黒色中国BLOG

中国について学び・考え・行動するのが私のライフワークです

中国軍艦の領海侵入関連情報まとめ

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防衛省は15日、中国海軍の艦艇が鹿児島県の口永良部島周辺の領海に入ったと発表した。同海域の領海に中国艦が入るのは初めて。中国艦はすでに領海を出ている。自衛隊に対して海上警備行動は発令されていない。政府は警戒監視を強めて情報収集を進めるとともに、中国の意図の分析を急いでいる

この件でネットは随分騒がしくなっていますが、詳細がよくわからないので、こちらで情報を整理してみようと思います。

【目次】

場所:鹿児島県の口永良部島周辺の領海

屋久島の西方ちょっと北寄りの12kmの地点にあるのが口永良部島です。近くには種子島もありますね。「口永良部島周辺の領海」とは具体的にはどのあたりになるのでしょうか…

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▲こちらは、海上保安庁の特定海域を説明するページに掲載されている大隅海峡の図です。赤線で囲まれているのが日本の領海。屋久島の左上に口永良部島が見えます。

九州本島と種子島・屋久島・口永良部島の間にあるのが、大隅海峡で、ここは国際海峡となっています。

中国の情報収集艦が通過したルートを検証

たぶん、中国海軍の情報収集艦は、大隅海峡を通過する際に、口永良部島の北部のもっこり膨らんでいる領海を通過したのかな…と思ったんですけど、冒頭で紹介した産経の記事の続きをよく読むと…

口永良部島西方の領海を南東に進むのを海上自衛隊のP3C哨戒機が上空から確認した。同艦は約1時間半後の午前5時ごろ、鹿児島県の屋久島(鹿児島県)南方から領海を出た

つまり、これを地図上に再現すると…

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位置に関してはアバウトですけど、中国の情報収集艦が通過したルートはこんな感じになります。つまり、日本の領海を堂々と確信犯的に横切っている状態ですね。何かの間違いでちょっと入りました…という状態ではありません。

何のための領海侵犯だったのか?

 ▲こちらはヤフー香港のニュース。

 中国海軍の情報収集艦は、インド艦艇2隻を追尾している間に、一緒につられて日本の領海を通過してしまった…ということなのでしょうか。

たぶん今回、共同訓練をしている日米印の海軍は、中国の情報収集艦が追跡してくるのを知っていたので、敢えて日本の領海を通過するルートを通ってみたのではないのかな…と想像したり。でも、中国海軍の情報収集艦はノコノコ一緒について来てしまった。

日米印共同訓練:インド海軍の参加艦は?

上掲のニュースによれば、中国海軍の情報収集艦は、インド海軍の艦艇2隻を追尾していた可能性がある…とのこと。まずはインド海軍の参加艦を調べておこうと思います。

ニュース | NCC長崎文化放送 | デジタルは5ch

▲こちらのサイトの2016年06月10日の「インド海軍が佐世保入港」というニュースの中に4隻の艦名がありました。ただし、ここのニュースページは後で引っ張り出してくるのが面倒そうなので、スクショを取っておきました。

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日米印海上共同訓練「マラバール2016」に参加しているインド海軍の艦船は東部艦隊の

  1. フリゲート艦「サツプラ
  2. フリゲート艦「サーヤディリ
  3. コルベット艦「キルヒ
  4. 補給艦「シャクティ

…となります。

中国海軍の情報収集艦は、この内のいずれかの2隻を追尾していたことになります。一体どの艦になるのでしょうか…

日米印共同訓練:インド海軍参加艦の情報

▲こちらを参考に、今回の日米印共同訓練「マラバール2016」に参加しているインド海軍の艦艇の写真と各情報へのリンクをまとめてみました。

中国海軍の情報収集艦が追尾していた2隻とはどれでしょうか…

シヴァリィク級フリゲート艦「サツプラ」

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シヴァリィク級フリゲート「サーヤディリ」

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By Saberwyn - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=28866436

※日本語表記では「サヒャディ」とも書くようです。

 コーラ級コルベット艦「キルヒ」

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▲写真は同型艦の「クリッシュ」

ディーパク級補給艦「シャクティ」

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国連海洋法条約が規定する「航行の自由の原則」に適合するのか?

中国国防省からは、このような発表がありましたが、国連海洋法条約19条2項には次のように記されています。

第19条 無害通航の意味
2 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。
a.武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
b.兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
c.沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
d.沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
e.航空機の発着又は積込み
f.軍事機器の発着又は積込み
g.沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通常又は人の積込み又は積卸し
h.この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
i.漁獲活動
j.調査活動又は測量活動の実施
k.沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
l.通航に直接の関係を有しないその他の活動

今回の中国海軍の情報収集艦の領海侵犯は、国連海洋法条約19条2項のcjlに該当する可能性があるようです。

領海侵犯を行った中国海軍の情報収集艦とは?

