケースは珍しくありませんしね。

だから、日本人でも一応対象にはなる、今後捕まる日本人もいるかも知れない。その可能性は否定しません。

ただ、どんなことをすれば逮捕されるのか?

それを、国家安全維持法の中で探してみようと思います。

何をしたらヤバいのか?その答えは第3章にある

国家安全維持法の中で、何をしたらアウトなのかは、「第3章 犯罪と罰則」で定義されてます。

第3章は6節で構成されており

  • 第1節 国家分裂罪(第20条~21条)
  • 第2節 国家権力転覆罪(第22条~23条)
  • 第3節 テロ罪(第24条~28条)
  • 第4節 国家安全保障を脅かす外国または域外勢力との共謀罪(第29条)
  • 第5節 その他の罰則規定
  • 第6節 効力範囲

…となってますから、実際には1節~4節の4カテゴリーの犯罪が対象ということです。

でも、1節から3節は、中身を確認するまでもなく、「国家分裂」、「国家権力転覆」、「テロ」です。

テロは説明の必要もなくアウトでしょう。実行するのも手伝うのもアウトです。

国家分裂には台湾やチベット、ウイグル、南モンゴルの独立も含まれますね。「打倒中共!」は、国家権力転覆にあたるでしょう。これら2つのカテゴリーは「扇動、支援、教唆、金銭で他人を支援」でもアウトです。

「煽り禁止」の第29条第5項が最も気になる

我々カタギの日本人にとって気になるのは、第4節の国家安全保障を脅かす外国または域外勢力との共謀罪(第29条)ではないでしょうか。ようするにスパイとか謀略活動系の規定です。この部分が長いのですが、更にそこから5項目の「こういうことやったらアウトですよ」という定義がありまして、要訳すると…

1)戦争の発動、武力の行使・威嚇

2)香港と中国の法律および政策への妨害

3)香港で行われる選挙の妨害

4)香港と中国に対する制裁、封鎖、敵対行動

▲大体、ほとんどの人に関係なさそうですね。これらのことに関わって、「いやー…まさかこれが違法とは知りませんでした」という人はいないはず。

ただ、最後の項目にこんなのがあるのですね。

5)様々な違法な方法により、香港特別行政区の居住者は中央人民政府または香港特別行政区政府へ憎悪を喚起し、深刻な結果を引き起こす可能性があること。 

▲こちらのニュースソクラさんの訳から引用ですけど、ちょっとわかりにくい。原文は、

(五)通过各种非法方式引发香港特别行政区居民对中央人民政府或者香港特别行政区政府的憎恨并可能造成严重后果。

つまり、

  • 各種の違法な方法を通じて
  • 香港居民の中央政府や香港政府への憎悪を引き起こし
  • 重大な結果をもたらすこと

ようするに、「香港人を煽るの禁止」ってことですよね。

たとえば、ツイッターで香港政府を批判したり、林鄭月娥行政長官の悪口を書いたり、中国政府を誹謗中傷して、その結果、香港人の憎悪を煽ってしまった。それが抗議活動の火種となったり、火に油を注ぐことになって、多大な破壊や死傷者の出る事態になってしまった…

そういう時に、この第29条第5項で、我々日本人も、日本やその他の外国に居ながらにして、「国家安全維持法違反」になるのかも知れません。

でも、ツイッターは「違法な手段」に該当するのか?という疑問がありますけどね。

冒頭で申し上げた通り、全ては中共の恣意的な解釈でどうにでもなってしまうだろうから、真面目に悩むだけ無駄なんですけど。

私としては、今までと変わりなく、同じように「黒色中国」を続けるつもりです(^^)