黒色中国BLOG

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【「中国でVPNを使ったら行政処罰」の真相を探る】(3)ツィッターを使うことも違法?

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 ▲今回のブログ記事シリーズは、こちらのツイートから始まりましたが、戴いたリプライの中に「ツイッターを使うことも違法」というのがありました。

先に断っておくと、ツイッターを使うことそのものは、現在中国において「違法」とする根拠はありません。

ただ、そのリプライで戴いた「画像」についての考察を、ここで皆さんと共有するのは有意義と考えられるので、今回の「真相を探る」の第3回として取り上げようと思います。

【目次】

厦門市公安局湖里分局発行の「行政処罰決定書」

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▲(クリックで拡大)こちらがリプライに添付されていた画像。以下要約すると…

  • 「違反行為人」の潘細佃さんは漢族の男性で、1971年1月23日生まれ。
  • 戸籍は福建省南安市で、現住所が福建省厦門市湖里区金尚路。
  • 2017年12月4日から2018年9月8日までの間、潘細佃は複数回にわたって、自分のケータイでVPNアプリ(翻墙软件)を利用しツイッターにログインし(アカウント名 @congweiyonghu)、十数個の内容不実のツイート、デマの散布で社会秩序を厳重に騒乱した。
  • 中華人民共和国治安管理処罰法第26条の規定に基づき潘細佃を行政勾留15日間と決定する。

これを見る限り、潘細細さんはVPNアプリやツイッターの使用ではなくて、ツイッターに投稿した内容で「治安管理処罰法」に引っかかって行政処罰を受けています。

@congweiyonghu…潘細佃さんとは何者か?

行政処罰決定書には、わざわざユーザーIDも書かれていたので、

https://twitter.com/congweiyonghu

▲こちらのURLで開いてみましたが、既にアカウントは削除済みでした。

でも、

▲ツイッターで検索してみると、「congweiyonghu」のユーザーIDを含むツイートがたくさんありまして、潘細佃さんのツイートはアカウント削除と共に失われているわけですが、関連する他の皆さんのツイートが今でも見られます。

そして…

ありました。アカウントを新規に作ったようです。ただし鍵垢で更新もあまりないようです。プロフには

旧号congweiyonghu被匪帮攻击

旧アカウントcongweiyonghuは匪帮に攻撃されました

と書かれています。反中共の人や台湾人は「中共」のことを「共匪」(ゴンフェイ)と呼んだりするので(ちょっと年配者の言い方ではありますが)、「匪帮」(フェイバン)はたぶん「共匪の帮」のことで、「中共」または「中国政府」を意味するのではないかと思います。

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▲プロフから写真を借りてきましたが、「声援吴淦」と書かれた紙を持っています。

▲「吴」とは「呉」の簡体字。呉淦さんは福建省の人権活動家になります。

▲呉淦さんのことは、福島香織さんの記事にありました。

2015年5月2日に、黒竜江省の慶安鉄道駅待合室で、陳情(地元政府の横暴を改善してもらうために上級政府に訴えること)のために列車に乗ろうとした男性(45)が、警官に乗車を妨害されたため、その警官の銃を奪ったので、警官に射殺された事件である。

男性が、単なる「狼藉者」として、警官の発砲を正当化されそうになったところ、人権活動家の呉淦らが人権問題として再調査を訴え、人権弁護士らも調査に乗り出し、陳情者の人権問題としての関心を集めて世論も喚起された。だが公安警察は翟岩民らを「各地の陳情者に報酬を出して抗議活動を組織した」として社会秩序擾乱(じょうらん)罪で逮捕していた。

潘細佃さんが、ツイッターでどのような内容のツイートをして、中国当局から行政処罰を受けることになったのかは不明ですが、呉淦さんの支援をしているところから考えて、中国の人権活動に関わっていた可能性が高いようです。

中国国外にも拡大してきた「清網行動」…そして「網安」とは?

