留学して、中国で生活を始めた頃、町中で色んなものを食べたけれど、その時になんとなくモヤモヤとしてスッキリしなかったけど、後々気付いたことの1つとして、中国で「餅」と名のつくものは、日本のいわゆる「モチ」とは違うということ。
▲こちらは「韭菜餅」(ジュウツァイビン)と言って、皮は小麦をコネたものだ。中にニラが入っている。たくさんの油の中に半分泳がすようにして焼く。食べると中のニラがしっとりとして、良い香りがする。ニラの香りと味が染みこんだ皮がこれまた素晴らしい。
これの焼きたてのものを店先で食べるのが一時期、私の上海の朝の楽しみであった。
辞書を見ると、
【饼(餠)】小麦などの粉を練って円盤状にして焼いた食品
…とある。
だから、中国語で「餅」とは形状のことで、モチ米を使った食品のことを意味しない。ちなみに中国語でモチ米を使って作った「モチ」のことは「年糕」(ニィエンガオ)という。
▲こちらはネギが入った「葱油餅」 (ツォンヨウビン)。これも先程の「韭菜餅」とほぼ似たようなもの。ネギの風味が素晴らしい。
上海では、朝に町のあちこちでさまざまな朝食を出す店を見かけるけれど、昼や夜には一体どこにいったのか、朝に見た店が見えないことがある。朝の時間帯だけ朝食を出す店とか、店先を借りているという人たち、もしくはリアカーや三輪自転車で売りに来ている人がいるのだ。
下町だからこそ出来た朝食三昧の日々
昔、上海の下町に住んでいた時には、朝は早起きして散歩がてら、小さい店や屋台を巡った。たまに調子にのって朝メシの「ハシゴ」をして2つも3つも店をまわったこともあった。
どの店も似たようなものを出しているのだが、店によって味に個性がある。だから、朝から少し遠出もしながら、1つ1つの店の味を確かめて見たくなったのだ。
▲これは名前がわからない。小麦粉で作った皮の中に砂糖が入っている。中国のネットで探してみると「白糖餅」(バイタンビン)というのがある。
完成した姿がちょっと違うけど、作り方から見てこれみたいなので、とりあえず「白糖餅」と呼ぶことにする。
砂糖入りの「餅」を窯の内壁に貼り付けて練炭で焼く。焼きあがると、皮はパリパリして少し練炭のニオイがするけれどそれが香ばしくて良い。私はいつも少し焦げたのを選んで買った。
中の砂糖はザラッとした食感で、口内に含んだ瞬間は砂のようであるけれど、加熱されて水分が飛んでいるせいか、甘みが引き立っている。一口食べると、朝の寝ぼけた脳に、この濃厚な甘味が突き刺さるように染みこんでくるのだ。
私はどこにいても朝は自分でコーヒーをドリップして飲む。今まで朝のコーヒーの時に、色んなパンやらクロワッサンやらビスケットやらを試してきたけれど、この白糖餅に勝る「コーヒーのアテ」は1つとしてないと断言する。
これは中国の食文化バンザイ!という話ではなく、こうした手作り・焼きたての「本物」が、家の近所で早朝から買えるからこそ成立する「美味」なのであろう。