黒色中国BLOG

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ナイキ・ギャング

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ナイキのCMに関しては、このツイートから始まる連投で書き尽くした。

既に1週間以上が経過して、お叱りの声をたくさんいただいたが、特に考えに変更はない。

▲ツイートに引用していた動画が消えていたので、改めてこちらに貼っておく。

ツイッターでの炎上から間をおいて、今回の騒動に関して、読み応えのある記事がいくつか出てきた。一応、それらの全てに目を通しているが…

▲その中の1つ、渡辺由佳里さんがニューズウィークに寄稿した記事で、私も思い当たることが1つあったので、こちらに書いておこうと思う。

【目次】

「トレンチコート・マフィアはいないが、ナイキ・ギャングならいた」

今世紀に入って間もない頃、知人つながりで米国の高校に留学していた若者と知り合った。

当時、コロンバイン高校銃乱射事件がまだ記憶に新しく、マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画が公開された直後ぐらいだったか。

若者に、「銃乱射事件みたいなことはあったの?高校に銃を持ってくる人はいた?」と聞いてみたら、「ない」とのことだった。

「でも、ヤバい人たちとかいないの?」

「いる」

「トレンチコート・マフィアみたいなのは?」

(注)「トレンチコート・マフィア」とは、コロンバイン高校にかつて存在した生徒たちの自警団的なグループのこと。メンバーは黒いトレンチコートを着用し、銃乱射事件を起こした犯人もメンバーであったらしい。詳しくは上掲のウィキペディアを御覧いただきたい。

「いないw。でも、ナイキ・ギャングはいたよ」

「ナイキ・ギャングって何?」

「ナイキの服とかスニーカーを履いてて、仲間以外の生徒がナイキを身に着けていたら、脅しに来るの。学校で、ナイキ・ギャング以外は、ナイキを使ったらダメ」

「脅されたことはあったの?」

「ボクはナイキの服もスニーカーも持ってなかったから大丈夫だけど、ナイキ・ギャングの話を聞いて気をつけるようになった」

当時、私の中で、ナイキといえば、「Just Do It」のポジティブで健全なスポーツウェアの会社…という印象しかなく、「ギャング」とは全く結びつかなかったため、不思議な印象として記憶に残った。

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ナイキは「ギャングが好んで履く靴」?

私が若者から聞いた「ナイキ・ギャング」の話は、彼がたまたま留学していた高校だけの特殊事情だったのか?それ以後、「ナイキ・ギャング」について聞いたこともないし、私は英語が出来ないし、日本語でググってもそれらしき情報はない。

ただ、こんなニュースをみつけた。

・3か国で約650万人いる15~24歳の若者は、毎日慎重に服装を選ばなければならない。ギャングの構成員らから、敵組織の標的や侵入者と勘違いされないよう、また警察からは、犯罪容疑をかけられないようにするためだ。

・街頭を歩いていた18歳の男性は「狂ってるよ。ギャングスタイルの一部だからって、このブランドやあのブランドのスニーカーは履けないなんて」と不満を漏らした。

・ギャングが好んで履く靴といえば、米スポーツ用品メーカー「ナイキ(Nike)」のスニーカーの中でも特に人気のある「コルテッツ(Cortez)」モデルや、独メーカー「アディダス(Adidas)」の「スーパースター(Superstar)」ライン、同「プーマ(Puma)」など。

こちらは中米での話だが、海外には特定のスポーツ用品メーカーの製品が、「ギャング御用達」になっているようだ。

米極右団体メンバーのシンボルになったフレッド・ペリーのポロシャツ

▲ナイキではないが、最近こんなこともあった。米国の極右団体「プラウドボーイズ」のメンバーが、フレッド・ペリーの黒地に黄色のラインをあしらったロゴ入りポロシャツを好んで着用したため、販売を停止し、「グループとの関係が終了したと納得するまで」、北米市場での販売を再開しないとの声明を発表するに至った。

▲同時期にこういうことも頻繁にあった。

ようするに、反社会的な団体や、特定の政治傾向を持つ集団や著名人と、既存の有名ブランドのイメージが結び付けられるのを避けるために、製品の販売を停止したり、企業やアーティストが声明を出すようになっているのである。

企業側から仕掛ける「不売運動」

私が「ナイキ・ギャング」について聞いたのは、今から17年前のことで、話をしてくれた若者はその前の年に留学していたので、そこから考えると20年近く前から米国に「ナイキ・ギャング」的な現象があったのだろうし、中米のギャングの件を見ても、それは現在進行系で他の国にも存在するのだろう。

フレッド・ペリーのように、特定の配色の製品だけが問題になっているのなら、一部の製品だけの販売停止で済むのだろうが、ナイキ・ギャングの場合は、ナイキの全製品が対象になっているので、販売停止で対抗するわけにもいかない。

ナイキは、こういう状況が長く続いているため、フレッド・ペリーのように「受け身」での対応ではなくて、「先制攻撃」で、「ナイキ製品を買ってほしくない人たち」へのアピールを仕掛けたのが今回のCMの意図ではないか…と思ったのである。

実際のところ、今回のCMが騒動になってから、不買を宣言する人たちがツイッターにたくさん出てきたけど、彼らの日常的な発言やプロフの内容から考えて、本来ナイキの製品を使っていたとも思えないし、ナイキの方でも、彼らに愛用してもらっては迷惑な気がするような人たちが少なくなかった。

先にあげた中米の記事を見ると、着用している服や靴で「ギャング」とみなして、警察が拘束・尋問を行うこともあるので、そこまでネガティブイメージが社会に定着してから、企業が健全なイメージを取り戻すのは難しいのだろう。

ブランドイメージを乗っ取られないための防御策

私も長年、ツイッターをやっているので「覚え」があるのだが、、フォロワーに特定の極端な人たちが増えすぎて、その界隈からのRTが増えてしまうと、「黒色中国」のイメージがネガティブになってしまうことがある。だから時折、そういう人たちの「期待」を裏切るような発言をして、わざとその種のフォロワーを減らすようにしている。たとえば、今回のこの記事や、その発端となった冒頭のツイートがそれにあたる。

企業でも、メディアでも、私のような零細な個人のやってるツイッターアカウントでも、不偏不党で、万人に開かれた姿勢が望ましいのだろうが、そういう方針でやっても集まってくる人たちが、「不偏不党で万人に開かれた善良な人たち」とは限らない。彼らからブランド・イメージを乗っ取っとられないようにするためには、たとえ損をしたとしても、先手を取って明確な「No」を突きつけ、能動的に「客」を選別する必要がある。「誰でもいいから、より多くの人に買ってもらう」よりも、「特定の人に買ってもらわない、ブランドを使わせない」ことが、今の時代には重要になっているのであろう。