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【考察】『黄海上空で中国機が米軍機に異常接近』の真相を探る

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 昨晩、ツイッターで話題になったニュースである。見出しだけを読むと、中国軍機が無茶をやらかしたような印象であるが、本文をちょっと読んでみると、「あれ?」と思わされる内容になっている。

米国防総省のクック報道官は22日の記者会見で、中国・山東半島の東約130キロの黄海上空で15日に中国の航空機が米軍の電子偵察機RC135に異常接近し、同機の前方を「危険」な形で横切ったことを明らかにした

 「山東半島の東約130キロの黄海上空」…どうしてそんなところに、米軍の電子偵察機が飛んでいたのだろうか?本文を読み進めると「現場は黄海上空の国際空域」とあるけれど、領土から130kmの地点は「国際空域」なのか?そこで、詳しく調べてみることにした。

国際空域とは? 

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▲ウィキペディアで

排他的経済水域 - Wikipedia

を調べると上の図が出てくる。

「12海里」は約22.22km。

「200海里」は約370kmである。

米軍機は山東半島の東130kmの上空を飛行していたというから、排他的経済水域をかなり深く入りこんだところにいた。

排他的経済水域での通航は、『海洋法に関する国際連合条約』で保証されているので、これが「国際空域」という解釈になるのだろうか。

 ■まったく成立しない「中米軍用機衝突」事件についての米側の口実(中国網)

▲こちらは中国外交学院国際法研究所の劉文宗教授が書いたもの。2001年の海南島事件についての中国側の法的な見方をまとめたものだが、この中に今回の「異常接近」を紐解く重要な指摘がある。長いけど引用してみる。

一、中国の排他的経済水域の上空は「国際空域」ではない

アメリカ当局の言い方によれば、米軍機はいわゆる「国際空域」を飛行していたのだから、勝手気ままなことができることである。アメリカのこの言い分は成り立たないものである。いわゆる「国際空域」は普通は公海の上空を指すものである。この事件は中国の海南島近くの排他的経済水域の上空で発生したことで、まったく「国際空域」ではない。

1982年の「国連海洋法条約」第86条では、公海は「排他的経済水域、領海、内陸河川あるいは群島国の群島水域内のすべての水域を含むものではない」と明確に規定されている。同条約が発効してからは、排他的経済水域は公海の一部分でなくなり、その上空もいわゆる「国際空域」ではなくなった

同条約の第58条第1項では、すべての国は排他的経済水域の上空において「飛行の自由」を享有していると規定されているにもかかわらず、第3項ではすべての国は飛行の自由を行使する場合、「沿岸国の権利と義務を考慮し、また、この部分の規定に反しない限りにおいて、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を順守する」と規定されている。

ここに言及されている「沿岸国の権利と義務を考慮する」ことは、第301項で規定されている締約国は同条約に基づいてその権利を行使する場合、「いずれの国の領土保全もしくは政治独立に対して、武力による威嚇や武力の行使を行ってはならず、また「国連憲章」に記載された国際法の原則に該当しない方式で武力による威嚇や武力の使用を行ってはならない」ことである。

すなわち、外国の飛行機は沿岸国の主権と国防の安全を侵犯してはならず、沿岸国の軍事情報を偵察することを含めた「飛行の自由」に該当しないすべての不法活動に従事してはならず、その領土の保全、平和の秩序と政治の独立を損なってはならない、とされているのである。

また、第58条では、沿岸国は排他的経済水域に対し、この部分に反しない限り、法律・規則を制定することができ、その上第56条に基づき、沿岸国は排他的経済水域において関連権利、管轄権、義務および同条約で規定されている他の権利と義務を有すると規定されている。

要するに、沿岸国が排他的経済水域に対し制定した法律・規則とすべての権利、管轄権、義務はその上の空域に及ぶべきものである。「国連海洋法条約」のこれらの規定は公認された国際法準則になり、いかなる国も加入するかどうかを問わず、必ず順守しなければならない。

今回の中米軍用機衝突事件の発生の根本的な原因は米国が国際法の関連規定を無視し、「飛行の自由」を乱用し、中国の軍事情報を収集しようと企み、中国の内政に干渉し、中国の領土主権を侵犯しようとした卑劣なねらいにある。

 ようするに、米国は「排他的経済水域」を「国際空域」と言い張って、電子偵察機を接近させているわけで、これを阻止しようとする中国側としては、実力行使によって排除するほかない…という状況のようだ。

この手の米中間での軍用機の衝突、ニアミスはたびたび発生しているが、両国は国際空域に対する考え方が違うのがその原因の1つになっているのだろう。

米軍機は何を偵察していたのか?

今回、米軍の電子偵察機が飛行していたのは山東半島の付近である。あんなところに、何を「偵察」に行っていたのだろうか?

山東といえば、この夏に続発した化学工場爆発の現場が幾つか含まれる地域である。そして、

▲山東省済南市には、「ハッカー育成学校」として疑われる専門学校があり、ここは「中国軍と関係が深く、米企業へのサイバー攻撃の発信源となっている」という話になっている。

そういえば、時同じくして行われている米中会談では、

 ▲中国のサイバー攻撃が協議の対象となっている。何か関係あるのだろうか?

