黒色中国BLOG

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【中国の水質汚染問題】幻の「上海の地ビール」を探して

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togetter.com

今朝、フォロワーの方からの質問に答えていたら、まとめを作ってもらえました。ありがとうございました。

このテーマは、中国の環境、水需要、そして日本の国土保全、安全保障、環境問題…とかなり広範囲の問題になりますので、それほど単純に語り尽くせる話ではないのですけど、手短に言えば「まとめ」の通りです。

但し去年、上海近郊で「」の件が気になってちょっと調べに行ったことがありますので、こちらに「蛇足」してみようと思います。

上海近郊に水のキレイな場所を探して

私は釣りが好きで、中国で「ガンユイ」という魚を狙っております。上海近郊にもいるんですけど、水がある程度キレイなところでないと生息していません。

【参考】ガンユイ - Wikipedia

この魚を釣る「ポイント」は、現地の人に聞く他、ほとんど情報がありませんが、アチコチ聞き込みをしていると、意外なところでも釣れる、釣れた、という話を聞くことがあります。

我々日本人は、日本のマスコミの影響もあって、中国は全土がヒドイ汚染状態で、川は七色で、汚染物質満載で、ありとあらゆる魚が死に絶えている…と思いがちですが、上海の近郊でも、中心部からクルマで1~2時間ぐらいの場所に水がキレイな場所があったりします。

それと、最近は工場が別の、人件費の安価な地方に移転したり、上海近郊で不動産開発が進んだため、環境改善の取り組みが行われている。すると、意外なところにガンユイがひょっこり現れて釣り人の噂になる…ということがあるのです。

そこで、上海近郊でガンユイを探そうとしたら、地図とにらめっこして、池とか川のあるところを探して、そこの水質がどういう状況か、農業が行われているのか、以前は工場があったのか、現在の状況はどうなのか…というのを調べるわけです。

ブドウ生産が盛んな馬陸

上海の北の方に「馬陸」(マールー)という地名の場所があります。ここはブドウが有名で、今でも生産をしています。上海の中心部、人民公園からクルマなら1時間ぐらいの距離…27km程度ですけど。1つの目安として、馬陸は葡萄が作れるぐらいに水が良い…ということでしょう。

ただし、馬陸について聞き込みをしていると、以前は工場があったとか、それを壊して最近、住宅地にしたとか、土壌汚染の問題がある…という地元の人の情報が得られました。

そこで、私は更に北の、上海の外れに目を向けました。

幻の「上海の地ビール」を探して

馬陸の更に北を見ると、地図上に変わった地形が見えました。

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自然に出来たとは思えない水路ですね。上海の近くには漁業や農業や水運のために張り巡らされた水路がたくさんありまして、第二次上海事変の話によく出てくる「クリーク」というのがこれらの水路のことです。地図で見る限り、嘉定鎮のこの一帯は、以前栄えた水郷である可能性が高い。

そういえば、かなり前に、上海の近郊で良い水が出る場所があり、その水を使った地ビールを生産している…という噂を聞いたことがありました。

https://web.archive.org/web/20181109062511/ttp://www.geocities.jp/mkiyo111/katei/kateil.htm

▲こちらのホームページに、写真付きで記録がありますね。但し「2002年6月12日」の記事ですから、今から既に14年前ですが…

そこで、釣り場を探す手始めとして、まずはその「地ビール」を飲みに行こうと思ったわけです。

今でも意外と水がキレイな嘉定

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▲地下鉄とバスを乗り継いで着いた嘉定鎮。先ほどの円形水路のちょうど中心部あたりです。

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▲なんでもない普通の道ですが、上海の郊外の割に、キレイというのか、清潔感があるというのか、停まっているクルマとちゃんと洗車している様子を見ても、街全体に「金がかかっている」印象ですね。他の郊外だと、もうちょっと殺伐とした印象のところもあるんですけど、嘉定は一味も二味も違います。

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▲川が見えました。上海には、もっと黄色くて、変なニオイがして、どうしようもないドブ川がたくさんありますけど、ここの川は嫌なニオイがしませんでした。水面を見る限りキレイな感じ。このボートの2人は何をしているのかと思ってずっと見ていたら、川魚漁師で、網を張っているところでした(!)。

上海では、滅茶苦茶に汚い川でも、魚を捕る人はいるので、漁師がいるから川はキレイ!とは言えないのですけど、実際見る限りはかなり好印象の川です。

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▲ついに着きました!上掲のホームページにもあった「龍飛飯店」。先ほどの川の近くでした。

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▲店員さんに、地ビールがあるか聞いてみましたら…「今はない」との返答。詳しい事情を伺ってみると、

  • 数年前にビールの生産設備は全て処分した。
  • 理由は水質汚染とは無関係で、自家生産が割に合わなくなったから。
  • 嘉定でビールを生産していたのは、ここだけではなく、他に幾つかあったけれど、他も全部やめた…たぶんやめていると思う。そのうちのどこかで、まだ生産設備が残っているかも知れない…まだちょっとは作っているかも知れないけど、この店では知らない。たぶん作ってないと思う。

…というお話でした。

上掲のホームページの記載が2002年のことでしたけど、ちょうどその頃から中国ではビール会社の競争が激しくなって、激安のビールがたくさん出ていました。私もこの頃に、安い火鍋屋で1本1元のビールとか飲んだことあります。そういう価格競争のせいもあって、自家生産のビールは、割に合わなくなった…ということでしょう。

現在の嘉定鎮の水質が、厳密にはどれぐらいのものなのか、私は知りませんけど、この付近でガンユイが釣れるのは確かな話で、実際に釣り上げた人からも写真を見せてもらったことがあります。

「格差」と「水」

日本の中国報道を見ていると、中国は全土がくまなく汚染された死の世界で、まともに飲める水はない…みたいな話になっているので、水源地乗っ取りみたいな話が出てくると、集団ヒステリーを起こす人が出現するのでしょうけど、上海の近郊でも、嘉定鎮のような場所があるぐらいですから、それほど深刻なわけでもありません。

私の上海の友人でも、ミネラルウォーターやら蒸留水を買わず、濾過器も使わず、水道水を沸かして飲んでいる人はおります。

その一方で、中国は貧富の差が激しいですから、わざわざ日本の水を買いたいというお金持ちもいる。

▲だから、水の対中輸出に取り組む日本企業もあるわけですが、これらの経緯や、中国の現状を知らずに、中国人が日本の水源地を乗っ取るぞ!と大騒ぎして「政争の具」とするのは、極めて無駄なことではないでしょうか。

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