冒頭の産経の記事では「ドンディアオ級情報収集艦」とだけしか書かれていませんでしたが、防衛省がメディア向けに公開した写真によれば、艦艇番号は「855」であることが判明。

▲こちらに855のことは書かれていません。

▲こちらにも855は書かれていません。

▲こちらにようやく現れましたが…

■艦名不詳(#855):

…としかありません。

▲こちらは去年11月13日の中国のニュースで、「我が855電子偵察艦が初めて尖閣諸島海域を巡航、日本のP-3Cが警戒監視」という内容。ここに855の情報が掲載されていましたので以下に要訳します。

  • 855艦は、滬東造船廠にて建造、2014年3月進水。815G型電子偵察船に属す。
  • 現在のところ、855艦の排水量について信頼できるデータはない。
  • 日本では、855艦の満載排水量を6096トンとしている。
  • 37ミリ機関砲1門、14.5ミリ機関銃を2門装備している。

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▲こちらは前掲の中国のニュースに貼られていた防衛省のウェブサイトのスクショと思われ。

▲元のページはこちらですね。

最下行に「※855については、JANE'S FIGHTING SHIPS ’14~’15に記載なし」とあります。

ちなみに、6月15日は習近平の誕生日でした

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国家主席の63歳の誕生日に、中国海軍は日本領海侵犯のプレゼントでお祝い…というところでしょうか。

▲こちらはインドのモディ首相が微博(中国のSNS)で習近平国家主席の誕生日をお祝いした…という中国のニュース。

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▲「習近平主席、あなたの誕生日を祝福致します。百歳の長命を願います。健康でありますように」とのメッセージです。

領海侵犯海域に対する中国の歴史的な見方

私がブログやツイッター、FBでヘッダー画像に使っている古地図は『中華疆界変遷図』と言いまして、1930年代に中華民国が中学校教育で使っていたものです。

現在、南シナ海で揉めている島嶼も、1930年代に中華民国が正式に中国の領土としたものが少なくありません。

1911年に辛亥革命で清朝を倒し、中華民国が成立しましたが、その後もしばらく不安定な状態が続き、蒋介石が北伐に成功した後、1930年代になってから「近代国家」として歩み始め、「中国の領土とはどの範囲なのか」を意識し始めたのでしょう。

現在の中国が「侵略」をする時に、「領土完整」という言葉を使いますが、これはすなわち「完全に整う」ということで、「失地回復」の意味合いがあります。では、「失地」は何処になるのか?これは完全にイコールとは言えないのですが、中華民国が制定した『中華疆界変遷図』は、中共の『領土完整の青写真』と言ってもいいと思います。

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▲その『中華疆界変遷図』で九州の周辺を見ると、このようになっています。「一八七九年為日占」(1879年日本が占領)と書かれており、

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境界を示す赤線は、屋久島の下あたりを通っています。

▲中国のウィキペディアみたいなもので、「百度百科」というのがありますが、こちらの「琉球群島」の記載によれば、

  • 琉球群岛位于东中国海上,呈东北西南向,包括大隅群岛、吐噶喇群岛、奄美群岛、冲绳群岛、宫古群岛、八重山群岛等(琉球群島は東中国海に位置し、東北から西南に向けて、大隅群島、吐噶喇群島、奄美群島、沖縄群島、宮古群島、八重山群島などを包括する
  • 历史上,琉球群岛曾长期属于中国的势力范围(歴史上、琉球群島はかつて長期にわたり、中国の勢力範囲に属していた

…と説明されており、今回、中国海軍が領海侵犯を起こした海域の口永良部島や屋久島も「大隅群島」に入ります。

これらの中国側の歴史解釈を考えると、中国政府や中国海軍は、そもそも日本の南西諸島の一帯を、中国の領域と認識し、今回の領海侵犯の背後には、そういう歴史認識があったのかも知れません。

日本外務省の対応

 今回の領海侵犯は、政府でも、ネットでの反応を見ても、かなり警戒感が強いように…少なくとも私はそう思うのですが、最終的な外務省の対応としては、「電話で懸念を伝えるにとどめた」だけみたいです。

外交ルートで厳しく言っても、おとなしく従うような中国ではないので、それ以外の分野で対応を厳しくするしかないわけですが、抗議が「電話で懸念」だけでは、軽すぎると思うのは私だけでしょうか。

海底図作成が目的か

 ▲こちらの記事には、

口永良部島は中国が防衛ラインと位置付ける第1列島線上に位置する。自衛隊幹部は「第1列島線を越え、(小笠原諸島と米領グアムを結ぶ)第2列島線まで勢力圏を拡大しようという思惑が見える」と分析する

…という説明もあります。

領海侵入から1日過ぎて、16日の午後には

同じ情報収集艦が北大東島周辺に出没しております。昨日の領海侵犯ではインド艦艇を追尾していたという情報もありましたが、それに限らず広範囲にあの周辺海域の情報を収集しているようです。

※この記事は随時更新です。新しい情報が入り次第追加します。

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