黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

なぜ中国の国歌を個人の葬式で使ってはいけないのか?

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 6月22日に中国当局が発表した、国歌の演奏、歌唱、放送などの使用に関する監督管理規定草案の中に、

個人の葬儀など「不適切な場所」での国歌の放送を禁止

 という項目があるそうです。

「個人の葬儀」?

日本人からすると、奇妙な感じがします。

なぜこういう禁止条項があるのでしょうか?

▲ニュースの原文をひっぱってきました。

同时,草案规定,不得在私人丧事活动等不适宜的场合奏唱、播放国歌;国歌不得用于或者变相用于商标、广告、公共场所使用的背景音乐。

 ▲ここが問題の箇所ですね。

個人の葬儀」は中国語で、「私人丧事」(私人喪事)と書きます。

特に理由の説明はないようです。

国旗法を見てみると…

国歌と並んで、国旗も同時に扱われることが多いので、中国の国旗についての取扱いを定める「中華人民共和国国旗法」を見てみます。

▲この第18条に

第十八条 国旗及其图案不得用作商标和广告,不得用于私人丧事活动。

 とあります。

国旗及びその図案は商標や広告に用いてはならず、個人の葬儀にも用いてはならない

と書かれています。

これから読み解くと、第18条は、国旗の商用目的使用や、個人の使用…つまり国家以外が公的ではない目的で国旗を利用することを禁じているわけです。

一般的に、「国旗を用いる葬儀」といえば国葬にあたり、その対象は高位の政治家や公務員、兵士、警官、消防などの公安職の人が公務中に亡くなった場合などになりますから、ようするに、個人が勝手に国葬みたいなことをやるな…という意味合いがあるのかと思います。

今回、提出された国歌法草案も、この国旗法に準ずる形で、考えられたものなのでしょう。

義勇軍行進曲

ちなみに、中国の国歌は『義勇軍行進曲』というものです。

YOUTUBEに日本語訳の歌詞テロップがついたのがありましたので貼っておきます。

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なぜか法整備が遅れている中国の国歌法

中国の国旗法は1990年に制定、国徽法は1991年に制定されているので、既に20年以上前に出来ているわけですが、国歌法はまだなく、2017年の6月に草案が出来たばかり…なぜ、こういうことになっているのでしょうね?

先に申し上げておくと、1982年に中国共産党宣伝部が発行した「关于中华人民共和国国歌奏唱的暂行办法」(関于中華人民共和国国歌奏唱的暫行辦法)というのがありまして、これが現在、中国で国歌の演奏に関する取り決めになっています。

でもなぜ1982年?

この経緯をさかのぼって、時間順で説明すると…

  • 1935年、『義勇軍行進曲』は抗日プロパガンダ映画の主題歌として作られ、抗日歌曲として民間に浸透。
  • 1949年、中国人民政治協商会議で、正式な国歌が制定されるまでの暫定的な国歌として『義勇軍行進曲』が選ばれたが、別の正式な国歌は制定されなかった。
  • 文革期間中、『義勇軍行進曲』の作詞者・田漢が迫害されたため歌われなくなり、毛沢東を讃える歌『東方紅』が事実上の国歌として扱われた。
  • 1978年、文革終結後、『義勇軍行進曲』が国歌として復活。
  • 1979年、田漢の名誉が回復される。
  • 1982年、『義勇軍行進曲』の歌詞が元々のものに戻される。(ここで中共宣伝部の「暫行辦法」が出て来る)
  • 2004年、中華人民共和国憲法が改正され、『義勇軍行進曲』が国歌として明記される。
  • 2017年6月22日、国歌法草案が提出される。

ようするに、

  • 元々は『義勇軍行進曲』は国歌じゃなく、映画の主題歌だった。
  • 中華人民共和国成立後、とりあえず正式な国歌が決まるまでの暫定国歌であった、
  • 文革で『義勇軍行進曲』の作詞者が迫害を受け、党籍剥奪されたため、別の歌が国歌の扱いに。
  • 文革終了でとりあえず『義勇軍行進曲』が国歌に復活
  • 2004年に憲法改正で正式な国歌となる前は「暫定国歌」だったと思われ

…というわけで、そもそも国歌じゃなかったものを暫定的に使っている内に、文革で混乱し、憲法上の正式な地位を得るまで時間がかかった…というのが、中国の国歌法がまだ制定されていない理由のようです。

田漢 聶耳 中国国歌八十年

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