本稿は「日本人が中国でツイッターを使うのはヤバくないの?」というのが主題ですけど、話が人権活動にまで及んでしまいました。かなり遠回りになってますけど、ここから我々とも関係のある話になってきますので、もうちょっとガマンして読んでください。

▲潘細佃さんについて調べている内に、この記事が引っかかりましたが、ここに書かれている事情が、今回の「真相を探る」シリーズの全ての大元ではないかと思われます。

以下、要訳しますと…

  • 2018年11月16日、本サイトの知るところによれば、最近、中国当局はツイッターの清網行動を開始し、各地で大量の人権活動家が事情聴取を受け、重慶の劉継春が逮捕、厦門の潘細佃が勾留された。
  • 大陸の多くの人権活動家が最近表明したところによれば、近年微博(ウェイボー)・微信(ウィーチャット)で大規模の人権活動家アカウントを封禁した後、公安部門は海外SNSへと触手を伸ばし始めた
  • 近日、北京、重慶、山東、湖北、福建、広東などの公安部門は「取り調べ」でツイッターアカウントを持つ人権活動家を恐喝し、「取り調べ」の過程でこれらの活動家にツイッターアカウントの削除あるいはツイートの削除を要求した。
  • 最近ツイート内容の削除を強制されたのは2015年入獄した人権活動家呉淦のアカウントも含まれ、全てのツイートが2018年11月9日に削除された。
  • 当局の要求を拒絶した人権活動家の中で、重慶の劉継春は逮捕され、厦門の潘細佃は公安局に勾留された。
  • 清網行動の対象となった人数は今も増え続けている。
  • 消息筋によれば、今回の国外メディアの大規模清網行動と中共公安部門高層の人事変動には関係がある。
  • 近日、習近平の腹心である元厦門市公安局長の林鋭が公安部の主管する網安(網絡安全保衛局)の副部長に抜擢された。

▲網絡安全保衛局についてはこちらを御覧ください。

▲習近平の腹心であり、元・厦門市公安局長、現・網安副部長の林鋭のプロフはこちら。関係箇所だけを下記にコピペしておきます。

  • 2015年05月,福建省厦门市人民政府副市长、市公安局局长;
  • 2018年06月,公安部党委委员、部长助理,兼网络安全保卫局党委书记、局长;
  • 2018年11月,公安部党委委员、副部长兼网络安全保卫局党委书记、局长。 副总警监警衔。

ちょっとここで情報の整理

かなり面倒な話になってきました。ここに来て流れがつかめなくなってきた人もいると思うので、情報を時系列で整理致しますと…

  • 2015年7月、中国全土で人権派弁護士や人権活動家約300名以上が拘束される。
  • それ以後、中国国内のSNSで人権弁護士や人権活動家のアカウントが当局により「封禁」された。
  • 2018年6月、習近平の腹心である林鋭が厦門市から中央入りして網安部長助理に抜擢。
  • 2018年8月、この「真相を探る」シリーズ第2回で出てきた広東省韶関市の朱雲楓さんに対し公安の捜査が始まる。
  • 2018年11月、林鋭が網安副部長に昇任。「清網行動」開始?
  • 2018年11月9日、人権活動家の呉淦さんのツイッターアカウントが削除される。
  • 2018年11月14日、人権活動家の潘細佃さんに行政処罰。15日間の行政勾留とツイッターアカウントの削除。
  • 2018年12月28日、広東省韶関市の朱雲楓さんに罰金1000元の行政処罰。
  • 2019年1月4日、重慶市の人権活動家・黄成城さんが公安に呼ばれて8時間の取調べ後釈放。以後ツイッターへのアクセスはなし。

ようやく「流れ」がハッキリと見えてきたように思います。

つまり、この数日「中国のVPNを使ったら行政処罰」で我々が見ていた「行政処罰の事例」は、習近平の人権派弾圧の一環であり、腹心の林鋭が中央入りし、網安の部長助理⇒副部長になる過程で強化された「人権派ツイーター弾圧」ではないでしょうか。

※そういえばFBはどうなっているのか?と思いましたが、FBにも潘細佃さんのアカウントはありまして、あちらは健在でした。目下、FBの方は網安の「清網行動」の対象にはなってない可能性があります。

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我々はどうすればいいのか?