▲そこで、中国側の報道で何かないか…と探していたら、「米軍のRC135はなぜ頻繁に中国を偵察するのか?:目標は第二砲兵部隊の核兵器」というタイトルの記事を見つけた。この記事から重要箇所を抜粋して訳してみる。

  • 以前から、在日米軍のRC-135偵察機は、いわゆる東シナ海の日中中間線の西側の民用航線周辺で対中偵察活動を行っていた。
  • 米軍は今年5月より、沖縄嘉手納基地に少なくとも三種類の重要な戦略偵察機を集結させていた。
  • 嘉手納基地にいたのは米空軍第82偵察中隊である。
  • 主に配備されていたのはRC-135V(信号情報収集機)。この偵察機は240kmの距離内にある電子信号を収集可能である。
  • 米空軍第82偵察中隊には、RC-135S(弾道ミサイルの光学/電子情報収集機)も配備されていた。この偵察機は418km離れたミサイルの発射地点を精確に特定し、ミサイルエンジンの消火点、軌道、着弾点を精確に算出することが出来る。
  • 最後の1機はWC-135(大気収集機とした偵察機)である。これは核兵器用の偵察機であり、精密特殊なフィルターとサンプラーによって大気中の放射性粒子を収集し、核兵器の爆発量、核兵器の製造状況を調べることができる。

…以上のような内容で最後は、「中国が少しづつ新兵器を披露し、9月3日の軍事パレードでも新型の弾道ミサイルを公開したため、米軍は中国への偵察を強めている…中国はそれを阻止せねばならぬ…」と締めくくられている。但し、これはあくまでも中国の報道。真に受けるわけにはいかない。

米軍機の偵察範囲

先ほどの中国語記事の情報を改めてまとめると、

  • 米軍機は今年5月から偵察機を嘉手納基地に集結させ、対中偵察の準備をしていた。偵察機は、電子信号の収集、ミサイルの観測、大気収集を目的とした3種類である。
  • 時期は明らかではないが、今年5月から現在に至る前での間、これらの米軍偵察機は東シナ海の日中中間線の西側(つまり中国側)において偵察を繰り返していた。
  • 今回、山東半島の東130kmの上空で中国軍機に異常接近されたRC-135は、S、Vのいずれかは明らかでない。その時に、米空軍第82偵察中隊に配備されている3種類の偵察機の全てが同空域にいたのかも定かではない。

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▲「山東半島の東130km」とはどこのことだろうか?たぶん山東半島の北側ではなく南側ではないか。その中で山東省に最も接近できる範囲を考えてみたら、青島から130km離れたあたりではないかと考えた。そこから240km(RC-135Vの偵察範囲)に赤い線を引いてみたら、ちょうど威海市(山東半島の端っこ)までが入った。但し、これではサイバー攻撃の発信源とされる「ハッカー養成学校」がある済南には遥かに届かない。

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▲青島から130kmの地点を中心に半径418kmの範囲で赤線を引いてみた。RC-135Sならこの範囲内でのミサイルの発射状況を偵察できる。ただし9月15日に、この範囲内でミサイルが発射されるようなことがあったのだろうか?

ちょっと視点を変えてみよう。

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山東半島の東端から真っ直ぐ東に130km離れた地点を中心にして、240kmの範囲で赤線を引いてみた。RC-135Vならこの範囲の電子信号を収集できる。おっ!北朝鮮がその範囲に入ってきたではないか。

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▲同地点から418kmの範囲で赤線を引いたら、北朝鮮が半分近く入ってしまった。

そういえば…

▲こちらは9月17日の記事。内容を下記に引用してみる。

北朝鮮で韓国政策を担当する祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」は17日に掲載した論評で、北朝鮮は「人工衛星打ち上げと核実験の意思を明らかにした」と伝えた。ラヂオプレスが報じた。北朝鮮は15日に核実験の可能性を示唆していたのに続きあらためて明言した。「核抑止力の強化は正当な自衛的措置」だと主張した。

 北朝鮮は14日に長距離弾道ミサイルを発射する可能性を示唆したのに続き、15日には米国などが敵視を続けるなら「核の雷鳴によって応える準備ができている」と原子力研究院院長が発言していた。強硬姿勢を示して内部を引き締めると同時に、直接対話に応じない米国に政策転換を迫る狙いのようだ。

 米軍の偵察機が中国軍機に異常接近されたのが9月15日。であれば、米軍が偵察したかったのは、中国ではなく北朝鮮ではなかったのか。素人の推察では正確な答えを出せないが、今後も関連のニュースを注視したいと思う。

米中 世紀の競争 ―アメリカは中国の挑戦に打ち勝てるか

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朝鮮半島「核」外交―北朝鮮の戦術と経済力 (講談社現代新書)

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偵察機入門―世界の主要機とその運用法 (光人社NF文庫)

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