今までの情報を元に、考察を述べますと

  • 中国でVPNを使ったら行政処罰」とか、「中国のツイッター利用者は公安が呼び出し」というのは、習近平の意向を受けた林鋭が網安に入ってから始めた「清網行動」の一環である可能性が高い。
  • 韶関市の朱雲楓さんは、人権活動とは無関係のように思われるが、ケータイでVPNを使いまくっていたため「清網行動」の捜査対象となった可能性が高い。
  • 「清網行動」の捜査は林鋭の網安入り(2018年6月)以後から始められ、「取り調べ」による恐喝⇒アカウント削除や行政処分は、林鋭の昇格(同年11月)以後から始まったものと思われる。
  • 現在も「清網行動」は継続され、対象人数も増えている。
  • 違法なVPNの利用、ツイッターでの書き込み内容が、網安の捜査の手がかりとなっている。
  • 「清網行動」は基本的に、人権派弁護士や活動家を対象としたものだが、たまに朱雲楓さんのよう人権活動とは無関係の人も疑われて対象になってしまう。
    ※朱雲楓さんについては人権活動との関連性が全く報道されていないのと同時に、「1000元の罰金」という処罰であったため、これは営利目的の場合の処分であり、人権活動とは無関係と思われます。
  • 現段階で、外国人が「清網行動」の対象になったという事例を確認していませんが、その対象に絶対にならないという保証もありません。

「清網行動」で適用される法律

こうやって書き立てると、不安を煽っているように見えるかも知れませんが(大陸にいる時に、こんなブログ記事読んだら、私だって眠れなくなりますw)、いままでの事例で考えると、清網行動で適用される法律は2種類です。

  1. 《中華人民共和国計算機信息網絡国際連網管理暂行規定》…違法VPNによるアクセスでひっかけるヤツ。朱雲楓さんと黄成城さんのケース。朱雲楓さんは営利目的(と思われる)で罰金刑。黄成城さんは非営利であったため「警告」だけで済み、VPN使用&ツイッター利用は自粛。
  2. 《中華人民共和国治安管理処罰法》…潘細佃さんのケース。こちらはデマの流布とかで引っかかるものですが、よく読むと潘細佃さんは26条で引っかかっており、26条は4項目あるのですが、これは「いいがかりをつけて騒動を起こした場合」を適用されていると思われます。詳しくは下記のPDFを御覧ください。
    【中華人民共和国治安管理処罰法】

    https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20050828_rev.pdf

だから、中国で違法VPN経由でツイッターをやっていたからといって、それだけで捕まって刑務所に数年入れられるとか、死刑になるとか、そういうことはありません。

ただ、上でも述べたように、これらは「習近平の人権派弾圧」の一環であり、段階的に拡大しているSNS弾圧でもありますから、今後その範囲が更に拡大され、外国人に適用されないとも限らない。今後の動向を注意深く見ておく必要があると思います。私の方でも今後は注意して見ておきますので、何か進展がありましたら、ツイッターかこちらのブログにてお知らせするつもりです。

▲こちらは私が以前使っていたもので、参考まで掲載しておきます。他にも種類があり、アマゾンで「香港 SIM」で検索すればいろいろ出てきます。この手のSIMの大陸内での使用は違法ではありません。

私は香港で購入し、日本でも使っているスマホにSIMを挿して、香港でも使えましたし、そのまま中国に入っても何も操作せずにそのまま使えました(機種によって違うかも知れません)。中国に入ってもツイッターやFBが使えました。こちらのSIMは電話回線なしで、データ通信のみです。この手のSIMは電話回線+データ通信のものと、データ通信だけのもの、使用できる期間の違いなどもありますので、購入時には注意してください。